IN/OUT (2023.12.31) |
|
2023年もいよいよ終わり。大晦日が日曜日というのも、カレンダーは月曜始まり派としては、キリ良く感じます。 最近のIN上原ひろみ「ソロピアノ公演 “BALLADS”」@紀尾井ホール (23.12.28)上原ひろみのソロ公演を観に、紀尾井ホールに行ってきた。"SAVE LIVE MUSIC"の一環としてブルーノート東京で開催した“~BALLADS~”の再現とも言える企画だ。怒濤の“Sonicwonderland”ツアーを終えて、年末最後、バラード系の曲で締めるという趣向。ハイカロリーなご馳走の後の、上品なデザートと言うところか。 紀尾井ホールを訪れるのは、これが初めてだ。キャパ 800席のシューボックス形式の音楽専用ホール。天井には豪華なシャンデリア。小規模だがラグジュアリー感が高い会場だ。しかし、この公演、当然ながらチケット争奪戦は熾烈で、私の席は右サイドの2階席2列目。ピアノを真横から見下ろすポジションで、ひろみ嬢の姿は、前の人とバルコニーの手摺り越しに、ギリギリ視認できる。まあ、チケットが取れただけでラッキーである。 バラード縛りの公演ということで、黒の衣装に髪型の爆発も抑え目の、落ち着いたスタイルで登場。「Haze」から演奏スタート。大好きな曲なので、嬉しい。 アルバムではヴォーカル入り、“Sonicwonderland”ツアーではバンド形式で披露された「Reminiscence」を、今回はピアノ・ソロで。そして、「Whiteout」、「Blackbird」(バッハのカンタータのフレーズが効果的に組み入れられていた)、「Uncertainty」と、演奏が続く。繊細なタッチのピアニッシモの響きが美しい。しかも、このホールの音響は、ひろみ嬢に「いつまでも弾いていたい」と言わしめる素晴らしさだ。 「Nostalgia ~ Blue Giant ~ Place To Be」を、見事な構成でつなげて演奏し、本編最後は「Green Tea Farm」。会場に向けて「ありがとう」とひろみ嬢の口が動いているのがエモい。それにしても、今回のセット・リスト、つくづく、バラード系名曲揃い。ご本人はMCで「マニアックな企画」と言っていたが、どれもこれも、美しいメロディーと情感溢れるアドリブの展開で、聴き応え十二分だ。 アンコール。なんと、今日のために新たに書き下ろした新曲「Pendulum」を披露。タイトル通り、振り子のように揺らぎながらグイグイ展開していく良い曲。ライヴを重ねると、さらに進化していきそうで、今から楽しみだ。そして、ラストは「Auld Lang Syne」。たっぷりのジャズ・アレンジが施されたバラード版「蛍の光」である。演奏の最後には、童謡「お正月」のフレーズも顔を出して大団円。楽しい! これで、私の2023年のライヴ観戦は終了。最後が、ひろみ嬢の新曲と「蛍の光」というのは、本当に最高の締めくくりだった。 ”Perfect Days” (23.12.29)Wim Wenders監督の新作を観てきた。主演の役所広司が、第76回カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞し話題になっている作品だ。 Wim Wendersと言えば、1987年の「ベルリン・天使の詩」が、当時のサブカル界隈で大いに話題になり、リアル・タイムで私も観たのだが、全くピンと来ず、それ以来、かなりの期間、苦手意識を持っていた。2012年の"Pina"で、ようやく、監督の力量を素直に評価できるようになったのだが、果たして本作は? 役所広司演じる主人公は、公衆トイレの清掃員。朝起きて、歯を磨いて、髭を整えて、盆栽に水をやって、カセットテープで古い曲を聴きながら車で現場に向かい、丁寧に仕事をし、仕事帰りには銭湯と居酒屋で一杯。そして、読書しながら眠りにつくという判で押したような生活を繰り返している。ある意味、それだけの映画だ。 しかし、そんな生活にも、ちょっとした波乱は起こる。若い同僚の恋の悩みに振り回されたり、家出をしてきた親戚の少女が訪ねてきたり。仙人めいた世捨て人かと思われた主人公の実像が、実は、奥深い内面を持つ血肉を持った人間として浮かび上がってくる。それを、大袈裟に描くのでは無く、ちょっとしたエピソードの積み重ねで語るのは、監督の演出手腕と、役所広司の演技力があってこそだ。さらに、共演する柄本時生、田中泯、石川さゆり、麻生祐未、三浦友和、アオイヤマダ、犬山イヌコ、あがた森魚、甲本雅裕らが、皆、見事に適材適所。 ドイツの撮影チームが映し出す東京の町並みが、とても魅力的なのも、素晴らしい。やはり、Wendersは、ロード・ムーヴィーの達人だと思う。 なお、この映画は、優れた音楽映画でもある。主人公がカセットテープで聴く音楽が、涙ものの選曲なのだ。Lou Reedの“Perfect Day”、The Animalsの“The House of the Rising Sun”、The Velvet Undergroundの“Pale Blue Eeys”、Otis Reddingの“(Sittin’ on) the Dock of the Bay”、Patti Smithの“Redondo Beach”、Nina Simoneの“Feeling Good”、金延幸子の「青い魚」。他にも、The Rolling Stones、The Kinks、浅川マキ、Van Morrison、etc. 。Wim Wendersの趣味性に貫かれた渋めの名曲群が、いずれも、実に効果的に使われている。 さらに、主人公が読んでいる本が、ウィリアム・フォークナー「野生の棕櫚」、幸田文「木」、パトリシア・ハイスミス「11の物語」…。ペダンチックなラインアップが主人公の人柄をあぶり出すのも憎い。 地味な作品ではあるが、しみじみと滋味深く、予想を遥かに超える傑作だった。なお、早川書房は、現在、入手不可となっているパトリシア・ハイスミスの「11の物語」を直ちに大増刷すべきだと思う。この映画を観た人は、皆、読みたくなるはずだ。 「オラファー・エリアソン展:相互に繋がりあう瞬間が協和する周期」@麻布台ヒルズギャラリー (23.12.29)「街全体がミュージアム」をテーマとする麻布台ヒルズの文化発信拠点、麻布台ヒルズギャラリー。その開館記念の展覧会を観に行ってきた。 Olafur Eliassonの作品は、金沢21世紀美術館、原美術館ARC、国立新美術館などで観たことがあるが、テクノロジーを巧みに使ったキャッチーなインスタレーションは、どれも印象的だった。果たして今回は… 11月24日のオープンから一ヶ月。麻布台ヒルズは、かなりの人出だ。外国人観光客も目立つ。が、オフィス、住宅、医療施設、商業施設、学校などが入居する複数のビルとその間の広場から構成される巨大空間は、初めて訪れた者には迷宮だ。ギャラリーに辿り着くまで、かなり迷うことになってしまった。 会場に入ると、まずは「蛍の生物圏(マグマの流星)」。ガラスの多面体を収めた球体が回転し、内部でLEDライトが複雑に反射している、いかにもOlafur Eliassonらしい作品だ。 次の部屋には、「終わりなき研究」と題された観客が操作できる(事前予約が必要)振り子を組み合わせたドローイング・マシーンや、「ダブル・スパイラル」、「呼吸のための空気」といった立体作品、そして、壁には、ドローイング作品が展示されている。 暗幕をくぐって、隣の部屋にはいると、「瞬間の家」。暗闇の中、回転するホースが水を撒き散らしている。そこにストロボ光をあてることで、飛び散る水が光の粒のように見えるという趣向。ずーっと観ていられるインスタレーションだ。 展示はこれで終了。作品それぞれは興味深く鑑賞でき、満足はしたのだが、いかんせん、物量的満足感は低い。新規にオープンしたアート・スペースにしては、かなり狭いという印象で、これで1,800円はコスパが悪いかな。 ただし、ギャラリーから離れた森JPタワーのオフィス・ロビーに「相互に繋がりあう瞬間が協和する周期」と題された4つの立体作品が展示されている。こちらは、パブリックスペースにあるので、誰でも鑑賞できる。 麻布台ヒルズ内には、今後、さらに複数のアート・スペースが開業するようなので、要チェックである。もっとも、施設全体に漂う、富裕層&意識高い系の人向け、という雰囲気に疲れてしまうのが困ったところだ… 2023年を振り返る (23.12.31)さて、今年もいよいよ終わり。1年を振り返る。 例によって、矢野顕子と上原ひろみのライヴには、たっぷりと楽しませていただいた。
こうやって振り返ってみると、今年も、楽しい事が多い良い年だったかな。 以前は、世の中のカレンダーの大半が日曜始まりであることが大いに不満でした。しかし、紙のカレンダーを使う習慣がなくなり、PCやスマホの画面でスケジュール管理するようになると、週の始まりを何曜日にするか自分で設定できるので、そうした不満を感じることがすっかりなくなりました。業者から届くカレンダーも、ほぼ絶滅状態。それはそれで、ちょっと寂しいかな。 |