IN/OUT (2023.7.2) |
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今年もまた、降らないときはひたすら蒸し暑く、一旦降ると大雨、という荒っぽい梅雨が続きます。 最近のIN「『モルゴーア・ロック祭』プログレの嵐よ、築地に吹き荒れろ!~ モルゴーア・クァルテット 演奏活動30周年コンサート Vol.2」@浜離宮朝日ホール (23.6.28)荒井英治(元東京フィルハーモニー交響楽団 ソロ・コンサートマスター)、戸澤哲夫(東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 コンサートマスター)、小野富士(元NHK交響楽団 次席ヴィオラ奏者)、藤森亮一(NHK交響楽団 首席チェロ奏者)による弦楽四重奏楽団、モルゴーア・クァルテットの公演を観に、浜離宮朝日ホールに行ってきた。彼らの演奏活動30周年を記念したコンサートの一環である。 全員が超一流のクラシック音楽家。そもそもは、ショスタコーヴィチが残した15曲の弦楽四重奏曲を演奏するために結成された楽団だが、その一方で、プログレッシヴ・ロックもレパートリーに加え、これまで、プログレ・カヴァーの3枚のアルバムも発表している。過去53回開催されている定期演奏会は、基本、クラシックからの選曲だが、それとは別に、イベント的にプログレも披露する機会がある。私は、何度かその手のコンサートを観ているが、あくまでも、演奏曲目の一部がプログレというパターンだった。しかし、今回は、30年目にして初の、全編プログレだけのロック祭りなのである。
まずは、Genesis。そして、EL&P。荒井英治によるプログレ愛に溢れたアレンジと4人の卓越した演奏技量で、クラシックと融合したプログレの素晴らしい演奏だ。続く、Pink Floydは、原曲がオーケストラ入りの”Atom Heart Mother”が弦楽四重奏と相性が良いのは当然として、”One of These Days”のテクニックを駆使した演奏に驚愕。 20分間の休憩を挟んで、第二部はYesから。”Siberian Khatru”は、原曲に忠実な印象で、脳内でしっかり歌えるのが嬉しい。UKの”Danger Money”は、複雑なリズムと夥しい転調の難曲。荒井英治による「完璧なプログレ。このカッコ良さは、もう富士山! 八ヶ岳なんかじゃ無いよ」という、熱すぎて無茶苦茶な解説も素晴らしい。 そして、ラストはKing Crimson。私が偏愛する名曲”Red”も素晴らしかったが、”Lark's Tongues in Aspic Part,2”の超絶カッコ良い演奏が凄すぎた。ここまでで、大満足。 アンコールは、Genesisの”Afterglow”。意外に渋い選曲だ。 鳴り止まぬ拍手にアンコール その2。満を持して、King Crimsonの”21st Century Schizoid Man”! 原曲の隅から隅までを、完璧に弦楽四重奏に置き換えた熱い演奏。ただただ、カッコ良し! プログレッシヴ・ロックは、複雑なアレンジと長大な構成、技巧を凝らした演奏、そして、難解な歌詞といった要素で難しい印象を与えがちだが、実は、キャッチーで美しいメロディーを持つ曲が多い。そのため、クラシック系のアレンジはハマりやすいと思う。しかし、リズム・セクションもヴォーカルもいない弦楽四重奏で、いかにプログレ・サウンドを再現するか?彼らは、そこのセンスがすごいと思う。特殊奏法を繰り出したり、ギター・サウンドをヴィオラに任せたり、歌メロをチェロが担当したり。アイディアとそれを実現する技量の見事さ。本日演奏された曲は、ほとんどが1970年代前半の作品だが(多くのプログレ・バンドが、この短期間に超高密度でしのぎを削っていたという事実には、改めて驚く)、それを2023年の今、このような形で堪能出来るのが、実に楽しい。 ”Trinity Irish Dance Company”@東急シアターオーブ (23.7.1)芸術監督 Mark Howardが、世界中のダンス・音楽の要素を集結させた「プログレッシヴ・アイリッシュ・ダンス」の思想を元に、1990年に立ち上げたTrinity Irish Dance Companyの来日公演を観に、東急シアターオーブに行ってきた。"Michale Flatley's LORD OF THE DANCE"や”Riverdance”にハマって以来、アイリッシュ・ダンスは大好物なのである。 舞台は、後方に、フィドル、ギター & ヴォーカル、ベース、ドラムスの4人のバンドが並ぶだけで、他には特にセットのような物は無い。登場したダンサー陣は、男女とも、黒一色の身体にフィットしたアスリート的な衣装。始まったダンスは、上半身を動かさず、高速でタップを踏むという典型的なアイリッシュ・ダンスをベースにしながらも、もっとストイックで前衛的な印象だ。演目によっては、タップ・シューズによる音を封印。裸足で、手のひらで身体を叩くことでリズムを刻む。芸術表現として高みと新しさを目指しているのが伝わってくる。 20分間の休憩を挟んで、第二部。今度は、いかにもアイリッシュ・ダンスらしいタップをメインした動き。ダンサーの衣装もカラフルになり、第一部に比べて、ぐっとエンターテインメント色が強まる。個々の身体能力の高さを見せつけるタップと、大人数でのフォーメーションの巧みさの組み合わせで、ダンスをしっかり見せる趣向。やはり、私は、この第二部の楽しいパフォーマンスが好みだ。 私が観たのが昼の部だったせいか、この手のパフォーマンスにしては比較的アッサリしたカーテンコールで全編終了。かなり良い席を取ることができたので、ダンサー一人一人の表情もしっかり視認することができ、ダイナミックなダンスとアイリッシュ・ミュージックを堪能できた。 この、シンプルに身体表現を追求するスタイルというのは、2023年仕様の、モダンでプログレッシヴなアイリッシュ・ダンスだと思う。これはこれで素晴らしく見応えがあったのだが、旧世代の人間としては、大袈裟なストーリーや設定を持ち込み、舞台演出やバンド演奏に贅を尽くした”Lord of the Dance”や”Riverdance”の、過剰なゴージャス感に懐かしさを覚えたりもするな… 昭和の昔には、氷河期の到来が未来の脅威として語られていた記憶があるのだけど、まあ、それが現実化したとしても、今の温暖化との相殺で、丁度良い塩梅になるのかもと妄想する今日この頃です。 |