IN/OUT (2023.4.30) |
|
なんとなく、曖昧なままコロナ禍がフェードアウトしたような雰囲気の中、大型連休に突入です。 最近のIN"Holy Spider" (23.4.29)イランを舞台にしたサスペンス映画を観てきた。邦題は「聖地には蜘蛛が巣を張る」。気合いの入った邦題だ。 シーア派の聖地マシュハドで、娼婦を狙った連続殺人が続く。”Spider Killer”と呼ばれる謎の殺人者は、犯行の度に、犯行声明の電話を記者にかけ、マスメディアに報道させる。この事件を追ってマシュハドにやってきた主人公の女性ジャーナリストは、警察の捜査の鈍さ(聖地での娼婦殺人は、ある種、容認されているような雰囲気なのだ)に取材の限界を感じ、自ら囮になろうとする。 一方、犯人の正体は、早い段階で観客には明かされるのだが、特殊なサイコパスではなく、信心深く家族思いのおじさんだ。彼にとっては(そして、多くの市民にとっても)、娼婦を殺害することは街の浄化なのだ。 イスラム社会での女性の立場の厳しさが、そこかしこで描写される。主人公は、独身女性というだけで、行動が制限され、男性からは蔑視される。そのため、ピリピリした雰囲気を漂わせながらも毅然と振る舞わざるを得ないのは理解できるのだが、無謀な囮取材を敢行しようとするところなど、ちょっと、感情移入しづらいところもある。 物語の後半、市民の多く(その中には女性も含まれる)が、街を浄化しようとした犯人を熱く支持する姿が描かれる。これは、決して、イスラム社会特有のものではないし、ごく一部の人達の集団狂気と切り捨てることもできないだろう。女性蔑視や少数派への差別、それが正義の名目の元、暴力性を高めるというのは、今、世界中で起こっていることだ。 その恐ろしさが、ラストシーンに凝縮している。歪んだ正義感が拡大再生産されるリアルな恐怖を描くオチは、後味が良いとは言えないが、強烈。 2000年頃のイランで実際に起きた事件を元にした映画ということだが、普遍的な(自分自身が加害者側になる可能性だってある)テーマを描いた骨太な作品だ。 「ウェス・アンダーソンすぎる風景展 あなたのまわりは旅のヒントにあふれている」@寺田倉庫G1ビル (23.4.29)"The Darjeeling Limited"、"The Grand Budapest Hotel"、"犬ヶ島"などでお馴染みの映画監督、Wes Andersonの世界を体現したような風景写真を集めるSNS上のコミュニティ「Accidentally Wes Anderson」の写真を紹介する展覧会を観に、寺田倉庫G1ビルに行ってきた。”Accidentally Wes Anderson”を「ウェス・アンダーソンすぎる」と訳すセンス自体が、この展覧会の特色を表している。 なお、会場は寺田倉庫だが、主催は、現在改装中のBunkamura ザ・ミュージアムである。 展示されているのはWes Andersonが撮影した写真ではない。というか、この活動は監督とは関係ないところで行われている。一般の人々が撮影した、Wes Andersonの映画に出てきそうな風景というところが肝。会場に足を踏み入れた瞬間、本人が撮っていないのに「Wes Andersonすぎる」ことに納得!監督のことを知らない人に説明するのが難しいが、分かる人には刺さる企画だ。 シンメトリーな構図とキッチュな色使いに溢れた写真が並ぶ展示室は、内装も凝っている。一部屋毎に工夫が凝らされているが、どのセクションも、見事にWes Andersonすぎる! さらに凝っているのが、写真のレイアウトだ。別々の人が撮った違う場所の写真を組み合わせて展示することで、それぞれの写真が一層引き立つ工夫が施されている。 それにしても、世の中には、切り取り方一つで、独特のアートっぽさが際立つ風景や建物が多い事よ。 これまで、写真撮影可の展覧会で、一枚ずつ写真を撮っている人を見る度に、「そんなもの公式図録を買えば良いのに。貧乏くさいなぁ」と思っていたのだが、今回は、私もついついシャッターを切ってしまう事、多数。 特に印象的だったのは、スイスの峠道のヘアピンカーブに建つホテル(この展覧会のキー・ヴィジュアルの一つ)。インパクト大。 という訳で、大型連休初日にふさわしい、実に楽しいヴァーチャル・トリップを堪能。 なお、最後に、お気に入りの写真を選んで、自分の名前入りの記念ボーディング・パスを作成できるコーナーがある(無料)。出来上がった画像は、メールで送られてくるという趣向。これも気が利いたサービスだ。隅々まで、良い展覧会だった。 特に、旅行の予定などはないのですが、外出先で、ついついAccidentally Wes Andersonな風景を探してしまいそうな今日この頃です。 |