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*9月2日、3日の八ヶ岳高原音楽堂公演は、(「リサイタル」名義では無いため)別ページに記載しています。
狛江エコルマホールでのライヴは、2011年、14年、19年に続いて4回目だと思う。このホールでの公演は、通常の製作パターンの「リサイタル」ではなく、このホール独自で企画しているようで、ホール・スタッフの熱意と手作り感のようなものが感じられるのが心地よい。
ピアノはSteinway。椅子はコクヨのingLIFEピアノ演奏用特注バージョン。客入れの音楽は、冨田勲の「イーハトーヴ交響曲」だと思う。
演奏は、つい先日まで行われていたブルーノート東京でも1曲目だった「夏休みの子供」。音が鳴った瞬間、ヴォーカルのPAの良さに驚いた。ピアノの響きもナチュラルで、とても聴きやすい音響バランス。ブルーノート東京でのトリオ演奏のようなギミックがない分、素直で伸び伸びとしたパフォーマンスだ。2曲目「わたしのバス(Version 2)」での気合いの入った歌唱からも、矢野さんの調子の良さがうかがえる。
最初のMCで、このホールが駅から近い事を誉めた後、前回の公演ではまだ発売されていなかった「音楽はおくりもの」から、さらに2曲。そこからは、懐かし目の選曲と、工夫されたセットリストだ。特に、(矢野さんは、明言こそしなかったが)今年の2月に逝去された岡田徹氏を偲んでの演奏と思われる「ニットキャップマン」は、やっぱり良い曲だなぁとしみじみ(矢野さんは、糸井重里の詞を「いつまで経っても、映像が目に浮かぶ」と評していたが、恐らく、今の若い観客は「常田富士男」と聞いても、あの風貌は思い浮かべられないのでは?)
「君に会いたいんだ、とても」からは「雲を見降ろす」をチョイス。このアルバム、確かに良い曲揃いだなぁ。
ここで、コクヨの椅子について、如何に腰痛に優しく、ピアニスト向けかを熱弁した後、コールされた次の曲は、まさかの「潮騒のメモリー」。2013年度上半期の朝ドラの劇中歌だ。当時、視聴していなかった矢野さんは、その再放送を、今まさに、現在進行形で追っかけ中。いかにハマっているかを語った後、歌われたカバーは、まさに矢野マジックをかけられた「潮騒のメモリー」。今回が、人前では初披露との事だが、素晴らしい出来だったし、今後、さらに、定番曲に育っていくかも、という伸び代も予感させる。
サプライズの選曲は続く。「ブルーノート東京でのトリオ演奏の曲だけど、一杯練習したので、みんなにも聴いて貰いたい」と言って始まったのは「千のナイフ」!これが、弾き語りライヴで聴けるとは!! トリオ演奏よりも、スキャットで歌われる主旋律の存在感が増しているが、曲が進むにつれ、ドンドン熱量が高まるのは、弾き語りでも同じ。というか、1人で、これだけ表現できてしまうとは、恐るべきテクニック。そして、何より、この曲を演奏することへの矢野さんの熱意に感涙。そして、ブルーノート東京と同様、これで高まったテンションを、その後の「ひとつだけ」でクールダウンするところまでが、ワンセットだ。今日の「ひとつだけ」も素晴らしいパフォーマンスだった。
アンコール。矢野さんは、「中央線」と「ラーメンたべたい」の二択を観客に提示するが、反応は当然「両方!」。ということで、2曲をシームレスに続けて歌い、中央線に乗ってラーメンを食べに行ったということで、全編終了。楽しかった!
都心からやや離れた狛江市というロケーションで、ある種、手練れのお客様が多く集まる、キャパ 728席という手頃なサイズ感のホール。そこでの4度目の公演ということで、矢野さんのリラックス加減も丁度良い感じだったと思う。エコルマホールが、鎌倉芸術館とはまた違う雰囲気の「特別な弾き語り会場」になって行きそうな気がした。是非、定例化をお願いしたいところだ。
会場は、朝日新聞東京本社の新館2階にある客席数552席のホール。備え付けのSteinwayの響きと会場自体の音響の良さに定評があり、この場でのリサイタルも恒例になってきた。Steinwayの前には、例によってコクヨのingLIFEピアノ演奏用特注バージョン。
演奏は、先日の八ヶ岳高原音楽堂の初日と同じ選曲でスタート。このホールのSteinwayは、特に高音の透明感が綺麗だと思う。そして、ヴォーカルは、スッピンのような素直なPA。やはり良い音響のホールだ。
しみじみとした「David」の後、久しぶりに演るということで入念にストレッチをして「SOMEDAY」。佐野元春氏の原曲も、矢野さん版も、大好きな曲だ。それにしても、秀逸なアレンジである。唯一、個人的に気になったのは、この曲の時の照明が赤だったこと。矢野さんのライヴでは、通常、曲に合わせて控え目ながら巧みな照明が良い感じを増幅してくれるのだが、私のイメージでは矢野さん版「SOMEDAY」は、赤じゃ無いんだよなぁ…
この夏の公演では、「君に会いたいんだ、とても」の収録曲を披露するのが定番になっている。本日は「ドラゴンはのぼる」と「雲を見降ろす」。カッコ良し。
「春咲小紅」の後、10年遅れのマーメイドである矢野さんが再放送にハマっている「あまちゃん」のことを熱く語り「潮騒のメモリー」。狛江での初演から、まだ4回目の演奏なので、アレンジが流動的とのこと。試行錯誤を繰り返しながらも、熟成度は高まってきているように思う。
そして、そのままピアノをポロポロと弾きながら、MC無しに「千のナイフ」の演奏になだれ込む。この夏の公演でずっと採り上げてきた「千のナイフ」。そのソロ・バージョンが、ついに完成形に!と思わせるパフォーマンスだ。特に、スキャットへの感情の乗せ方が素晴らしかった。そして、「ひとつだけ」で本編終了。アンコールに「GREENFIELDS」と「ラーメンたべたい」という鉄板構成で全編終了。もう、後半の流れ、完璧である。
いよいよ、2023年の矢野顕子納涼夏祭りも残すところ僅か。東京での公演を締めくくるのにふさわしい好演だった。
2023年夏の最後の公演。会場は、神戸・三宮の旧居留地、神戸朝日ビルの4階にある神戸朝日ホール。2023年8月にリニューアル・オープンしたばかりのホールで、キャパ 505席。最後列がM列=13列ということで分かるとおり、客席が横長なのが特徴的。ピアノはSteinway。その前には、コクヨのingLIFEピアノ演奏用特注バージョン。客入れの音楽は冨田勲。
この夏の弾き語りシリーズ定番の選曲でスタート。ピアノの音色がとてもクリアで綺麗だ。矢野さんの歌唱も丁寧な感じ。出だしから絶好調だと感じる。矢野さんのMCによると、この横長の客席が心地良い。新しいホールは、どこも「多目的」を意識した縦長だが、この幅の広さが、丁度、両手を拡げた感じで気分が良いとのこと。さらに、この会場のピアノは、矢野さんが日本で最高のホールの一つだと思っている(改装前の)大阪フェスティバルホールにあったピアノだそうだ。改装時に、朝日新聞社つながりで、こちらのホールに移設されたのだろう。なるほど、素晴らしい音の訳だ。ちなみに、このホールの横幅は、改装前のフェスティバルホールと同じだという。
ということで、どの曲も、矢野さんがとても気持ち良くプレイしていることが伝わってくる。矢野さんが込めた感情を、レスポンス良くピアノが受け止め、高め合っている感じだ。
「魚肉ソーセージと人」では、ソーセージ・メーカーから何のコンタクトも無かったなど、リラックスした感じのMCも良い感じ。一方、「ドラゴンはのぼる」の前のMCは、例によって宇宙熱が溢れる饒舌ぶり。改めて考えると、この曲、矢野さんがここまでシャウトする歌唱は珍しいと思う。それも、宇宙熱があればこそ、かな。
今週、「あまちゃん」再放送は、ちょうど震災を描いた回。10年遅れでハマっている矢野さんは、「クドカン、流石!」とのご感想。そして、5回目の披露となる「潮騒のメモリー」。「そろそろ、未完成と言い続けるわけには行かない」と自らハードルを上げての演奏だったが、表現力の高い、見事な完成度だった思う。後で、この日の演奏をのんさんに送るそうだ。
そして、この夏の弾き語りシリーズ、最大の山場。今回も、説明抜きで演奏になだれ込んだ「千のナイフ」。先日の浜離宮朝日ホールでの演奏が完成形だと思っていたのだが、それを遥かに凌駕するとてつもないパフォーマンスだ。終盤のスキャットとピアノは、鬼気迫ると言えるほどの入り込み方。こちらの涙腺も決壊である。いやはや、本当に凄かった。そして、それをクールダウンするような「ひとつだけ」への流れ、完璧である。
アンコール。まずは、コクヨの椅子について語る。この、ingLIFEピアノ演奏用特注バージョンは、この後、コクヨに送られ、さらにバージョンアップする予定らしい。そして始まった「GREENFIELDS」も凄かった。ピアノと歌唱の一体感がすさまじい。その勢いのまま「ラーメンたべたい」で全編終了。
これが、2023年の矢野顕子納涼夏祭りの最終公演だった訳だが、最後に極めて高い完成度のパフォーマンスを見せていただいた。とにかく、ピアノが良く鳴るし、それと一体化した矢野さんの歌唱も見事。ブルーノート東京の平日公演に参戦できなかった無念さは十二分に晴らせたのである。
そして、早くも冬の来日シリーズが楽しみだ。果たして、さとがえるバンドでの「潮騒のメモリー」や「千のナイフ」はあるのだろうか?
例年、「年末」恒例の鎌倉芸術館小ホールでのライヴだが、22回目となる今年は11月の開催。歳末感が醸成されていないうちに鎌倉というのは、調子が狂うところではあるが(矢野さん自身も、冒頭のMCで、さとがえるの前の鎌倉公演に対する違和感を語っていたが)、何事も"変わるし"ということだろう。
客入れの音楽はSteve Winwoodのライヴ盤。個人的に刺さる選曲で嬉しい。このホールご自慢のSteinwayの前の椅子は、既にお馴染み、コクヨのingLIFE ピアノ演奏仕様特注版
最近、弾き語りの前半で披露されることが多い「そりゃムリだ」で演奏開始。土曜日に日本に着いたばかりで、時差ぼけ中ということだが、そのせいか、かなり落ち着いた感じの演奏・歌唱だと感じる。そして、毎年思うことだが、ピアノもヴォーカルも、本当に繊細に響く、素晴らしい音響のホールだ。特に、3曲目の「突然の贈りもの」などは、このホールの音色に実にしっくりとくる。
4曲目「SUPER FOLK SONG」で、一転、力の入ったピアノと歌声! と思っていたら、途中で、ちょっとブレイク。「客入れのSteve Winwoodに影響された即興アレンジを試してみたが…」とのこと。なるほど、それで、この力強さなのか。納得である。それにしても、最初の3曲とは、全く違う音色を叩き出すSteinwayには驚いた。矢野さんと本当に意思が通じ合っている相棒なんだと思う。そして、演奏再開、そのまま歌いながら次の曲を紹介。「SUPER FOLK SONG RETURNED」。矢野さん曰く、「Saga仕立て」にトライしたそうだ。
そこから、「魚肉ソーセージと人」と「愛を告げる小鳥」で、少し、カームダウンした後、「君に会いたいんだ、とても」の中から、あまり披露される機会が無い「おかえり、はやぶさ2」。
次もレア曲。「ごきげんわにさん」。アバンギャルドなピアノと童謡の組み合わせの妙が素晴らしい。坂本龍一氏との連弾で録音された曲で、当時、その歌詞は坂本氏の事を歌っていると(真偽はともかく、ファンの間では)まことしやかに言われていた。夏のライヴで披露された「千のナイフ」的な選曲かも、と(勝手に)グッときてしまう。演奏後、矢野さんからも、この曲にまつわる教授との思い出が(あくまで明るい雰囲気で)語られたので、さらにグッときてしまう。確かに「ごはんができたよ」収録版で聞ける「わにさんのピアノ」は、音色にこだわる教授らしい、絶妙なサウンドだと思う。
しみじみとした気分を増幅するかのような「中央線」。そして、怒濤の終盤。コンサート冒頭で感じた落ち着いた印象から、グイグイとギアを上げてきた演奏が続く。「GREENFIELDS」の大熱演。素晴らしいパフォーマンスを彩る照明効果も見事。本編ラストは「ひとつだけ」。
アンコール。まずは、物販の「完全復刻版 40周年ラーメンどんぶり」をPR。そして、その流れでは必然と言える「ラーメンたべたい」で全編終了。いつも以上に攻めたピアノ・アレンジで、激熱のラーメンだ。
ということで、例年とは違うタイミングでの「冬の矢野顕子祭り」開幕である。出だしから、素晴らしいパフォーマンスを堪能でき、これからが楽しみだ。
東京のビジネス街の中枢「大手町」でエンタテインメントを届けるというコンセプトで、日本経済新聞社が主催する「大手町座シリーズ」。3年連続で矢野さんのリサイタル開催である。会場の日経ホールは、大手町・日経ビルの3〜5階に位置し、キャパは 610席。客席に背面収納型の机と手元ライトが装備されていて、講演会やシンポジウムにも対応。一方で、クラシック系のコンサートにも対応できる音響を備えている(因みに、ピアノは、STEINWAY D-274とヤマハ CFIII-Sの2台を保有)という、変わり種というか、日本経済新聞社らしいホールである。
ということで、ピアノはSteinway。客入れの音楽はSteve Winwoodのライヴ盤。
「ひとりぼっちはやめた」で演奏開始。丁寧な歌唱という印象だ。そして、このホールは、ピアノもヴォーカルも、とてもクリアな響きが特徴だと思う。ビジネス街のホールらしいと言えるかもしれない。
比較的静かな曲調の作品が続く。矢野さん曰く「しみったれた曲が多い」。ということで、7曲目で、明るく「ふりむけばカエル」。そして、昨年の製品からさらに改良を加えたコクヨの椅子=ingLIFE ピアノ演奏仕様(バージョンアップ版)についての話をたっぷり。この椅子の話と、宇宙の話は、止まらなくなる矢野さん。「おかえり、はやぶさ2」の演奏前解説もしっかり。
先日の鎌倉で披露された「ごきげんわにさん」を本日も演奏してくれたのが嬉しいサプライズ(今回は、教授との思い出話は無し)。今日のパフォーマンスの中で、一番攻めたピアノ演奏だと思う。楽しくかつエキサイティング。
ピアノ弾き語り用に工夫を凝らしたアレンジで「飛ばしていくよ」。カッコ良く着地し、本編最後の「ひとつだけ」。そして、アンコールは、物販の「完全復刻版 40周年ラーメンどんぶり」のPRからの「ラーメンたべたい」で全編終了。
若干、喉の調子が悪いところもあった気はしたが、端正なパフォーマンスが多かったと思う。鎌倉公演が、コアなファンが集まるところで、矢野さんも遠慮無しで演ってくれるのに対し、日経ホールの場合は、熱心なファンの他に、そこまで予備知識の無い大手町サラリーマンも一定数来ていると思う。その辺りを考慮して、(昨年も感じたのだが)矢野さんも探り探りのパフォーマンスという感じだったのかもしれない。で、この客層ならついてこれると判断して「ごきげんわにさん」をぶっ込んでくれたというのは、穿った見方かな。
ご本人も言っていたが、バンドでのツアーで疲れが溜まる前にソロ公演を開催するという今年のパターンは、良い試みだったと思う。これから始まるさとがえるが楽しみだ。まあ、わがままを言うなら、ツアーの前にソロ公演。そして、ツアー終了後の締めで、ソロ公演をもう一本、というのが理想かもしれない。