IN/OUT (2023.9.24)

毎年、この時期になると、「暑さ寒さも彼岸まで」とは良く言ったものだと実感しますねぇ。


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「テート美術館展 光 ― ターナー、印象派から現代へ」@ 国立新美術館23.9.18

国立新美術館英国・テート美術館のコレクションから、「光」をテーマに厳選された作品を集めた展覧会を観に、国立新美術館に行ってきた。

不勉強にも、”Tate”というのは、単なる美術館の名前かと思っていたのだが、実際は、英国政府が持つ英国美術コレクションや近現代美術コレクションを所蔵・管理する国立美術館ネットワークのことだそうだ。その収蔵品は、7万7千点以上。その中から、18世紀末から現代までの約200年間を対象に、Joseph Mallord William TurnerやJohn Constableといった近代美術の名匠、Claude Monetら印象派の画家、さらには、Olafur Eliassonら現代美術の有名アーティストまで、光をテーマに選び抜いた120点。観る前から期待大である。

国立新美術館まずは、18世紀の宗教画の中の光を描いた古典的な絵が並び、続いて、自然の光を捉えたTurnerらの作品の展示へと進む。Turnerという画家を知ったのは、大昔に訪れたTate Britainだったな、と思い出したり(当時は、"Tate Gallery"という名前だったと思う)。

素人にも、すぐに彼だと分かる特徴的な画風だと思う。

国立新美術館Turnerが、Royal Academyでの講義に使うために描いた図解も展示されているのが興味深い。ぼんやりと溶け合う光を描く印象の画家だが、講義では、ちゃんと理論的に教えていたのだな。

国立新美術館展示は、Gerhard Richter等、現代美術の作品に移り、大掛かりなインスタレーションも設置されている。特に面白かったのが、Olafur Eliassonの「黄色 vs 紫」。

天井から2枚の円盤が吊され、回転し、横から光が投射されている。
国立新美術館円盤の表面には、特殊加工がしてあるらしく、回転すると黄色く色づいて見える。
国立新美術館回転が進むにつれ、黄色が濃くなってくる。
国立新美術館さらに回転すると、紫色が現れる(黄色と紫は、補色の関係にある)。
国立新美術館そして、壁に紫の透過光がハッキリと映る。

Eliassonの作品は、金沢21世紀美術館森美術館原美術館 ARCでも観たことがあるが、テクノロジーを上手く取り入れたキャッチーな作品を作る人だ。

国立新美術館展覧会の最後、出口に飾られているのもOlafur Eliassonの作品「星くずの素粒子」。

Tateのコレクションの充実ぶりが伝わってくる展覧会だと思うし、現代アートのインスタレーションの数々は、どれも刺激的で楽しい。ただ、光をテーマに200年間の美術の変遷を俯瞰するには、120点でも足りないようにも思えた。あと、音声ガイドの解説が貧弱だったのが残念。板垣李光人の声は聞き取りやすく好印象だが、内容が乏しかったかな(田村真子TBSアナウンサーと田中瞳テレビ東京アナウンサーの、なんだかお洒落インフルエンサーを気取ったような番外解説は、まったくの時間の無駄。本編の解説を充実していただきたかった)。


”John Wick: Chapter 4”23.9.22

Keanu Reeves主演のヒット・シリーズの第四弾を観てきた。そのまんまの原題に対し、何故か邦題の方が難しくなって「ジョン・ウィック コンセクエンス」。"consequence"は、確かに劇中の台詞にも出てくる単語だが、わざわざ邦題にしなくても…。コンセクエンスと口に出してみたかっただけという、中学生発想の邦題のような気がする。

シリーズ第1作は、引退した殺し屋が愛犬を殺された復讐のため現役復帰というシンプルなストーリー。上映時間 101分間の、気の利いたアクション映画という感じだった。しかし、”Chapter 2”、”Chapter 3”とシリーズが進むにつれ、アクションの激しさがパワーアップすると同時に、設定は複雑化し、リアリティは希薄になり、広げた風呂敷はドンドン大きくなってきた。そして、”Chapter 4”は、ついに上映時間 169分の超大作になった。ただし、ストーリーは、割にシンプルで分かりやすい。長くなった上映時間(と、膨れ上がったと思われる予算)は、アクションの強化に投入されている。

意表を突くアングルから長回しでのアクション・シーン、200段を超える階段落ち、防弾仕様の三つ揃いのスーツというギミックを活かしたお洒落度の高いガン・ファイト、それでいて、確実に頭を撃ち抜きとどめを刺す容赦無さ。John Wickらしさを突き詰めたアクションがひたすら続く。とにかく続く。それでも飽きずに観られるのは、Keanu Reeves、Donnie Yen(甄子丹)、真田広之らの身体のキレと存在感が際立っているからだ。特に、盲目という設定で、仕込み杖を使った座頭市ばりの殺陣を決めるDonnie Yenが素晴らしい。一方、真田広之に関しては、十分活躍しているとは思うが、彼はもっともっと強いぞ、と声を大にして言いたい。

ただし、現実味はまったく無視。これだけの大量殺戮が行われながら、映画の中に警察は一切出てこない。裏社会のルールだけが、この世の全てという設定が、むしろ清々しい。ラストは、個人的には、ちょっと残念な感じもあるのだが、これしか無いという感じのオチに着地する。

ということで、細かいことは気にせず楽しむ映画しては申し分なし。そして、今作でも、犬の存在感が高い。シリーズを通して「犬映画」だった。というのが一番の感想だ。


「あの世の探検 ―地獄の十王勢ぞろい―」@ 静嘉堂文庫美術館23.9.22

静嘉堂文庫美術館冥界では閻魔大王など10人の大王が死者の罪業を裁く、という教えから製作され、日本に伝来した「十王図・二使者図」(中国・元~明時代)と「地蔵菩薩十王図」(高麗時代)、全13幅が一堂に並ぶ展覧会を観に、静嘉堂文庫美術館に行ってきた。

静嘉堂文庫美術館正直、仏画には馴染みが無い私には、鑑賞に際してオーディオガイドが必携である。この展示スペースは、小規模ながら、ガイドが充実しているのがありがたい。また、絵に添えられた解説文も読みやすい。例えば、修理後初公開となる、高麗時代(14世紀)の「苦行釈迦図」に添えられたキャプションが「どどーんと出現!お釈迦様!修業はヤメだ」。このポップさと、仏画自体の渋さのコントラストが、素人にも楽しい。

静嘉堂文庫美術館個人的には、「子ども部屋に貼ってました。魔除けなんです」というキャプション付きで展示されていた、室町時代の「十二霊獣図巻」が興味深かった。文字通り、12の想像上の動物が描かれている巻物だ。「天馬」には、意外に馬感が希薄なのだな。

会場には、細かい所まで単眼鏡を使って熱心に観る人(それも、若い人)が多く訪れていたのも、意外だった。やはり、私には静嘉堂文庫の収蔵品の有り難みが十分には理解出来ていないようだ。ただ、この空間自体は、とても居心地良い。


「ALL THAT ZZJA / ALL THAT ZZKA」@ 日本青年館ホール23.9.23

日本青年館ホールジャズ・ヴァイオリニスト 寺井尚子と宝塚歌劇の元トップスターたちが共演するステージを観に、日本青年館ホールに行ってきた。

2023年が、日本で初めてのジャズ・バンドが結成されて100年目の記念の年。そして、そのジャズ・バンドを率いていたのが、宝塚少女歌劇オーケストラ出身のヴァイオリニスト、井田一郎氏だっということで、寺井尚子が企画したイベント。音楽監督は北島直樹。構成と演出は菅野こうめい。出演は、寺井尚子クァルテット(寺井尚子・北島直樹・仲石裕介・荒山諒)のお馴染みメンバーに、宝塚の大物OG、真琴つばさ、姿月あさと、湖月わたる、風花舞、彩乃かなみ。そこに、2022年に退団したばかりの新人OG(と言うのも変な表現だが)天寿光希、晴音アキが加わり、さらに、ミュージカル俳優の男性陣、加賀谷真聡と高橋伊久磨も参加。

会場の日本青年館ホールは、2017年に新装オープンしたキャパ1249席のホール。私は、新装後、初めて訪れたが、綺麗なのは当然として、ロビーが狭く、音響もあまり良いとは言えないという印象だ。そのロビーには、宝塚系のイベントらしく、出演者(元トップスター 5人)のパネルと一緒に撮影できるフォトスポットが設置されている。残念ながら(と言うか、当たり前だが)寺井尚子クァルテットのパネルは無い。

ステージ後方にクァルテットがスタンバイし演奏開始。二階建てになったセットの上段に五人のOGが登場し、歌い始め、そのまま両脇に設えられた階段を降りてくる。やはり、歌いながら階段を降りてこその、宝塚歌劇である。ここから、スタンダード・ナンバー中心に、クァルテットの演奏をバックに、歌とダンスが繰り広げられるという趣向。

さすがは元宝塚のトップスター達。歌唱力は(いかにも舞台育ちらしく、歌い方の癖は強いが)お見事。特に元娘役の彩乃かなみの歌唱が、個人的にはツボ。ダンスも皆さんキレキレ。やはり、元男役の皆さんは、所作の一つ一つが、実にキマっている。

とはいえ、私の目当ては寺井尚子クァルテットである。歌のバックも巧みにこなしているが、中盤に披露した私の大好物「Spain」が、やはり素晴らしい。このパフォーマンスでは、風花舞と男性陣二人のダンスもフィーチャーされているのだが、私の視線はヴァイオリンとドラムスに釘付けである。クァルテットが、ここぞとばかりに本気を全開にしたような熱演だ。さらに、終盤では、クァルテットだけで、「愛あればこそ(from 「ベルサイユのばら」)」のジャズ・アレンジも披露。これもかっこよかった。

本編ラストは「スミレの花」。このアレンジも良い感じ。そして、カーテンコール後、全員でのご挨拶の後「宝塚フォーエバー」で全編終了。私が観たのは昼夜2公演の昼の部(マチネ)だったせいか、やや淡泊な感じもあったが、老舗エンターテインメント集団=宝塚歌劇団の底力を見せつけられるパフォーマンスだった。そこに、寺井尚子クァルテットのはまり具合もドンピシャ(彼女は、尖ったジャズというより、こういう趣向の方が収まりが良いと思う)。中々に興味深いイベントだった。



とは言え、まだ30度を超える日はありそうです。冬から春へ向かうときには「三寒四温」という言葉があるのに、その逆の「三署四涼」みたいな言葉がないのは、温暖化が進行する以前は、夏の暑さよりも冬の寒さの方が厳しかったということですかね(改めて調べてみたら、本来の意味の「三寒四温」は、冬の最中に寒暖が繰り返される中国東北部や朝鮮半島北部での現象の事らしいです