IN/OUT (2023.1.22)

地球温暖化と言っても、やはり、寒いときは寒いと実感する今日この頃です。


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"THE FIRST SLAM DUNK"23.1.21

「スラムダンク」の映画化作品を観てきた。

週刊少年ジャンプの連載が1990年から1996年。テレビアニメの放映が1993年から1996年。なぜ、このタイミングで、しかも、井上雄彦自身が監督として映画化したのか、いささか唐突感がある。世代的には、自分とドンピシャという訳でも無いのだが、ずいぶんと評判が良いので、公開後、だいぶん時間が経ったが、観てみることにした。

原作の山場、インターハイでの山王工業高校との試合をたっぷりと描きつつ、宮城リョータの過去を掘り下げる構成。元々の主人公、桜木花道は前面に出ていない(それでも、あのキャラは、美味しいところを攫っているが)。原作を知らない人への配慮はされていると思うが、三井寿のバスケ部復帰に関するところは省略し過ぎで分かりづらいかもしれない。劇映画としては、まあ、それなりという印象だが、原作を多少なりとも知っている人には熱く訴えかけてくる映像だと思う。

その熱さを生み出しているのが、独特な手触りのアニメーション表現だ。試合のシーンは、実際のプレーヤーの動きをモーションキャプチャーで取り込んだもので、極めてリアル。凡百のアニメーションのスポーツ・シーンでありがちな、非現実的に広い空間で、選手達が一々回想に浸って間延びするような描写は無いし、静止画や効果線の多用でスピード感を誤魔化すことも無い。結果、山王工業高校戦のシビれる展開に没入することになる。

さらに、絵自体が、井上雄彦の絵そのまま。というのも凄い。普通、漫画のアニメ化だと、オリジナルの特徴をマイルドにした絵柄になりがちだ。しかし、この作品では、井上雄彦の絵がそのまま動いている。元々、画力に定評がある本人が監督をしているのだから、当然かもしれないが、それでも、最近の丸みを帯びた3Dアニメに慣れてしまった目から見ると、衝撃的な絵力だ。

公開から一ヶ月以上経っても、劇場はかなりの混み具合だった。オリジナル作から時間が経っての映画化作品が、これだけ集客しているということは、サザエさん一家やルパン三世一味と同じく、湘北高校バスケ部メンバーも、日本人の大多数が知っているキャラクターになっているのだなと感じた。


「ボッティチェリ特別展 美しきシモネッタ」@丸紅ギャラリー23.1.21

丸紅ギャラリー2021年11月に開館した丸紅ギャラリーの開館を記念した展覧会の第3回展を観に行ってきた。

場所は、竹橋にある丸紅ビルの3階。丸紅は、1858年の創業以来、繊維ビジネスを通じて蒐集してきた江戸期を中心とする古い時代の染織品や染織図案と、関連した近代日本絵画、さらに1960~70年代にアートビジネスに携わったことで入手した西欧絵画を「丸紅コレクション」として所蔵しているそうだ。

さて、この展覧会。展示されている絵画は、1969年に丸紅が入手したサンドロ・ボッティチェリ(Sandro Botticelli)のテンペラ画「美しきシモネッタ(La Bella Simonetta)」一点のみ。究極の一点突破型美術展である。因みに、日本にあるBotticelliのテンペラ画は、これが唯一ということだ。

とは言っても、展示室に絵が一枚掛かっているだけではない。周辺情報がたっぷりと紹介されている。1453年にジェノヴァ共和国の富裕な商人の娘として生まれ、ヴェスプッチ家に嫁いでフィレンツェに住み、その美貌から時の人となるも、1476年、肺結核のために死去。その死後も、多くの画家や詩人に描かれ続けたというSimonettaの生涯の説明や、縁の地の写真。さらに、絵画自体の来歴、1808年にボローニャで再発見されてから、フランス、イギリス、ドイツと所有者を変え(ナチス・ドイツに接収されたりもした)、1969年に丸紅が入手するまでの経緯。さらには、入手後の真贋論争など。また、Botticelliが描いた他の作品にも見られるSimonettaの面影の解説(どうやら、彼にとって「美人と言えばシモネッタ」というのが確立していたようだ)や、彼女が身に付けている宝石の説明等々。

これだけの予備知識を仕入れてから、いざ、実物にご対面(割に、素っ気なく壁に掛けられている)。確かに名画。質感の高い描写で、立体感すら持って迫ってくる。ただ、Simonetta嬢自体は、現代の基準から言っても美しいことは確かだが、そこまで美人か、という気はするかな。


"Die Wannseekonferenz"23.1.22

ナチス政権が、1100万人のユダヤ人絶滅政策を決定した「ヴァンゼー会議(1942年1月20日)」を、アドルフ・アイヒマン(Adolf Eichmann)が記録した議事録に基づいて映画化した作品を観てきた。原題は、ドイツ語の「ヴァンゼー会議」そのものだが、邦題は「ヒトラーのための虐殺会議」。淡々とした原題に対し、煽情的過ぎる気がするが、日本での知名度を考えれば仕方ないだろう。

静かな郊外、ヴァンゼー湖畔にある国家保安部のゲストハウスに、軍人、親衛隊員、ナチ党員、官僚など、出席者が集まり、会議が始まる。映画は、淡々とその様子を映し出す。BGMの無いドキュメンタリー・タッチだが、しっかりした構図とカット割りで、緊張感のある室内劇のようだ。

そこで語られるのは、1100万人のユダヤ人をいかに効率的に「最終的解決」に持っていくか、要は、いかに手際よく殺害するかということだ。しかし、会議の様子は、驚くほど企業のオフサイト・ミーティングと似ている。立場の違う部署のメンバーが集まり、それぞれの思惑で発言の応酬はあるが、激しい口論に発展することはなく、共通の目的に向かって議論を重ねる。合間には、隣の部屋で軽食をつまみながらの休憩。まさに、有能な実務家達が集まり、効率的にオフサイト・ミーティングを進行する姿だ。口述筆記をしている女性秘書は、この環境を「明るい職場」と言う。ただ、そこで話し合われる共通の目的というのが、大量虐殺というだけ。このギャップに驚く。

ユダヤ人の処分について、批判的な意見も出るが、それは、弾丸の浪費と、実行するドイツ兵士の精神的負荷を心配するものだ。それに対するEichmannの回答は、ガス室による処分。その案は「エレガントな解決策」として受け容れられる。

映画は最後まで淡々とした描写で、この会議での議論を声高に批判することはない。しかし、一歩間違えれば、現代にも蘇りうる状況だという警鐘が、しっかり観客に届く作品になっていると思う。



来週は、雪の可能性もありそうです。テレワーク籠城かな。