IN/OUT (2023.5.14) |
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このところ、怪しい勧誘電話やショート・メッセージの受信量が急増。どこかで電話番号が入った名簿が流出したのですかね。 最近のIN"BLUE GIANT A FILM SCREENING at Blue Note Tokyo" (23.5.8)ロングラン・ヒットを続けている”BLUE GIANT”を、重要な舞台となっているブルーノート東京(劇中、店名は変えてあるが)で上映するという企画を観に行ってきた。 通常とはかなり違うスタイルの公演になっている。料金は、席に関わらず一律3,500円でワン・ドリンク付き。食事の提供は無し。座席のレイアウトは、皆が正面を向く「教室スタイル」。ブルーノート東京初の映画上映ということで、色々考えたのだろうが、ここは、映画の中と同じく、普段と全く同じレイアウト、メニュー構成の方が、ライヴ・シーンの臨場感が増したんじゃないかな、という気はする。 ただし、通常の座席番号入りのコースター以外に、劇中の店名「So Blue TOKYO」が印字されたコースターが用意されているのは、ナイス! 19時、上映開始、一聴して驚いた。あの、立川シネマシティの極音上映を遥かに凌駕する音響! 音色も、ダイナミック・レンジも、音の定位も、これは完全にライヴの音だ。ブルーノート東京のPAチューニング、恐るべし。 この音響によって、映画への没入感は大幅アップ。私は、三度目の鑑賞だが、今回が一番、涙の量が多かった。ライヴ・シーンの後に、リアルな拍手が巻き起こるのも、映画館では味わえない体験だ。 それにしても、この映画の唯一の弱点、モーション・キャプチャーを使ったCGアニメによるライヴ・シーンが他のシーンから浮いているところが、つくづく、惜しい。二次元アニメでのライヴ表現が、非常にエモーショナルな効果を産んでいるだけに、本当に勿体無い気がする。"THE FIRST SLAM DUNK"の試合シーンで、CGの不自然さを、井上雄彦自ら、徹底的に修正しまくって、圧倒的な完成度に持っていった、あの執念を見習っていただきたいと思ってしまう。 上映終了後は、立川 譲監督のティーチイン付き舞台挨拶。黒く塗られたサックスを持って、映画の中の宮本大と同じく、拳を突き上げて入場。このサックスは、モーション・キャプチャーに使ったもの。そのままでは、反射で上手くキャプチャー出来ないので、わざわざ黒く塗った(結果、音は出なくなった)そうだ。こういう苦労を聞いてしまうと、文句を言うのも気が引けてくる。観客との質疑応答でも、とても真摯に受け答えされていて、ちょっと、見直してしまった。やたらと再現度が高いブルーノート東京とコットンクラブは、建物の設計図を参照して3Dモデルを造り、ロケハンで撮影した写真からテクスチャーを仕上げたとのこと。素晴らしいこだわりだ。 一通り、質疑応答セッションが終わったところで、サプライズ・ゲスト、上原ひろみ嬢登場!!! やはり、拳を突き上げてステージへ。これは嬉しい。凄く嬉しい。この映画が、コロナ禍の中、ひろみ嬢が「SAVE LIVE MUSIC」を敢行している最中に進行していたプロジェクトだったことを知る。 そして、ステージにピアノがセッティングされる。そもそも、ひろみ嬢はこの場でのピアノ演奏を熱望したが、最初はスクリーンがある関係で難色を示されたとのこと。それでも、粘って交渉した結果、「緊急会議だ」ということで、この演奏が実現したそうだ。そして”Blue Giant”をたっぷりと演奏。いやぁ、素晴らしいパフォーマンス。最後に、ひろみ嬢が映画に関わった全ての人に感謝を述べて、全イベント終了。 映画のクオリティとブルーノート東京の音響の良さ、そして、上原ひろみの情熱。これら全てがクロス・オーバーし、相乗効果を高めた、素晴らしいイベントだった。 "Tár" (23.5.13)Cate Blanchett主演の映画を観てきた。 タイトルは、主人公の名前。彼女は、ベルリン・フィルの首席指揮者という、クラシック音楽界の頂点とも言える地位にある。音楽的な実力だけでなく、セルフ・プロデュース力にも優れ、強固な意志とプライドを持った女性だ。しかし、その強いキャラクター故に、敵も多い。彼女が指導した若者が自殺したことから、告発された彼女は、追い詰められていく。 とにかく、Cate Blanchettの演技が圧巻。徹底的に指揮について勉強し、グラモフォン・レーベルから発売されたサウンドトラックでも、彼女の名前が“指揮者”としてクレジットされているという。演奏シーンのリアリティが素晴らしいからこそ、ストーリーの説得力が高まる。そして、決して皆が共感できるような好人物ではない、かといって、徹底した悪役とも言えない、強烈で複雑な個性を持ったTárという人間になりきった演技の凄み。一方で、オーケストラ業界の内幕物としての興味深さもある。 ただし、一筋縄ではいかない、難解な映画でもある。冒頭のインタビュー・シーンで、彼女の経歴を過剰なまでに丹念に紹介するが、それ以降は、説明的なセリフが意識的に排除されているようで、何が起こっているのかついて行くには、相当、集中して観賞する必要がある。しかも、上映時間は2時間39分。しかし、緊張感が漲った画面とCate Blanchettの演技に圧倒され続けるので、睡魔に襲われることはなく、どっと疲れる観賞体験だ。 強い立場の者が弱者に対して無意識に行うハラスメント行為や、SNSで過去の不適切言動を掘り起こして炎上させ、著名人を失脚させるキャンセル・カルチャーへの問題提起という面もある作品だが、そのオチが、西欧クラシック界の上から目線で描かれてるのは、極めて高等な皮肉なのか? つくづく、観る側のリテラシーを試される映画だと思う。 明らかに詐欺行為がバレバレの物もあれば、かなり真に迫っている物まで玉石混淆(まぁ、騙しのテクニックが高等だからと言って「玉」と表現することは無いか)。この手の行為が、大昔のナイジェリア詐欺の時代から、減らないどころか増え続けるのは、つくづく面倒くさいですな。 |