IN/OUT (2023.11.12)

いきなり寒くなりました。夏の後にいきなり冬。もはや、日本の四季から秋と春は消滅して、二季になった気がする今日この頃です。


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「桑原あい ザ・プロジェクト Making Us Alive Again Tour」@ブルーノート東京23.11.8

ブルーノート東京桑原あいのピアノ・トリオのライヴを観に、ブルーノート東京に行ってきた。昨年行われたレコーディング・ライヴと同じ、桑原あい(ピアノ)、鳥越啓介(ベース)、千住宗臣(ドラムス)のトリオである。

まずは、ゆったりとしたテンポで「To The End of This World」。以前、聴いたときよりも、3人それぞれの音の輪郭が強まっている印象だ。そして、緩急と強弱をダイナミックにコントロールしながら、どんどん熱量が高まっていく。続いて、「Cool(West Side Story)」。そして、「All life will end someday, only the sea will remain」の3曲をぶっ通しで演奏。特に3曲目は、椅子にちゃんと座っているよりも、中腰でピアノを弾き倒している時間の方が長いぐらいの白熱ぶりだ。因みに、1曲目と3曲目の自作曲のタイトルは、寺山修司の詩に触発されたもの。1991年生まれなのに寺山修司にハマった事があるとは、さすがの感性だと思う。

MCの後、Egberto Gismontiの「Loro」、Talking Headsの「Psycho Killer」。本当に、このトリオで演奏できることが楽しくて仕方が無いという桑原あい嬢の昂揚感がビシビシ伝わってくる。

さらに、鳥越啓介のエフェクターを効かせたベースを前面に出してBernard Ighnerの「Everything Must Change」。弓を使った(アルコ奏法)ベース・ソロから、弓を投げ飛ばして、即座にピチカート奏法に切り替える瞬間のカッコ良さよ。

本編ラストは、ゴリゴリのロック・アレンジで、歌劇「カルメン」の「Habanera」。そのまま、退場すること無しでアンコール曲、Duke Ellingtonの「Money Jungle」で全編終了。

彼女のライヴは、それなりの回数観ていると思うのだが、ここまで迫力に満ちた演奏というのは、過去最強だと感じた。と言う訳で、普段は、周囲の空気を伺ってから立ち上がる事が多い私も、今回は、率先してスタンディング・オベーション。実に楽しいライヴだった。


「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン」@アーティゾン美術館23.11.11

アーティゾン美術館アーティゾン美術館の企画展示「ジャム・セッション」を観てきた。

これは、アーティストとアーティゾン美術館の学芸員が共同して、石橋財団コレクションの収蔵品からインスパイアされた新作や、コレクションとアーティストの作品のセッションによって展覧会を構成する、年に一度の企画。今回は、1969年生まれの現代美術のアーティスト 山口晃とのコラボレーションである。

会場に足を踏み入れると、まずは、新作のインスタレーション「汝、経験に依りて過つ」 。何の変哲も無いロビーのような空間なのだが、床が15度傾いている。それだけで、知覚は大混乱。部屋全体が動いていると勘違いしてしまい、立っていることも覚束ない。まぁ、観光地にありがちな「びっくりハウス」的ギミックと言えばそれまでだが、格式高い美術館の展示1発目に喰らう衝撃としては、破壊力十分だ。この部屋を出てからも、しばらくは真っ直ぐ歩けなかった。

肝心のセッションでは、セザンヌの「サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール」と、山口晃の新作「セザンヌへの小径」が、同じ部屋の向かい合わせの壁に展示されている。ぱっと見にはセザンヌの作品の要素を抽出して再構築した作品としか見えないが、この展覧会の特色、山口晃による漫画を交えた解説(風のエッセイ)が、たっぷりと掲示されていて、その趣向の奥深さを読み取れるという構成になっている。

もう一つのセッションは、雪舟の「四季山水図」に、墨絵風の抽象画を組み合わせた展示。こちらも、作者自身の解説に読み応えあり。

それ以外にも、大河ドラマ「いだてん 〜東京オリムピック噺〜」のオープニングタイトルバックを飾った「東京圖1・0・4輪之段」の原画や、新作の絵画、インスタレーションが多数展示。作者自身による漫画風解説エッセイがたっぷり付されていて、芸術家の思考の奥深さを、取っつきやすい語り口(内容は、中々難解だが)で読むことができるのが、興味深い。

下のフロアでは、同時開催の展覧会「創造の現場―映画と写真による芸術家の記録」。アーティゾン美術館の前身「ブリヂストン美術館」が1953年~1964年に製作した「美術映画」シリーズと、それに関わる作品が展示されている。全部観ていると、2時間30分必要ということで、全編制覇は諦めたが、坂本繁二郎など、教科書上の人物と思っていた画家のリアル動画を見られる機会は貴重だ。

さらに、その下のフロアでは「石橋財団コレクション選」が展示されている。中でも、「読書する女性たち」と題された特集コーナーが興味深い。タイトル通り、読書する女性をテーマにした、主に18世紀以降のフランスの絵画と、それに学んだ日本の近代画家の作品が並んでいるのだが、多くのフランス絵画の中の女性たちは、本を膝に乗せたりはしているが、視線は紙面に向いておらず、読んでいるようには見えない。が、その違和感は、掲示してある解説により氷解。19世紀のフランスでは、男女の識字率の差は無かったものの、男性が社会・経済・政治などの分野の書物を読むのに対し、女性は、あくまでも小説。その頃の男性は、女性が知識を持つことは家庭の平和を乱す脅威だと感じていたそうだ。結果、当時描かれた絵画では、男性は読書に専念する姿で描かれる一方、女性は書物を傍らに置いて物思いにふける様子で描かれていたとのこと。なるほど!

ということで、3フロア、それぞれ、新しい知見を得られるとても興味深い展示が繰り広げられていて満足度高し。ただ、時間を読み間違えて、閉館の2時間前から鑑賞し始めたのは、時間が足りなすぎで、失敗だったな。



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”The Marvels”23.11.10

"Marvel Cinematic Universe"(MCU)の新作を観てきた。今回の主人公は、”Captain Marvel”。Avengersの中でも、その強さが桁外れのスーパーヒーローだ。その彼女が、オタク高校生の新世代ヒーローを含む三人でチームを結成するという趣向。

わちゃわちゃしたストーリー展開と、緩急の付け方が全く効果的では無い演出。壮大なスケールの割に、穴だらけの設定。主役のCaptain Marvelの優等生キャラも面白さを減じている。唯一、Samuel L. Jacksonが、嬉々としてNick Furyを演じている姿が微笑ましいぐらいしか、面白いと思える箇所が無い…。まあ、好意的なレビューが多いみたいなので、私に合わなかったということだろう。

あと、MCUらしい次の展開への期待を持たせるラスト・シーンは憎い。X-MenのMCU参戦もいよいよ実現するのだろうか?

MCU作品にしては短い 1時間45分。スピーディーで軽快なアクションを期待していたのだが、久々の大外し映画だった。残念。



ギリギリまで夏服とタオルケットを引っ張っていて、週の半ばで冬用スーツと羽毛布団を取り出したのは、我ながらナイス・タイミング。しかし、数年後には、夏と冬の二季どころか、雨季と乾季になってしまうのかも…