IN/OUT (2023.2.5)

ミュージシャンの訃報が続いています。今週は鮎川誠。シーナ&ザ・ロケッツは好きなバンドだし、矢野顕子の名曲「げんこつやまのおにぎりさま」のギターソロでもお馴染みですが、私にとっては、それ以上に印象深い人です。

1996年、彼が自らHTMLを手書きしてrokkets.comを公開しました。丁度、同じ頃、私もこのサイトを始めたところだったので、とても共感を覚え、彼がその顛末を描いた「DOS/V BLUES」の出版記念イベントにも行き、そこでの彼の言動に感銘を受けてメールを出したら、直接、返信をいただきました。これで、完全に彼の人柄にやられてしまいました。まさに、カッコ良い大人でした。


in最近のIN

「ミスタームーンライト 1966 ザ・ビートルズ武道館公演 みんなで見た夢」23.2.4

1966年6月の、The Beatlesの来日公演を巡るドキュメンタリー映画を観てきた。

日本のロック&ポップス史上の重要な出来事を、多角的なインタビューと巧みな編集で描き出す。ただし、あくまでも日本の受け容れ側がメインのドキュメンタリーなので、The Beatlesメンバー本人へのインタビューは無く、演奏シーンなども殆ど無い。

松本隆、加山雄三、黒柳徹子、財津和夫、きたやまおさむ、湯川れい子。さらに、ミュージック・ライフの元編集長 星加ルミ子。若い世代では奥田民生や井口理など、有名人・芸能人へのインタビューも面白いが、JALの機内であの法被をThe Beatlesメンバーに渡した客室乗務員 コンドン聡子や、日本武道館の総務部で働いていた齋藤壽夫といった、裏方系の人達の話がすこぶる面白い。

中でも、東芝音楽工業でThe Beatlesの担当ディレクターだった髙嶋弘之の話は興味深い。今だったらコンプラ的に問題になりそうな売り込み作戦などは抱腹絶倒だ。しかし、滅茶苦茶なエピソードの裏に熱い情熱がたぎっているのが好感度高し。

とにかく、インタビューを受けている人全員が、実に楽しそうに当時の思い出を語っているのが微笑ましい。同時代を共有できた人達が羨ましくなる。


「インターメディアテク開館十周年記念特別展示『極楽鳥』」@JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク23.2.4

インターメディアテク日本郵便株式会社と東京大学総合研究博物館が協働で運営している博物館「インターメディアテク」に行ってきた。場所は、丸の内JPタワー。東京中央郵便局が入っているビルの商業施設「KITTE」の2階と3階である。

常設展示(写真撮影不可)は、東京大学が所蔵する大小様々な骨格標本などが並ぶ。博物館としては狭い空間だが、古き良き博物館という趣で、クオリティは高い。


インターメディアテクそして、開館10周年記念の特別展示が「極楽鳥」。共催に名を連ねるのが「L'ÉCOLE DES ARTS JOAILLIERS」(レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校。宝石、時計、香水を扱うフランスのハイ・ジュエリー・メゾン Van Cleef & Arpelsが支援し、2012年にパリに設立された宝飾芸術の学校)。東京大学が所蔵する鳥の剥製標本と、鳥をモチーフにした宝飾品が並ぶという趣向。

タイトルになっている極楽鳥は、正式な和名はフウチョウ。パプアニューギニアの国鳥にもなっている。

インターメディアテクまた、オナガドリの剥製も展示されていたが、想像していたより遥かに長い尾だ。。散歩させるときは、傷つけないよう、飼い主が尾を持ってついて行くという解説文が面白い。

インターメディアテク宝飾品の方も、流石の美しさ。

ただ、宝石という物には全く縁が無いので、どれを観ても、綺麗だなぁ、しか感想が出てこないところは、我ながら、猫に小判である。

インターメディアテク常設展も特別展も、見所たっぷりで入館料は無料。今年で開館10周年ということだが、これまで訪れたことが無かったのは不覚である。東京駅近辺でちょっとした空き時間が出来たときに、超お薦めのスポットだ。


”The Banshees of Inisherin”23.2.4

"Three Billboards Outside Ebbing, Missouri"のMartin McDonagh監督の新作を観てきた。邦題は「イニシェリン島の精霊」。

舞台は1923年のイニシェリン島。アイルランドの西側にある田舎の島である。Colin Farrellが演じる、いかにも朴訥な男性(毎日、2時からパブで酒を飲む、何も考えていないタイプ)が、Brendan Gleesonが演じる年長の友人(フィドルを弾き、作曲をたしなみ、思索を好むタイプ)から唐突に絶交を告げられる。Colin Farrellにはその理由が全く思い当たらないが、Brendan Gleesonの態度は頑なだ。話はこじれ、事態は悪化の一途を辿り、島に不穏な空気が立ちこめる。というお話。

悪化した関係を修復できない不器用な男達が破滅していく様を描きながら、主人公の妹や、粗暴な警察官とその息子が織りなすサイド・ストーリーが重層的に綴られ、閉鎖的な島での人間関係が持つ歪な圧力が浮き彫りになる。その一方、この時代のアイルランドは内戦の最中。対岸の本土からは銃撃戦の音が聞こえてくる。アイルランド本土での同胞同士の殺し合いと、島での親友だった二人の深刻な仲違いが、相似形を成しているとも捉えられる。

決して分かりやすい映画では無い。荒涼とした島の風景と、ストーリーの暗さが重なり、何とも重苦しい。しかし、ちょっとしたポイントで笑いの要素を入れてくるのが、Martin McDonagh監督の持ち味だ。Colin Farrellの八の字眉毛と、彼が飼っているロバの可愛らしさも見所。独特の余韻が長く残る作品だ。実際、鑑賞の翌日になっても、何だかずしんとした感触が残っている。



訃報の後、SNS等に溢れる彼に関する書き込みなども、全て、良い人&カッコ良い人エピソードであることに、深く共感します。シーナ&ザ・ロケッツの単独ライヴを観る機会が無かったのが、実に残念です。