IN/OUT (2022.8.14)

土曜日ピンポイントで台風襲来。幸い、この近辺には大きな被害は無く、あっという間に過ぎていきました。


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「雲をつかむ:原美術館/原六郎コレクション」 @ 原美術館 ARC22.8.11

原美術館 ARC群馬県渋川市にある、原美術館ARCに行ってきた。

北品川にあった、現代美術専門の原美術館には、会員になって足繁く通っていたのだが、2021年1月に建物の老朽化のため閉館。随分と遠くに拠点を移してしまった。それから一年以上経って、ようやくの再訪である。入り口で、Jean-Michel Othonielの作品が出迎えてくれる。

原美術館 ARC「雲をつかむ」という展覧会のタイトルは、非現実的と思われることに挑戦する姿勢や、真実らしきもの捉えようとする意志など、作品制作や鑑賞のあり方を表しているそうだ。捉えどころが無いというようなネガティブな使い方では無い。

原美術館 ARCJR渋川駅から路線バスで20分ほど。伊香保グリーン牧場という家族連れ向けの観光地に隣接した、かなり広大な敷地である。

原美術館 ARCまずは、敷地内のカフェ、「カフェ ダール」で昼食を取る。旧原美術館時代のカフェダールと比べると、雰囲気もメニューも、やや残念な事になっている気がするが、来訪者数が相当減っていると思われるので、仕方あるまい。

隣には、Andy Warholによるキャンベル・スープ缶の立体造形。

肝心の展示室は、Gallery A、Gallery B、Gallery Cと、特別展示室「觀海庵」の四つ。Gallery Aには、杉本博司とRichard Longの作品が展示されていた。いかにもの現代美術という感じだが、ちょっと好みじゃないかな。

Gallery Bには、旧原美術館で観て心に残っていた佐藤時啓の写真作品や、束芋のビデオ・インスタレーション「真夜中の海」といった印象的な作品がある。が、何よりも、奈良美智の「My Drawing Room」と宮島達男の「時の連鎖」という、旧原美術館の常設展示が移設されているのが嬉しい。特に、奈良美智の作業部屋を再現した「My Drawing Room」が保存されたのは、本当に良かったと思う。

Gallery CにはJean-Pierre Raynaudの作品(旧原美術館にあった彼の常設展示は、残念ながら移設されなかったようだが)や、Nam June Paikの作品など。そして、圧巻は草間彌生の「ミラールーム(かぼちゃ)」だ。彼女の作品には苦手意識がある私も、ただただ圧倒されるインスタレーションである。

特別展示室は、現代美術と東洋古美術が共存する空間になっている。旧原美術館から須田悦弘の「此レハ飲水二非ズ「鉄線」」が移設されていたのだが、その雰囲気が全く変わっていて驚いた。移設する際に、そう切り出して、こう展示したのか!と感嘆。こういう再会も楽しい。

原美術館 ARCまた、屋外にOlafur Eliassonの「SUNSPACE FOR SHIBUKAWA」という作品が展示されている。「天空を横断する太陽の軌跡を、年間を通して視覚的にとらえる観測所」というもの。ドームの中に、プリズム・レンズを通った太陽光が描く虹が映し出される。季節や時間、天候によって見え方が変化するという趣向。

原美術館 ARC敷地の広大さに比して、展示室の規模はそれほど大きくはないが、センスの良い展示は旧原美術館のまま。アクセスは悪いが、遠出する価値は十分にある空間だ。ただ、今回は、北関東の酷暑を甘く見ていた。涼しい時期に、またゆっくりと訪れたい美術館だ。


「Baby Q 横浜場所」@神奈川県民ホール22.8.12

弾き語り形式のインドア・フェス「Baby Q」。横浜と大阪で開催されるが、その横浜公演に行ってきた(大阪は、9月3日開催予定)。

会場は、キャパ 2,493人の大ホール。弾き語りのみの公演なので、ステージ上は極めて簡素。椅子とギターがセットされているだけだ。出演は、ハナレグミ、矢野顕子、大橋トリオの三組。「何故、このブッキング?」というのは、出演者自身も疑問に思っていたらしい。ハナレグミと大橋トリオが出した結論は、「矢野さんという大樹を、二人で囲む」。

まず、ハナレグミ。永積タカシのソロ・ユニットである。シンプルなギターの弾き語り。私は、名前を知っているだけでほとんど聴いたことがなかったミュージシャンだが、中々の実力派だと感じる。くるりの「男の子と女の子」のカバーもやっていた。MCで、矢野顕子のアルバム「SUPER FOLK SONG」と「PIANO NIGHTLY」に対する熱い想いを語っていて、私的な好感度、爆上がりである。

ハナレグミが退場し、ステージ上にグランドピアノが搬入される。その間、バックには"Don't Sit Under the Apple Tree (With Anyone Else But Me)"などが流れている。

そして、お目当ての矢野顕子が登場(正直、トリじゃないのか! と驚いた)。「わたしのバス(Version 2)」、「ラーメンたべたい」、「SUPER FOLK SONG」、「音楽はおくりもの」、「GREENFIELDS」、「ひとつだけ」を演奏。

自分のファンだけが集まる単独コンサートでは無いので、マニアックさは排除。超ド鉄板の選曲である。そして、いつもよりも明瞭さを心掛けているような歌唱と、力強さ重視気味のピアノ演奏。この「他流試合モードの矢野顕子」が実に良い。ソロ公演時の親密さ溢れる弾き語りも好きだが、こういうタイプの演奏を堪能できるのがフェス形式のライヴの醍醐味。それにしても、今日のパフォーマンス、全曲、本当に素晴らしかった。

三番手、大トリは大橋トリオ。マルチ・プレイヤーの彼は、ピアノ、鍵盤ハーモニカ、ギターを演奏。本人は、弾き語りは得意では無いと言っていたが、中々どうして、才人ぶりが伝わってくるパフォーマンスだ(彼は、矢野顕子とコラボレーションしたことがあるので、私も知っているのだ)。

なお、大橋トリオ・グッズには「TRIO ECHO」なるバードコール(小鳥のさえずりのような音が出る)があるらしく、彼が曲間に話している間、会場中から、小鳥のさえずりが聞こえてくる。色々なファン文化があるものだ。

アンコールに、大橋トリオ再登場。そして、矢野顕子も呼び込む。「その音、止めてくれる?」と、大橋トリオ・ファンのバードコール文化をバッサリ。流石だ…。二人で演奏するのは、10年前にコラボレーションし、レコーディングした曲「」。二人の歌声の重なり。そして、矢野顕子のピアノと大橋トリオの鍵盤ハーモニカの絡み。うっとりするほど美しい共演だ。

演奏終了後、ハナレグミもステージに出てきて、皆で記念撮影して全編終了。19時開始で、21時50分頃まで(出演者転換時のセッティングに改善の余地はあると思う)。とても楽しいライヴだった。結果として、この三人のブッキングは大成功だったと思う。そして、オーソドックスなアコースティック・セットという感じのハナレグミと大橋トリオに挟まれ、矢野顕子の異能ぶり・異彩ぶりが際立っていたというのは、ファンの贔屓目かな。


「ガブリエル・シャネル展 MANIFESTE DE MODE」@三菱一号館美術館22.8.13

三菱一号館美術館
20世紀で最も影響力があったデザイナーとも言われる Gabrielle Chanel(Coco Chanel)の回顧展を観に、三菱一号館美術館に行ってきた。

この手のハイ・ブランドに詳しい訳では無い私でも知っているシャネルである。改めて、「リトル・ブラック・ドレス」や「シャネル No5」、そして、「シャネル・スーツ」などが持っていた革新性と当時の社会に与えた影響を示す展示は、なかなかエキサイティングで興味深い。

ただし、この展覧会は、あくまでも彼女のデザイナーとしての業績を示すもので、彼女の人となりや、波瀾万丈とも言える生涯、時代との関わりなどには触れていない。そこは、美術館としての矜持だとも思うが、やや物足りないところもある。

館内には、日頃の美術展のようなキャンバスでなく、シャネルのドレスに身を包んだマネキンがずらっと並んでいる。が、それが、三菱一号館美術館の建物の雰囲気に良く合っていて、趣深い空間になっていた。



台風が発生する前に予約してしまっていた三菱一号館美術館。しかも、土曜日の17時からという、最も風雨が激しくなる時間帯。最悪の選択でした。が、東京駅から地下道だけを通ってアクセス可能なことが分かり、結果オーライ。