IN/OUT (2023.2.12) |
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金曜日は、降雪予報を受けてテレワーク籠城でしたが、結果、みぞれが少し降った程度で積もることは無し。ありがたいような、少し残念なような。 最近のIN"Fall" (23.2.9)地上600mの鉄塔の上に取り残された女性のサバイバルを描く映画を観てきた。 主人公は、フリークライミング中の事故で夫を亡くして以来、立ち直れずにいる。そんな彼女を心配した友人女性が、彼女を立ち直らせようと、新しい冒険に誘う。それは、荒野に建つ、老朽化し、すでに遺棄された状態のテレビ塔。高さ600m。しかし、鉄塔を上り詰めたところでハシゴが崩れ、二人は取り残されてしまう。あまりの高度で携帯は圏外。撮影用に持ってきたドローンはバッテリー切れ。さぁ、どうする。という、一発アイディアの107分映画。 シンプルな設定だが、見せ方が上手い。というか、ホラーでも無いのにここまで怖い映画は滅多に無い。高い所が好きな人にはスリル満点で楽しめるのかもしれないが、私は駄目だ。もう、手に汗を握りっぱなしで腰は浮きっぱなし。高度をしっかり感じさせる撮影のアングルが絶妙だ。 さらに、シンプルな設定の中に、いくつもの伏線とその回収が描かれるし、ストーリーの捻りも効いている。唯一の問題は、二人の女性が、どちらも(私には)面倒くさいタイプで、あまり好きになれないところか… CGも使っているのだろうが、それを感じさせないリアルな没入感。超大作や話題作といった感じでは無く上映館も多くないが、これは観るべき、いや、体感すべき映画だ。 「第16回 shiseido art egg 岡ともみ展『サカサゴト』」@資生堂ギャラリー (23.2.11)資生堂ギャラリーの公募プログラム「shiseido art egg」の第16回の入選者の一人、岡 ともみのインスタレーションを観てきた。 死者が出た際に日常の様々な動作を逆に行う「サカサゴト」という風習。縄文時代から、あの世はこの世とあべこべであると信じられていたことに由縁するもので、こちらが夜ならあちらは昼。こちらが右前に着物を着るならあちらは左前。今も縁起担ぎとして生き続ける風習に着目したインスタレーションである。照明を落とした空間に、古い柱時計がいくつも展示されている。文字盤は裏返しになっており、針は逆回転。そして、振り子があるべき場所には、死や葬儀を想起させる様々な映像が映し出されている。なお、写真は明るめに補正されているが、実際の会場は、非常に暗い。 もう一つの展示室には、雨が降りしきる中に紫陽花が咲く光景がガラス窓の中に見える。岡ともみが祖父の葬儀で手向けたという青い紫陽花がモチーフになっているそうだ。 このギャラリーは、東京銀座資生堂ビルというお洒落スポットにある。上層階は資生堂パーラーのレストランがある明るい世界(足を踏み入れたことが無いので、想像だが…)。しかし、ギャラリーがある地下に続く階段を降りると、そこには、死者の世界と隣り合わせになった、湿度の高い古き日本を感じさせる空間が拡がる。そのギャップが、実に刺激的で、とても印象的なインスタレーションだ。 ”Tout s'est bien passé” (23.2.11)Sophie Marceau主演、François Ozon監督の新作を観てきた。邦題は「すべてうまくいきますように」。 85歳で脳卒中に倒れ、不自由な体で延命されるよりも尊厳死を願う父と、それに向き合う娘の葛藤を描く。 設定は、ヘビーだ。特に、我々の年代には他人事では無い。色々、思うところはある。しかし、この映画は、過剰に感傷的になることも、感動を押しつけることも無い。 Emmanuèle Bernheim(Ozon監督の”Swimming Pool”の脚本家)による原作小説は、彼女の自伝的作品ということだが、尊厳死を巡る様々な詳細(ある意味、ドライに、事務的に手続きは進む)が、極めてリアルに描かれている。 父親は、成功した実業家で、人生を謳歌し、高名な美術コレクターでもある。二人の娘の内、一人は小説家で、もう一人はクラシック音楽業界でバリバリ働いている。色々と微妙な問題も抱えている家族なのだが、少なくとも経済的にはまったく問題が無い。そのため、フランスでは違法とされる尊厳死をスイスで叶えようとする事を巡っても、資金的な事が問題に上がらない。悪く言えば、浮世離れしているとも言えるが、余分なノイズが入らない分、娘の葛藤がより純化されて迫ってくる。 父親を演じるAndré Dussollierの、緩急自在のリアルな演技も見応えがあるが、それ以上に、長女を演じるSophie Marceauが、とにかく素晴らしい。終盤の、レストランで最後の食事を共にするシーンの演技で、私の涙腺決壊である。1980年の”La boum”でのアイドル時代から知っている者としたら、このように見事に年齢を重ね、名優の域に達したことが実に嬉しい。 地味で、若い世代の人にはピンとこない内容かもしれないが、難しい題材を絶妙な距離感で描くOzon監督の手練れの演出と、俳優陣の名演は、多くの人に観てもらいたいと思う。 「ポスターでみる映画史 Part 4 恐怖映画の世界」@国立映画アーカイブ (23.2.11)宣伝ポスターを中心に恐怖映画の系譜を歴史的にたどるという国立映画アーカイブの企画展を観てきた。 国立映画アーカイブは、独立行政法人国立美術館が運営する、日本で6館目の国立美術館である。以前、「製作50周年記念『2001年宇宙の旅』70mm版特別上映」を観に来たが、7Fの展示室を訪れるのは、今回が初めてだ。 この展示室は、前半が常設展「NFAJコレクションでみる 日本映画の歴史」。そして、その後に企画展が続くという構成になっている。 常設展には、重要文化財に指定されている1899年製作の「紅葉狩」から続く日本映画の歴史が、貴重な資料と共に展示されている。 そして、企画展。古くは1919年の「カリガリ博士」の西ドイツ版ポスターから、清水崇の最新のJホラーまで、多くのポスターが並ぶのは壮観。懐かしい作品、好きな作品も多数。「エログロ」は商業映画を支える大きな要素の一つだなと実感したりもする。一方で、「恐怖映画」と銘打ちながら、横溝正史原作のミステリー映画が入っていたりするのには首を傾げるが、まあ、キュレーターの趣味なのだろう。 また、恐怖映画の音楽が流れているコーナーもあり、「The Exorcist」のテーマとしてMike Oldfieldの「Tubular Bells」が(映画では使われていないパートも含め)たっぷり流されていたのは、個人的にはポイント高し。 入場料 250円にしては、たっぷり楽しむことが出来る展示だった。 そうこうしている内にも、確実に春は近づいているようで、スギ花粉、飛び始めましたね。 |