六本木ヒルズの屋外広場に展示されている巨大な蜘蛛のオブジェ「ママン」の作者、Louise Bourgeoisの展覧会を観に、森美術館へ行ってきた。
1911年パリで生まれ、ニューヨークに移住し、2010年に98歳で亡くなるまで創作を続けた彼女は、主に自身が幼少期に経験した、複雑でトラウマ的な出来事をインスピレーションの源としているということで、取っつきにくい印象があるのだが、果たして…
この展覧会の副題は、彼女の作品(ハンカチに刺繍したもの)に描かれた言葉
”I HAVE BEEN TO HELL AND BACK.
AND LET ME TELL YOU, IT WAS WONDERFUL.”
ハードボイルドな言葉に、彼女の強烈な個性と意思が現れているようだ(日本語訳も上手いと思う)。
しかし、作品は手強い。生々しく、荒々しく、露骨に性的な造形は、正直、嫌悪感を覚える物も多い。高圧的な父親を食卓の上で解体し、食べてしまうという禍々しい妄想を立体にした「父の破壊」など、キツい物もある。ほぼ全作品、写真撮影可能だったのだが、なかなかエグい画像が多い…
そんな中、「荷を担う女」は、比較的、おとなしい印象の彫刻だが、込められた意図は、やはり重い(3人の息子を持ったBourgeois自身を表した彫刻。NHKの「日曜美術館」で予習しておいて良かった。)。
片足の無い人物が樹木と化し、実をつける「トピアリーIV」は、グロテスクではあるが、希望と再生が感じられ、今回の展示の中では、かなり好印象の作品だ。
そして、彼女を代表するモチーフの1つは、やはり、蜘蛛。これは、展示の前半に設置された「かまえる蜘蛛」と題された大型のブロンズ彫刻。敵を威嚇しているような緊張感のある作品だ。
一方、展示の後半に設置された「蜘蛛」は、卵を抱え、より母性を感じさせる。
そしてもう一つ、素朴で愛らしい蜘蛛のドローイングも展示されていた。これは、本当に部屋に入ってきた蜘蛛をスケッチしただけのシンプルな作品らしい。
ということで、必ずしも私の好きなタイプのアートでは無く、そこに込められた思いもキツい感じではあった。二階堂ふみによるオーディオ・ガイドは、内容的には少し物足りなかったが、彼女の湿度の高い声質が、強烈な作品群と良く合っていたと思う。とにかく、異様な迫力で圧倒してくる展覧会だった。
2024年は。世の中の流れが、加速度的にマズい方向に転がっているように感じることが多々ありました。あるいは、自分が時流について行けなくなっているだけかもしれない…。2025年、世の中も自分も、どうなることか。