IN/OUT (2024.5.12)

春の矢野顕子祭りが終わったと思ったら、連休明けから続々と新しいライヴ情報が。矢野顕子以外にも大物バンドの来日や、豪華ミュージシャンの共演などなど。争奪戦が熾烈そうだけど、どれも負けたくないなぁ。


in最近のIN

”Tiger 3”24.5.6

インドの映画製作会社 Yash Raj Filmsが、”YRF Spy Universe”としてシリーズ展開しているスパイ映画の新作を観てきた。タイトルから判る通り"Ek Tha Tiger(タイガー 伝説のスパイ"シリーズの3作目でもある(ただし、シリーズ第2作は日本未公開)。主演はもちろん、Salman Khan! ヒロインはKatrina Kaif!! 邦題は「タイガー 裏切りのスパイ」

1作目から10年以上の時間が経っているので、主役の2人は落ち着いた夫婦になり、男の子も一人いる。しかし、この男の子が人質に取られ、2人は、(例によって)インドの対外諜報機関 RAWとパキスタンの軍統合情報局 ISIを巻き込んだ陰謀の渦中へ。

そこからは、無理矢理な設定をゴリ押しして、カッコさえ良ければOKというアクションの連続。物理法則とモブ・キャラの命は軽視され続ける(任務に忠実なだけの兵隊さんが殺されまくるのは、さすがに可哀想になる…)。

そして、”YRF Spy Universe”の前作"Pathaan"とは逆のパターンで、Tiger=Salman Khanの絶体絶命のピンチに、颯爽と駆けつけるPathaan=Shah Rukh Khan(SRK)! このシーンには、(頭の片隅では馬鹿馬鹿しいと思いながらも)熱く興奮する。相当誇張して描いているのは承知の上だが、SRKの格好良さは、やはり際立っている。

インド映画としては短い156分の作品だが、あまりに密度の濃いアクション・シーンの連続に、"Intermission"の文字が表示された時点で(インド映画恒例の途中休憩。日本の映画館では、休憩は入らず、そのまま続けて上映される)、すでに1本見終わったような満腹状態である。が、後半、派手なアクションはさらに加速する。味方側にも犠牲者が続出するハードな展開だが、もちろん、最後に悪者の陰謀は阻止される。ただ、ここまで、「インドがパキスタンの自由と民主主義を守ってあげたのだ」という恩着せがましいストーリーで、印パ関係は大丈夫か?と心配になるインド至上主義は、日本人の理解を超えているような…

劇中ではアクションの連続で、地味な格好しか見せていないKatrina Kaifは、最後のクレジットで流れる歌とダンスシーンで、華やかなファッションとスタイルの良さをたっぷりと披露してくれる。眼福。

ということで、インド映画に耐性が無い人には勧めづらいが、好き者には堪らない、インド娯楽アクション映画の魅力が詰まった作品だ。


”MICHEL CAMILO TRIO featuring DAFNIS PRIETO & RICKY RODRIGUEZ” @ ブルーノート東京24.5.6

ブルーノート東京ドミニカ出身のジャズ・ピアニスト Michel Camiloのトリオ公演を観に、ブルーノート東京に行ってきた。彼のライヴは、2022年5月のソロ公演以来だ(これは、ブルーノート東京にとって2年2ヶ月ぶりの、コロナ明け最初の来日ミュージシャンのステージ)。

今回は、プエルトリコ出身のベーシスト Ricky Rodriguez、キューバ出身のドラマー Dafnis Prietoを従えての、カリビアン・トリオでの公演だ。ベースのRicky Rodriguezは2019年ブルーノート東京でのMichel Camilo Trio公演で、ドラムスのDafnis Prietoは2008年の「東京JAZZ」でのMichel Camilo Trio公演で、それぞれ観ているのだが、すいません。あまり記憶には残っていなかった。

私が参戦したのは、3日間公演の2日目、2nd show。ブルーノート東京のスタッフによれば、初日の1stから、Michel Camiloは凄い熱量での演奏。さらに、控え室でもワインを飲みながら、絶好調のご様子とのこと。期待が持てる。

開演。いつもながら、超高速で圧倒的な音数を繰り出しながら、1音1音の輪郭がくっきりとした力強いピアノが大迫力。しかし、それ以上に度肝を抜かれたのは、Dafnis Prietoのドラムスだ。以前に彼を観た2008年の東京JAZZは、私が始めて観たMichel Camiloのライヴだったので、ピアノの印象ばかりが強く残っていたのだが、こんなに凄いドラマーだったか!とにかく手数が多く、アイディアに溢れた様々なパターンのリズムを歯切れ良く繰り出す。ピアノとドラムスの超絶技巧の掛け合いを、しっかりと支えるベースも、見事な仕事ぶり。アイコンタクトを頻繁に交わしながら、楽しそうに白熱の演奏を続けるトリオ。アップテンポの激しい曲と、比較的スローでじっくり聴かせる曲を交互に演奏していくが、どの曲も素晴らしい。

特に、本編最後の定番曲 ”On Fire”がとんでもないことになっていた。ピアノとドラムスの凄い掛け合いに驚いていると、さらに、それを超えるフレーズが展開され、驚愕が上書きされる、というのを延々と繰り返され、プレイヤー達の熱量も会場のヴォルテージも天井知らずに高まりまくり。これぞ、ライヴの醍醐味。いやはや、本当に凄い演奏だった。

アンコールは、少しギアを下げた曲で締めて、全編終了。超大満足のライヴ体験だった。


"Picnic at Hanging Rock"24.5.11

1975年のPeter Weir監督によるカルト作が、「ピクニック at ハンギング・ロック 4Kレストア版」として公開されているのを観てきた。

1900年、オーストラリアの女学校の生徒がHanging Rockという岩山へピクニックに出かけるが、そこで奇妙な現象が起き、3人の生徒と1人の教師が行方不明になったという事件を描いた作品。原作者 Joan Lindsayが見た夢に基づいたフィクションだが、実際に起きた事件という噂がまことしやかに語られてもいる(Hanging Rockは実在する)。Peter Weir監督の出世作で、後の様々な映画や小説に影響を与えたとも言われている映画だが、私はリアルタイムでは見逃していた。

前半で描かれるピクニックのシーンは、本当に見応えがある。ヴィクトリア朝の上流階級の子女らしい、お揃いの白いおしゃれ着(洋服の下にはコルセット!)の少女たちを、荒々しいオーストラリアの岩山に配置する構図は、どこを切り取っても美しく、同時に不気味さも秘めている。足下をアリやトカゲが這い回る映像が挿入され、何かは分からない恐ろしさを煽る。

そして、4人が行方不明になるが、実際に何が起こったのかは明示されない。登場人物たちも、観客も、漠然とした不安に苛まれるところまでは、さすが、40年間語り継がれた伝説的映画だと感心。

私にとって意外だったのは、映画の後半で失踪事件後の様子もしっかり描写されること(ピクニックのシーンがメインだと思っていた)。ここでも、様々な謎が提示され、関わった人達の日常を狂わせていく。前半の超自然ミステリーの趣から一転、心理的ホラー映画の様相を示す。直接的に怖いのではなく、ジワジワと浸食してくるタイプの怖さ。ただ、正直、後半は勢いが無くなって、やや冗長さも感じてしまった。それでも、全ては語りきらないまま終わるラストは、独特の余韻を残す。

その後の、美少女が登場する作品や、都市伝説風の映画・ドラマなどに多大な影響を与えたのも納得の映像と演出。とても、印象深い映画だった。

余談だが、後に名匠と呼ばれるようになる監督が、その初期に、美少女たちが災難に遭う映画を撮ったということで、何となく、大林宣彦の「HOUSE ハウス」を思い出してしまった。


"Vincent doit mourir"24.5.11

フランスのスリラー映画を観てきた。英語タイトルは"Vincent Must Die"。邦題は「またヴィンセントは襲われる」

周囲の人と目が合っただけで、相手が突然襲いかかってくるという現象に悩まされる男が主人公。突然向けられる殺意と暴力から逃れるため田舎の別荘に引きこもるのだが…という不条理スリラーだ。他人との接触が危険を招くのだが、それでも他者と関わらずには生きられないという、コロナ禍をくぐり抜けてきた時代の寓話という感じもあるし、理不尽な暴力が蔓延する世界情勢への皮肉という感じもある。

意外だったのは、この現象が主人公の個人的なトラブルに留まらず、社会全体に拡散すること。ちょっと風呂敷を広げすぎた気もするが、終盤の情景には、J. G. Ballard風味も感じてしまった。変化球的なスリラーだが、非常に現代的な映画だ。

そして、犬ちゃん映画としても優れている。主人公が自衛のために飼うことにした犬が、実に素晴らしいキャラなのだ。



それにしても、ここ最近、ライヴの料金がことごとく値上げになっているのも辛いところです。