IN/OUT (2024.8.4)

夏期休暇前半は、関西に行っていました。夕食難民気味になりつつ、ググって行ってみた店は、雰囲気と味の落差が酷かったり、味は良くてもカウンターの隣にいた常連おじさんが面倒くさかったり…。


in最近のIN

「描く人、安彦良和」@ 兵庫県立美術館24.7.30

兵庫県立美術館「機動戦士ガンダム」のキャラクター・デザイナー兼アニメーション・ディレクターとして有名な安彦良和の回顧展を観に、兵庫県立美術館に行ってきた。今年は安彦良和が喜寿を迎える年 &「機動戦士ガンダム」放映45周年でもある。

展示は、時系列に沿っている。まずは、彼が中学時代に書いていた学習ノート、その名も「重点整理帳」に驚かされる。国語、社会、歴史、理科など、教科毎に授業の要点をイラスト付きでまとめた手書きのノートだ。詳細な記述だけでなく、教科毎に独自キャラクターが解説する構成で、このまま「学習用漫画」として市販しても良いぐらいのレベル。当時から、絵は上手いし、的確な重点のまとめ方から、その頭の良さが伝わってくる。これを観られただけで、十分な価値がある展覧会だと思った。

が、そこからも圧倒的な物量の展示が続く。左翼思想に染まり、弘前大学で学生運動のリーダーとなるも、闘争に破れ、上京。アニメの仕事を始める。そこから、「宇宙戦艦ヤマト」、「勇者ライディーン」、「超電磁ロボ コンバトラーV」、「無敵超人ザンボット3」、「クラッシャージョウ」、「ダーティペア」などなど、私にとって思い出深いアニメの数々が、原画と絵コンテ、そして完成したアニメーションの動画をセットで展示するという、充実の見せ方で並んでいる。「ヤマト」における西崎義展プロデューサーとの(面倒くさそうな)やり取りや、「ガンダム」における大河原邦男とのプロフェッショナルなやり取りなど、裏話的な面白さも満載(そう言えば、「大河原邦男展」を観たのも、兵庫県立美術館だった)。

最近の、彼が漫画に専念してからの歴史物は、全く追いかけていなかったのだが、その質の高さと、筋が通った思想には感心。また、アニメの現場に復帰した「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」や「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」に対して私が抱いていた、何故、今更?という疑問も、彼にとっては必然だったことが分かる。

オーディオ・ガイドは池田秀一!的確な説明をシャア・アズナブルの声で聞けるのも楽しい。この展覧会は、この後、島根県立石見美術館に巡回するようだが、東京の予定は無し。良いタイミングで訪れることが出来た。


「めくらやなぎと眠る女」& ”Blind Willow and Sleeping Woman”24.7.30, 31

テアトル梅田村上春樹の6つの短編「かえるくん、東京を救う」、「バースデイ・ガール」、「かいつぶり」、「ねじまき鳥と火曜日の女たち」、「UFOが釧路に降りる」、「めくらやなぎと、眠る女」を再構築したアニメ映画を観てきた。監督は Pierre Földes。ハンガリー人の父とイギリス人の母の間にアメリカで生まれ、パリで育ち、ニューヨークでキャリアをスタートさせた後、ヨーロッパへ渡ったというコスモポリタンだ。そして、この映画は、フランス、ルクセンブルク、カナダ、オランダ合作。最初に作られたのは英語版で、その後、フランス語版も製作された(これが公式版)。

今回、日本で上映されているのは英語版。さらに、監督自身が熱望し、演出:深田晃司、翻訳協力:柴田元幸、音響監督:臼井勝という強力なスタッフと、磯村勇斗、玄理、塚本晋也、古舘寛治らを声優に起用して、日本語版も製作され、公開されている。

と言うことで、まずは日本語版、翌日に英語版を鑑賞することにした。

良く言えばアートっぽい、正直、不気味な感じの絵柄と、Pierre Földes自身による音楽で、好き嫌いが分かれそうだ。私も、最初は違和感ばかりで居心地が悪かったが、まあ、2時間の間に慣れる。

内容は、まさに6つの短編を(意外なほど原作を忠実に生かしつつ)再構築し、長編映画に仕立てたもの。こじらせた村上主義者が、いかにも妄想しそうな物語と言っては、意地が悪いか。原作では「UFOが釧路に降りる」の主人公 小村が、全体を通した主人公の1人としてアレンジされているのだが、彼の面倒くささは、アンチ村上主義者が揶揄する「僕」を戯画化したような印象を受ける…。当然、主人公は、地下へ続く階段を下りていくし、パスタを茹でるし、妻に逃げられても何故か他の女性にはもてる(もちろん、全て原作通りではある。映像化するとこうなってしまうのは、仕方ないのか……)。

と言うことで、興味深くはあるが、海外にも(こじらせた)村上主義者がいることを確認するような映画だった。なお、日本を舞台に日本人が登場する作品なので「日本語版」の方が自然に聞こえる。あえて「英語版」で違和感を楽しむのもありだが、「かえるくん」が”Frog”、「かえるさん」だと”Mr. Frog”になるのを聞くと、細かいニュアンスを楽しむには、日本語版で観るべきだと思う。


「上原ひろみ Hiromi's Sonicwonder」@ ブルーノート東京  (24.8.1

ブルーノート東京上原ひろみが昨年から取り組んでいる最新プロジェクト”Hiromi's Sonicwonder”の公演を観に、ブルーノート東京に行ってきた。7日間連続公演の5日目にあたる。

このプロジェクトは、現在進行形で世界中でパフォーマンスをしているが、私は、昨年12月の東京国際フォーラム ホール以来である。メンバーは変わらず
・Adam O’Farrill(トランペット
・Hadrien Feraud(ベース
・Gene Coye(ドラムス

ブルーノート東京上原ひろみのブルーノート東京公演名物の限定メニュー、私は、1t Showの前に「スープを飲み干してしまう冷やし中華」を食べた。これが、美味しい。ブルーノート東京は、ひろみ嬢の公演の度に特製ラーメンを出しているので、中華麺に関しては、ジャズクラブとは思えないレベルに達しているな。

1st Show開演。向かって左に、YAMAHAのグランドピアノとNordのキーボードをセットしたひろみ嬢。そして、トランペット、ベース、ドラムスと並ぶ布陣。まずは、Hiromi's Sonicwonderのアルバム1曲目「Wanted」。大ホールとは全然違う親密な音が嬉しい。そして、アルバム2曲目「Sonicwonderland」。ひろみ嬢の演奏にしては、キーボードの使用率が高いこの曲、特に今回の演奏は、まるっきりプログレである(聴きながら、つい、YESに加入したひろみ嬢を妄想してしまった)。4人とも、複雑なプレイをしているのに、聞こえてくる音はシンプルにカッコ良いというのが、最高だ。

そして、「アルバムの曲はこれぐらいにして、新曲をやります」という男前発言の後、披露されたのは、4曲からなる組曲。特に終盤の昂揚感がエモい。そして、アンコールでもう1曲、ポップな新曲を演奏して、1stは終了。いやはや、凄かった。昨年のホール・コンサートからものすごい進化を遂げていると思う。

そして、2nd Show。完全にギアを1段上げたプレイだ。特に、Adam O’Farrillのトランペットは、音数が1stから倍増しているのではないだろうか。そして、Hadrien Feraudの複雑で精緻なベース・ラインと、Gene Coyeの超個性的なドラムス。つくづく上手い。他に類をみないリズム隊だと思う。

例によって、1stとはセットリストを全く変えてきている。あの大作の新曲も演らない。が、別の新曲が披露された。MCで、ラーメンについてたっぷり語った後(バンド・メンバーも、全員、ラーメン好きだそうだ)、「ほとばしるラーメン愛を新曲に落とし込みました。曲名は『YES! RAMEN!!』」。遊び心溢れる、楽しい曲だ。

今回のライヴ、ひろみ嬢の表情がいつも以上に豊かなのも見所だ。超高速で演奏しながらも、(声は出さないが)笑い、歌い、時には吠える。また、Hadrien Feraudのベースに対して見せる、全幅の信頼を置いているのが伝わってくるような笑顔も印象的。やはり、これぐらいの大きさのハコでのライヴは良い!

本編ラストの「Up」。もう、超絶カッコ良し。どんどん展開していくアドリブ。ひろみ嬢とHadrien Feraudの親密感溢れる掛け合い。1stでは披露されなかったGene Coyeのクセ強ドラム・ソロ。そして、そこからのピアノ、カットイン!立ち上がり、足を蹴り上げながらピアノを弾き倒すひろみ嬢。もう、最強である。

さらにさらに楽しいことに、アンコールではスペシャル・ゲスト登場!馬場智章。彼は、映画「Blue Giant」で、主人公のサックスを担当していたので、ピアノのひろみ嬢と合わせ「JASS」の2/3がブルーノート東京の舞台に揃ったことになる。「Bonus Stage」で、しっかりバンドに溶け込んで、ソロを吹きまくる馬場智章。当初は、彼を立てて、バックに撤していたAdam O’Farrillのトランペットも、終盤になって冴え渡る。ということで、大いに盛り上がって全編終了。

2024年、これまでも印象的なライヴは何本もあったが、それらを一気に吹き飛ばす、今年No.1のライヴ体験だった。いやはや、凄かった。楽しかった(2nd Showでは、注文した料理が40分以上経っても出てこず、結局、開演に間に合わずキャンセルしたのは、悔しかったが……


「『超・日本刀入門revive』クラシックミニコンサートの夕べ」@ 静嘉堂文庫美術館  (24.8.2

静嘉堂文庫美術館静嘉堂文庫美術館で現在開催中の展覧会「超・日本刀入門 revive ―鎌倉時代の名刀に学ぶ」と、その関連イベントとして開催されるミニ・コンサートに行ってきた。

美術館の閉館時刻は17時だが、ミニ・コンサートは閉館後の18時から約1時間。コンサート観覧者 60名は、その前後、17時30分~19時30分、貸し切り状態で展覧会を鑑賞できるという催しだ。

静嘉堂文庫美術館展覧会は、20本以上の古名刀(内、国宝1本、重要文化財 8本)が並ぶ。「刀剣乱舞」の影響で、日本刀人気は高まっているようだが、正直、私はそこまでの知識と熱意は無い。工芸品としての美しさは分かるが、細かな違いを分析し、堪能するという境地には辿り着けないな。

静嘉堂文庫美術館ミニ・コンサートは、美術館のホワイエにYAMAHAの電子ピアノを置き、折りたたみ椅子を並べたところで開催。演者は、ヴァイオリンの林佳南子と、ピアノの仙田真悠。

演奏曲目は
・100クラ テーマソング:Flower of Life
・ハチャトゥリアン:剣の舞
・ビーバー:パッサカリア
・ヨーゼフ・シュトラウス:鍛冶屋のポルカ
・久石譲:映画「もののけ姫」 より、アシタカとサン
・服部隆之:大河ドラマ「真田丸」メインテーマ
・プロコフィエフ:「ロミオとジュリエット」組曲より、序奏・モンタギュー家とキャピュレット家・バルコニー・マキューシオ~決闘とティボルトの死
・(アンコール)マスカーニ:「カヴァレリア・ルスティカーナ」より、間奏曲

1曲目は、彼女らが参加しているプロジェクト「100万人のクラシックライブ」のテーマ曲。その後は、展覧会にちなんで、刀剣、鍛冶、決闘などに関連した選曲。ただし、3曲目は、鎌倉時代は無理としても、なるべく古い作品を、という事で、1600年代の作曲家 Heinrich Biberの曲。この演奏には、現在とは違う、当時の形の弓(もっと短い)を用いてヴァイオリンを演奏。

2名だけなので、音の厚みや迫力には欠けるが、器用な演奏で飽きさせない。個人的には、目の前のヴァイオリンから「真田丸」の印象的な旋律が響いてきたところで、テンション爆上がりである。

二階まで吹き抜けのホワイエは、響きすぎるのではないかと思っていたのだが、杞憂だった。小編成のアコースティック楽器を鳴らすには、程良い空間で、特にヴァイオリンは綺麗に響いていた印象だ。


"Dune"  (24.8.3

チネチッタSF大河小説の金字塔、”Dune”の映画化作品を観てきた。と言っても、Denis Villeneuve監督の"Dune""Dune: Part Two"ではなく、ましてや、"Jodorowsky's Dune"でもなく、1984年のDavid Lynch監督版の4Kリマスターによるリバイバル公開である。

公開当時は酷評されたが、今ではカルト作と呼ばれる作品。私も、細部は忘れているるが、妙に印象に残っている映画だ。

改めて観てみると、正直、苦笑する場面続出だ。Denis Villeneuveが2部作合計 5時間35分の尺と、最新の特撮技術を駆使して、壮大なスケールの原作を圧倒的リアリティで映画化したのに対し、こちらは半分以下の2時間17分に押し込むため、ストーリー展開は無理しまくりだし、特撮のしょぼさは言うまでも無い。登場人物達の心の内を、全て独白として音声化する演出(「鬼滅の刃」の先駆け?)も、丁寧な描写を積み重ねていられない時間的制約のせいかも。

が、本来、理路整然としたSFには不向きなDavid Lynchが、その趣味を全開にしたような異形のセット、衣装、メーキャップが、あまりにも独特。特に、Denis Villeneuve版では重視されなかった「航宙ギルド」の描写のぶっ飛び具合が凄い。SF映画史上、最も奇怪なワープ航法のシーンには唖然……。SFと言うより、ダークな寓話という趣きで、カルト作となったのも良く分かる。

なお、音楽はTOTOとBrian Eno。そして、悪役で怪演するのは、Sting。皆さん、良く、このトンデモ作品に参加してくれたものだ。

そして、40年ぶりにこの映画を劇場公開するという英断を下した東京テアトルに、感謝である。



JICA食堂関西正解だったのは、昼食で訪れたJICA食堂関西。兵庫県立美術館の近くにありましたが、珍しい料理(写真は、今月のエスニック料理=ミクロネシア、パラオ、サモア、ソロモン諸島の料理盛り合わせ)をリーズナブル(850円)に食べられる。社員食堂や学食風の機能的な店内の居心地も良し。JICAの食堂は東京と横浜にもあるので、そちらにも行ってみよう。JICA食堂関西