IN/OUT (2024.6.30)

今年の梅雨は昔と違う……、と感じることが、もう何年も続いているような気がする今日この頃。「梅雨寒」という言葉は、死語になる寸前ですかね。


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「読売日本交響楽団 第673回名曲シリーズ」@サントリーホール24.6.28

サントリーホール読売日本交響楽団の演奏会を聴きに、サントリーホールに行ってきた。指揮はMaxime Pascal。コンサート・マスターは林悠介。私の目当ては、ギターで客演する村治佳織である。

本日のセットリストはこちら。
・Haydn:交響曲第22番 変ホ長調「哲学者」
・Vivaldi:『四季』より「春」
・武満徹:「虹へ向かって、パルマ」
・Stravinsky:バレエ音楽「春の祭典」

開演。まずは、ハイドン「哲学者」。弦楽以外は、木管が5本とチェンバロという小編成での演奏。Maxime Pascalは、背が高く、手足も長い。指揮棒は持たず、全身をくねらせて踊るような指揮だ。

次のヴィヴァルディの「春」で、村治佳織登場。オーケストラはさらに人数が減り、弦楽とチェンバロのみ。ヴァイオリン協奏曲として耳に馴染んでいる曲だが、繊細なクラシック・ギターの響きがヴァイオリンに絡むのは、新鮮だ。さらに、チェンバロの音色も、地味ながら良いスパイスになっている。

第一部の最後は武満徹の作品。フル・オーケストラが揃ったところに、村治佳織のギターと、北村貴子によるオーボエ・ダモーレ(オーボエとイングリッシュホルンの中間みたいな木管楽器)がフィーチャーされる。現代音楽的な不穏な響きもありつつの、美しい曲だ。演奏後、拍手に応え、アンコール。武満徹編曲のBeatlesナンバー「Yesterday」を、村治佳織のソロで。サントリーホールに響くクラシック・ギター一本の調べ。私的には、第一部だけで、十分にお腹一杯だ。

第二部は、ストラヴィンスキー。「春の祭典」というタイトルだけは知っていたが、ちゃんと聴くのは初めてだ。プログラムによれば、この曲は2部構成で、第1部「大地礼賛」は良いとして、第2部は「いけにえ」と、物騒なタイトル。さらに。その中に含まれる曲名が、「乙女たちの神秘的な集い」、「いけにえの賛美」、「先祖の呼び出し」、「先祖の儀式」、「いけにえの踊り」。なんとも禍々しい。そして、音楽評論家:芝辻純子による解説文の最後には、『不協和音と不規則なリズムが繰り返され、最後の強烈な一打で乙女の生命は尽きる。』…… バレエといいながら、こんな、ハードな内容だったのか。

実際、不協和音と、アグレッシブな打楽器の連打。私がイメージしていたバレエ音楽とは、全然違う。異様なテンションで、約33分間の熱演。何だか、凄かった(クラシック素人には、適切な語彙が無い)。周囲の、クラシック通らしき人達も、「今日の『ハルサイ』は、とても良かった」と語り合っている。当初は、村治佳織目当てだったが、第二部も堪能した。


「【特別展】犬派?猫派? ―俵屋宗達、竹内栖鳳、藤田嗣治から山口晃まで―」@山種美術館24.6.29

山種美術館犬と猫を題材とした日本の絵画を紹介する展覧会を観に、山種美術館に行ってきた。

山種美術館は、山崎種二氏(山種証券創業者。証券会社の統廃合を経て、現在は、SMBC日興證券)が、1966年に設立した日本画専門の美術館。

犬と猫。どちらも、古今東西、様々な美術品で題材とされているが、日本画に的を絞ったことで、全体に落ち着いた雰囲気の展覧会になっていると思う。日本画は、あまりじっくり観たことは無かったが、昔から、「カワイイ」は、日本の得意分野だったのかと思わせる作品多数。特に、円山応挙は、本当に上手いなぁと感心。

山種美術館写真撮影が許可されているのは、2作品のみ。犬の方は、長沢芦雪の「菊花子犬図」。18世紀のモフモフだ。

山種美術館猫代表は、竹内栖鳳の「班猫」(1924)。こちらは、写実的な描写だが、独特の存在感。

他にも、伊藤若冲、横山大観、藤田嗣治などのビッグ・ネームの作品から、新しいところでは山口晃(1969年生まれ)の作品など、「ワンダフルな犬」28点、「にゃんともかわいい猫」24点、おまけで「トリは花鳥画」4点の、計 56点。小規模ながら、上手くまとまった展覧会だ。

山種美術館山種美術館を訪れるのは初めてだったが、無料の音声ガイド(この展覧会のために特別に制作したのでは無く、一部の収蔵品に対して合成音声による解説が付いている)など、規模の割に頑張っている印象だ。館内の「Cafe 椿」も、和菓子を主にしたメニューが良き。


"777 Charlie"24.6.29

新宿ピカデリー犬の絵画を見た後は、犬の映画を観てきた。インド映画だが、多言語のインド映画の中で、観る機会が多いヒンディー語、テルグ語、タミル語ではなく、カンナダ語映画(「サンダルウッド」と呼ばれる)である。邦題は「チャーリー」。犬の名前だ。原題の”777”は、この犬の鑑札No.

孤独な暮らしを送っている、無口で不器用で粗野な男性が主人公。ひょんな事から、悪徳ブリーダーから逃げ出してきた子犬の面倒を見ることになる。無邪気でやんちゃな子犬を、最初は煙たがって、早く追い出そうとするのだが、やがて、心が通い始め、偏屈な彼の性格にも変化が現れだす…というお話。

もう、粗筋だけでベタな展開だが、そういった題材を臆面も無く描くのは、インド映画の得意技だ。しかも、「子犬との交流」だけでは飽き足らず、「不治の病による、限られた余命」という超ベタ要素が加わるのだ。日本映画やハリウッド映画でやられると、流石に興醒めしそうだが、強引にストーリーを進める胆力が、インド映画の真骨頂。

犬の演技が、本当に見事。主人公に示す愛情表現が一々愛らしく、これは、愛犬家では無くても、メロメロになる。164分間の長尺に、過剰なまでに様々なエピソードが詰め込まれていて、インド映画に耐性が無い人には、ちょっとキツいかもしれないが、それさえクリアできれば、多くの人の涙を誘うこと必至の良作だと思う。

あと、インド映画なので、歌もたっぷり。ただし、主人公の心情を切々と歌い上げるタイプの曲ばかりで、ご陽気なダンス・ナンバーが無い(当然、ダンス・シーンも無い)のは、私としては不満かな。


「村上春樹 produce 村上JAM vol.3 ~熱く優しい、フュージョンナイト~」@ブルーノート東京24.6.30

ブルーノート東京村上春樹がディスクジョッキーをつとめるFM番組「村上RADIO」による音楽イベント「村上春樹 produce 村上JAM」を観に、ブルーノート東京に行ってきた。

村上春樹の作家活動40周年を記念して2019年に初開催された朗読&ライヴ「村上JAM」。第二回は、2021年。そして、第3回となる今回は、大西順子を音楽監督に迎え、コンサートホール(すみだトリフォニーホール)とジャズ・クラブ(ブルーノート東京)の2会場で開催。私は、前日のホール公演で温まったメンバーによる、小規模で親密な空間での演奏を期待して、ジャズ・クラブを選択。

出演メンバーが凄い。
・村上春樹(プロデュース、MC
・坂本美雨(MC
・大西順子(音楽監督、ピアノ、キーボード
・Mike Stern(ギター
・Kirk Whalum(サックス
・黒田卓也(トランペット
・John Patitucci(ベース
・Eric Harland(ドラムス
私が大好きな大西順子とMike Sternを一緒に観られるとは!!もちろん、生で村上春樹を観られる機会も嬉しい。

このブルーノート東京公演は、通常の二部制ではなく、18時開演の1部構成(途中、休憩有り)。私の席は、舞台に向かって右側。目の前に、ギターのエフェクターが並んでいる。向かって左にピアノとキーボード。中央がホーンの二人。奥にリズム隊という布陣のようだ。村上春樹の音楽に関するエッセイ(「雑文集」)を読みながら、開演を待つ。

まずは、村上春樹と坂本美雨が出てきて、ご挨拶。そして、メンバーが揃って演奏開始。1曲目から、ガッツリ、メンバーそれぞれがリードを取る箇所がある。Mike Sternは(71歳なので、素の表情はさすがに老けたが)、例によって、少年のような笑顔全開でギターを弾き倒す。自分がリードを取るところ以外でも、良い感じのフレーズをバックに突っ込んでくる。やはり、この人のギター、好きだなぁ。

一方、大西順子は、常に全体に目を配りながら、ここ一番というところで集中力を発揮する感じ。情熱のMike Sternと知性の大西順子という印象だ。二人に挟まれた黒田卓也とKirk Whalumのホーンが熱く、それを支えるリズム隊の二人(最新の大西順子トリオのメンバーでもある)が超強力。Eric Harlandが叩き出す複雑かつダイナミックなリズムと、John Patitucciの6弦ベースが紡ぐメロディアスなベース・ライン。集まってリハーサルしたのが、昨日のホール公演の前日に1日だけだったとは思えないコンビネーションだ。

演奏されたのは、Mike Sternの作品の他、Miles DavisやHerbie Hancockなど。途中休憩前のラストは、”Spain”。大西順子がこの曲を演奏するのは、これが初ということ。確かに、日頃の彼女の雰囲気とは違う選曲かもしれないが、このメンバーでの演奏だから、当然の如く、凄い!

どの演奏も、とにかく熱い。私の席からだと、Mike Sternの超絶指さばきと満面の笑みが間近に観られるのも嬉しい。ステージ上のメンバーが、皆、仲良さそうで、演奏中も笑い合ったり、良いソロ・プレイが決まると、グータッチを交わしたりという雰囲気も楽しい。そして、本日の白眉は、アンコールで演奏されたBrecker Brothersの"Some Skunk Funk"。元々が、ノリノリの名曲を、この凄腕メンバーで!いやぁ、徹頭徹尾、熱く、楽しいライヴだ。

アンコール終了後、坂本美雨が再登場し、アフタートーク。これだけ盛り上がった演奏だったのだから、アンコール → スタンディング・オヴェイション → 解散、で良いのに……とは思ったが、リズム隊の二人が、それぞれ、自分たちの役割は、建物の土台、あるいはテーブルセッティングだと語っていたのが印象的。こういう発言を引きだしてくれたのは嬉しい。

さらに、個人的には、坂本美雨がMike Sternに語ったパーソナルな話が良かった。自分が若いときはテクノやハードな曲が好きで、母親が聴かせるジャズは「あぁ、またかぁ」と思っていた(彼女の母=矢野顕子は、Mike Sternと共演経験があり、当時、母が運転する車の中などで、Mike Sternの曲がヘヴィー・ローテーションで流れていたらしい)。しかし、今、こうやって素晴らしい演奏を聴いて感動している自分がいる(ちょっと涙ぐみながら)。こうした音楽に触れさせてくれていた母に感謝している。面と向かっては中々言えないが、「お母さん、ありがとう」。

メンバーが退場後、村上春樹が再登壇して締めくくって、全編終了。Mike Stern、大西順子、村上春樹(そして矢野顕子)と、私が大好きな人達が繋がった奇跡のようなライヴだった。まだ、興奮が収まらないのである。



米国や中東、インドなどの酷暑のニュースを見ると、まだマシと思うと同時に、次は日本かぁという不安も増します…