IN/OUT (2024.6.23)

ポスター掲示板を見る度に、東京都民であることが恥ずかしくなる、今日この頃です。


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「春風亭小朝・清水ミチコの大演芸会 ~落語とピアノバラエティ~TIARAスペシャル第5弾」@江東公会堂 ティアラこうとう24.6.21

ティアラこうとう春風亭小朝と清水ミチコの二人会を観に、江東区の文化施設「ティアラこうとう」に行ってきた。この演芸会がスタートしたのは2014年。ティアラこうとうでは5回目の開催となる。私は、2016年に続いて2度目の参戦である。

まずは、前座。ウクレレえいじ。名前通り、ウクレレを弾きながらの漫談。「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」で優勝したこともある実力者で、会場のウケも良かったと思うが、私としては、うーん。ただ、ウクレレの超絶テクを見せつけたThe Venturesの”Diamond Head”の演奏は見事だった。

そして、春風亭小朝の登場。たっぷりと二本のネタを披露。「荒茶」(上方落語の呼び方だと「荒大名の茶の湯」)と、「ある理由」(菊池寛の「葬式に行かぬ訳」を元にした小朝の創作落語)。どちらも、現代のお客さんに笑ってもらえる工夫を凝らした話芸が実に巧みだと思うが、やや声が聴きづらい感じがあったのが残念。このところ、落語協会百年記念の特別興業や、桂文枝との二人会で忙しかったせいなのか、あるいは会場のPAが悪かったのか。

15分の休憩後、幕が開くと、舞台上は、高座からスタインウェイのピアノにチェンジ。小朝が清水ミチコを呼び込んで、しばしのトークの後、清水ミチコの部。

通常のワンマン・ライヴよりも短い訳だが、新ネタもしっかり仕込んでの充実のパフォーマンス。特に、自ら「犯罪を歌う専門家」を名乗るだけに、最新の時事ネタをいくつも披露して、場内爆笑である。落語ファンが多いせいか、いつもの清水ミチコのライヴとは、会場の笑いのツボや拍手のタイミングが違うと感じる場面が多かったのは、少し気になったが、パフォーマンスのクオリティは、素晴らしい。中でも、”Spain”のピアノ演奏が、ガッツリ、ジャズ・ピアニスト・モードでカッコ良し。

最後は、矢野顕子の「ひとつだけ」で締めて、全プログラム終了。最後は、強制的に緞帳が下ろされた感じで、あっさり終わってしまったが、満足度の高い公演だった。


"The Holdovers"24.6.22

1970年のボストン近郊。全寮制の名門男子校を舞台にした映画を観てきた。邦題は「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」。

クリスマス休暇に、親の都合で寮に残ることになってしまった学生、彼のお守り役を仰せつかった教師、そして、寮の料理長。ホリデー・シーズンに、三人だけの生活が始まる(”holdover”は「残留者」の意味)。学生は、頭は良いが人付き合いが下手で友達もいない問題児。古代史の教師は融通が利かない堅物で生徒からも同僚の教師からも嫌われている。夫と死別し、シングルマザーで一人息子を育てた料理長は、その息子をベトナム戦争で亡くし、心に深い傷を負っている。決して、社交的とは言えず、それぞれ人には言えぬ苦悩を抱えた彼らが、徐々に、打ち解け合っていく。

決して、重い人情話にはならず、軽い笑いを散りばめながら、三人の心の機微を丁寧にすくい上げる脚本と演出が、なんとも上質な感触だ。ラスト近くのクライマックスと言えそうなシーンでも、クドい台詞やオーバーな動きではなく、そっと差し出す手だけで、深く感情を揺さぶる演出は、鳥肌モノ。しみじみと良い映画だ。

ベトナム戦争という背景があり、SNSや携帯電話が存在しない1970年という時代設定は、この映画には必然だと思う。監督も、そこを十分に意識しているようで、昔のフィルム的な画面全体の色調と、Shocking Blue、Badfinger、Cat Stevensらの音楽が、見事に時代を感じさせる。拘りは本編だけで無く、オープニングの映画会社のロゴの画質と、スクラッチ・ノイズまで取り込んだ音質、そして、エンディング・クレジットの後に表示される”The end”の文字にも。遊び心もある作り込みが、ノスタルジーを誘う。

派手さは皆無だが、お勧め作だ。


「菊池俊輔音楽祭 メモリアル公演」@サントリーホール24.6.23

サントリーホールアニメ・特撮テレビ音楽の巨匠・菊池俊輔のメモリアル公演を観に、サントリーホールに行ってきた。彼が亡くなったのは2021年4月だが、コロナ禍のため、2024年にようやく追悼公演が実現したのである。

出演は、
・オーケストラ・トリプティーク(指揮: 松井慶太、1stヴァイオリン:工藤春彦
・ギター:伊藤ハルトシ
・ベース:山本昌史
・ドラム:重本遼大郎
・キーボード:竹蓋彩花
・合唱:ヒーローコーラス
・歌唱ゲスト:ささきいさお/高野二郎/中川翔子/藤岡弘、/森本英世
という布陣。

演奏メンバーの多くが、先月観た国立映画アーカイブでの「映画音楽がやって来た!『日本映画と音楽』特別演奏会」と被っている。オーケストラ・トリプティークは、日本の作曲家による映像音楽、近現代音楽、前衛音楽を専門に演奏しているオーケストラで、「ヒーローコーラス」は、その専属合唱団。因みに、同様のイベントで、2018年に「渡辺宙明特集 ヒーローオーケストラ/昭和の子どもたちへ」を観に行ったが、そのときの演奏も、彼らだった。あの時は、水木一郎も元気だったなぁ……

会場は、日本のクラシック系ホールの最高峰、サントリーホール。この日、ほぼ同じ時間帯に、小ホールでピアノ教室の発表会があり、開場前、綺麗なドレスを着た女の子とその親御さんがホール前で記念写真を撮っている。が、その周囲を埋め尽くすのは、オタク臭強めの中高年達というのが、いささか申し訳ない。私の席は2階席右側。ステージは遠いが、サントリーホールは、どの席からでも見やすく、音響も整っているので、問題ない。

入場時に手渡される本日のセットリストが凄い。選曲に庵野秀明が関わっているのもポイント。
・キイハンター
・Gメン75
・暴れん坊将軍
・ドラえもんのうた(歌唱:中川翔子
・新造人間キャシャーン(歌唱:ささきいさお
・破裏拳ポリマー(歌唱:ささきいさお
・タイガーマスク(歌唱:森本英世
・タイガーマスク BGM組曲
・みなしごのバラード(歌唱:森本英世
・バビル2世(歌唱:高野二郎
・超人バロム1「ぼくらのバロム1」(歌唱:高野二郎
・アイアンキング(歌唱:高野二郎
・ジャンボーグA (歌唱:高野二郎
・電人ザボーガー(歌唱:高野二郎
・アイアンキング「ひとリ旅」(歌唱:高野二郎
・仮面ライダー"改造人間格闘"組曲
・レッツゴー! !ライダーキック(歌唱:藤岡弘、
・藤岡弘、インタビュー(インタビュアー:西耕一
・Dr.スランプアラレちゃん「ワイワイワールド」(歌唱:中川翔子
・ラ・セーヌの星(歌唱:中川翔子
・ゲッターロボ!(歌唱:ささきいさお
・ゲッターロボ! BGM組曲
・仮面ライダーV3(歌唱:高野二郎
・仮面ライダーV3 アクションン組曲(優勢篇)
・仮面ライダーX「セタップ!仮面ライダーX」(歌唱:高野ニ郎
・仮面ライダーアマゾン「アマゾンライダー ここにあり」(歌唱:高野ニ郎
・仮面ライダー(スカイライダー)「燃えろ!仮面ライダー」(歌唱:高野ニ郎
・とべ!グレンダイザー(歌唱:ささきいさお
・宇宙円盤大戦争・グレンダイザー BGM組曲
・ちいさな愛の歌(歌唱:中川翔子) ~ もえる愛の星(歌唱:ささきいさお
※ プロデュース:西耕一、選曲協力:庵野秀明・早川優

ということで、開演。いきなり、「キイハンター」、「Gメン75」、「暴れん坊将軍」と、菊池俊輔の最高傑作だと私が信じている3曲が続く。それを、オーケストラのダイナミック・レンジの広い音で聴くのは格別だ。特に、ティンパニーの生音が超絶カッコ良し。

「ドラえもんのうた」で登場した中川翔子は、その後、MCも務める。女声ヴォーカルが堀江美都子じゃなくて、正直、ガッカリしたところもあるのだが、しょこたんも十二分に歌は上手い。さらに、卓越した(オタク向けの)ワードセンスでの喋りも的確。結果的には良い人選だ。

ささきいさおは、自身のキャリアで、初のアニメ主題歌だった「新造人間キャシャーン」で登場。私が観るのは、昨年の「アニソン・ファンタジックコンサート」以来だが、御年82歳。衰え知らずの歌唱力は、つくづく凄い。

「タイガーマスク」のオリジナル歌手である森本英世、クラシック畑のテノール歌手であると同時に「平成の子門真人」を標榜し、アニメ主題歌を歌い継ぐ活動もしている高野二郎に続き、藤岡弘、が登場。歌の方は、緊張してか、ちょっと外したところもあったが、とにかく、存在感で会場を圧倒する。ここで、オーケストラ・メンバーの休憩のため、インタビュー・コーナー。

後半も、中川翔子、ささきいさお、高野二郎、そしてオーケストラのメンバーによる圧巻の演奏が続く。「仮面ライダー アマゾン」では、観客も「アーマーゾーン!」と叫ぶ趣向があったが、流石、サントリーホール。その響きの綺麗さに、つくづく良いホールだと感じ入る。

サントリーホール本編終了し、アンコールの部。ここでは、観客が歌い、歌手の皆さんに届けるという趣向。森本英世がステージに登場し「タイガーマスク」。天に向かって(もちろん、水木一郎に向けてだ!)「超人バロム1」。ささきいさおに向けて「ゲッターロボ」。藤岡弘、に向けて「レッツゴー!!ライダーキック」。オーケストラをバックに、サントリーホールに響き渡るオタク中高年の歌声。中々に貴重な機会である。

最後にフォトセッションがあって全編終了。歌手の皆さんだけで無く、オーケストラの演奏も見事だった。特に、一般的なクラシックの演奏よりもかなり出番が多かったと思われるティンパニーを中心にしたパーカッション&ドラムスの4人が印象的。全編終了後、その4人がハグし合っている姿も熱かった。



幸い、自宅間近の掲示板は、まだ、それほど汚染されていない状態ですが、いつまで持つやら。と言うか、これを話題にすること自体が、奴らの思う壺というところが、さらに嫌。