IN/OUT (2024.11.3) |
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さすがに11月に入ると、暑さは後退しましたが、この時期には珍しいような大雨。つくづく、我々が知っていた四季とは違う気候が定着してしまったようです。 最近のIN"NUBYA GARCIA" @ ブルーノート東京 (24.10.29)ロンドン出身のサックスス奏者 Nubya Garciaの公演を観に、ブルーノート東京に行ってきた。昨年、予備知識無しで観たライヴが好印象だったので、新アルバムを引っさげての再来日に参戦である。 メンバーは、 今回は、昨年9月に発売された新アルバム「Odyssey」の収録曲を中心にしたセットリストだ。ただし、このアルバムは、ストリングスやヴォーカリストを起用した曲が多いのだが、今回のライヴでは、お馴染みの4人で演奏するアレンジになっている。 これが良い。例えば、最初の曲”Dawn”では、Esperanza Spaldingの印象的なヴォーカルをLyle Bartonによるシンセ・サウンドに置き直し、アルバムとは一味違うエモーショナルさを醸し出す。そこに絡んでくるNubya Garciaの研ぎ澄まされたテナー・サックスの響き。素晴らしい深みだ。 じわじわと盛り上がっていく曲が多いが、ラストとアンコールでは、ググッとリズムが加速していき、これがまた、先鋭的で、グイグイ刺さってくる。その一方で、MCには、Nubya Garciaの頭の良さと素直な性格が溢れているのも良き。 このところ、Tha Jazz Avengersなど、J-Fusion的なご陽気サックスを聴く機会が多かったのだが(もちろん、それはそれで楽しいが)、Nubya Garciaの、新しく、尖った(MCでは、”UK Garage”からの影響に言及していた)サックスの凄みのあるカッコ良さは強烈。実に癖になる音だ。 "Venom: The Last Dance" (24.11.2)Spider-Manの宿敵、Venomを主役にしたシリーズ作(Marvel StudioではなくSONY Picturesの製作)、"Venom"、"Venom: Let There Be Carnage"に続く3作目にを観てきた。前2作は、Tom Hardy演じる主人公 Edyと、彼に寄生した凶悪な地球外生命体 Venomのバディ・ムービーという趣だったが、”The Last”と銘打った完結編は、果たして…。 3作目ということで、前置きなしに、冒頭からEdyとVenomの仲の良さが全開。というか、徹頭徹尾、この2人のイチャイチャぶりを見せつけられるだけの映画だ。ご都合主義だらけのストーリーは、テンポは良いが、説得力はゼロ。これ見よがしの伏線の張り方や、あまりにも予想通りのオチ、さらには、頭が悪すぎるとしか思えないQueenのあの名曲の使い方など、演出面も酷い。 と、欠点を挙げればキリが無いが、そういった事に目くじらを立てずに、ポップコーン片手に109分間楽しむだけと割り切れば、痛快作ではある。何よりも、変に風呂敷を拡げ過ぎずに、ちゃんと三部作でオチを付けたのは、好印象。本来、アメコミの映画化って、これぐらいの軽さが良いと思う。 あと、David Bowieの”Space Oddity”の、意表を突くほのぼのとした使い方には、不覚にも笑ってしまった。これは名シーンだ。 "GRACE BOWERS & THE HODGE PODGE" @ ブルーノート東京 (24.11.2)18歳の超若手ギタリスト、Grace Bowersの公演を観に、ブルーノート東京に行ってきた。 ブルーノート東京店内で流れていた予告動画を観て気になったので、昨年のNubya Garciaの時と同様、ほぼ「ジャケ買い」状態で、ミュージック・チャージ無料の招待状を行使したのである。後で調べてみたら、HeartのNancy Wilsonが、インタビューでGrace Bowersの事を誉めていて、期待が膨らむ。 メンバーは、 まずは、ヴォーカル抜きのインストゥルメンタルで演奏開始。いきなり、ギンギンに歪ませたギターの爆音を轟かせ、そこからブルージーな演奏。徐々に、速弾きも披露し始める。18歳とは思えない、堂々たる立ち姿。演奏中に見せるドヤ顔も決まっている。冒頭から、圧倒されてしまった。 2曲目からはヴォーカルのEsther Okai-Tettehも参加。パワフルな歌声と、ご陽気なパフォーマンスで盛り上げるが、やはり、バンド・サウンド自体が凄い。特に、Dekar Bakerのドラムスは、ヘビーな重低音と圧倒的な手数で、バンドを牽引していく。また、サイド・ギターのPrince ParkerとGrace Bowersの掛け合いが、遊び心に溢れ、熱く楽しい。途中、ベーシスト Bubby Lewisの飛び入り参加(彼は、今、日本に住んでいるらしい)もあり。 Grace Bowers、想像以上に凄い!というインパクトを受けたのは、私だけでは無かったようで、演奏が進むにつれ、観客全員の熱狂度合いがグングン上がっていくのが実感できる。私が唯一、事前にヴィデオで予習した”Tell Me Why U Do That”も演奏してくれたが、ライヴで聴くと、ヴィデオの5千倍ぐらいは格好良い。 1960年代から70年代頃の、ドロドロしたギター・ロックの渋さと熱さと格好良さを、2024年のティーンエイジャーが見事に引き継ぎ、昇華している姿は、何度「格好良い」と書き連ねても足りないぐらいだ。今回は、2日間・4公演の、初日 1st Showだけの参戦だったが、全公演観たかったな。それぐらい、衝撃を受けてしまった。 「心のまんなかでアートをあじわってみる」 @ 原美術館ARC (24.11.3)原美術館ARCに行ってきた。訪れるのは、ちょうど1年ぶり。これで3度目だが、毎年、訪れたい美術館なのだ。 北陸新幹線 → 両毛線 → 上越線 → 関越バスを乗り継ぎ、10時30分頃、美術館着。軽く、館内を予習がてら回った後、11時から、事前に申し込んでおいた「開架式収蔵庫ツアー」に参加。通常非公開の開架式収蔵庫を美術館スタッフが案内するという、会員と寄付者限定で毎月開催されているイベントだが、文化の日の今日は、一般参加も受け付けていたのである。 参加者は8名。学芸員の案内で、空調を管理するための二重扉を抜け、靴を脱いで、収蔵庫へ。もっと、倉庫っぽい所かと思っていたが、見せることを前提にした明るい室内だ。現在展示中の物や他の美術館に貸し出し中の物以外の作品が、図書館のレール式書架のようなラックに掛けられて収蔵されている。学芸員曰く、展示室のような工夫されたスポットライトが当てられていない分、「すっぴん」を見るような感覚とのこと。なるほど、である。 学芸員の説明が、とにかく面白い。作品の解説、作家とのやりとりの内幕(横尾忠則が原美術館のために製作した作品を巡る、担当者との微笑ましいエピソードや、巨大な建物を布でくるんでしまうアートで有名なChristoの作品を前に、学芸員が「原とChristoが仲が良くて…」と、さらっと発言したり)、他の美術館との連携、展示物を巡る工夫(奈良美智の「My Drawing Room」を青森県立美術館に一時的に移設した際の苦労話や、絵をかけるフックが、阪神淡路大震災をきっかけに振動で外れない物が開発され、世界中で使われるようになったとか)などなど、興味深い話ばかりだ。 さらに、サプライズ的に嬉しかったのが、Jean-Pierre Raynaudの「ゼロの空間」が、品川の原美術館から移設されていたこと。てっきり、建物の解体と共に破棄されたのだと思っていた。一部のタイルは(オリジナルを尊重しつつ)新しくされたようだが、再び、あの空間の中に身を置けるとは!実に感慨深い。 ということで、学芸員の解説にも熱が入り、1時間の予定をオーバーして、すっぴんの作品の数々を堪能。参加して、大正解だった。 敷地内のカフェ、カフェダールで昼食後、13時30分からは、これも事前申し込みしておいた「担当学芸員によるギャラリーガイド」に参加。 写真撮影可の作品で、特に印象的だった物。まずは、Max Streicherの「Sleeping Giants(Silenus)」。見た目のインパクト大の作品だが、解説を聴いてこそ、腑に落ちる作品だ。 そして、品川の原美術館で観た時から好きだった米田知子の写真作品。ヘッセ、トロツキー、ガンジー。それぞれ、本人が着用していた眼鏡の実物を借りて、彼らが見ていたであろう事物を、彼女の視点で撮影するという、非常に手間をかけた作品群なのだ。 そして、原美術館と言えば、奈良美智の「My Drawing Room」。今回は、その製作過程、そして、奈良美智自身もこのインスタレーションに思い入れがあることを聞けて、さらに印象深くなった。 ということで、行くには不便な場所になったが、やはり、居心地の良い美術館だ。また、次の企画展には再訪したいと思う。ただ、休館が決定したDIC川村記念美術館(学芸員の話しぶりでは、地方の美術館同士として、かなり交流があるようだ)と同様、決して経営は楽ではないだろう。この日も、すばらしい晴天に恵まれた三連休の真ん中だが、満員御礼とは言えない状況だった。何とか、がんばっていただきたいところだ。 それでも、晴れの特異日と言われる11月3日には、ちゃんと天候が回復したことに安心感を覚える、今日この頃です。 |