IN/OUT (2024.12.22)

先週日曜のNHKホールで、冬の矢野顕子強化月間、無事完走。上の世代の人達がいまだに進化し続けているのを観ると、加齢を言い訳にしていちゃいけないと自戒する、年の暮れです。


in最近のIN

”Out of Rosenheim”24.12.21

恵比寿ガーデンシネマ1987年製作の西ドイツ映画の4Kリバイバル上映を観てきた。英語タイトルは"Bagdad Cafe "で、邦題も「バグダッド・カフェ」。

日本では1989年に公開され、ミニ・シアター・ブームを代表する作品として、当時のサブカル好きの人達にもてはやされた作品だ。私も渋谷のスペイン坂にあったシネマライズ(今は、ライブハウス「WWW」になっている)に観に行ったような記憶はあるのだが、内容はほとんど覚えていない…。35年後の再見で、印象はどう変わるのか?

舞台は、米国西部、モハーヴェ砂漠の街道沿いにある寂れたモーテル兼ガソリンスタンド兼カフェ。主人公の女性は、ドイツから夫婦で旅行に来たのだが、喧嘩し、1人、車を降りて、この「バグダッド・カフェ」に辿り着く。そこにいたのは、やはり夫婦喧嘩で夫を追い出したばかりの不機嫌な女主人と、彼女の息子と娘、やる気の無さそうな店員、入れ墨師の若い女、近くのトレーラーハウスに住んでカフェに入り浸っている老人など、一癖も二癖もある人達。初めは溶け込めない主人公だったが、やがて、この吹きだまりのようなカフェが変化していく…という、ストーリー自体は、割に普通の人情ドラマ。

ただ、映像はかなり凝っている。奇抜なアングルと、非現実的とも言えそうな色彩設計の画面が唐突に挿入される。そこに流れるのが、名曲、”Calling You”(歌っているのはJevetta Steele。私は、Holly Coleが歌うお洒落ヴァージョンの方を覚えていたのだが、独特の迫力に満ちたJevetta Steele版の方が映像には圧倒的に合っている)。これによって、この映画は、現実と非現実の狭間で起きたファンタジーにようにも思えてくる。とても良い映画だ。うーん、35年前の私には、なぜピンと来なかったのだろう?

ただ、ラストは、いささかやり過ぎかなという気がした。だからこそ、その直前に、入れ墨師のDebby嬢が言い放つ”Too much harmony”という台詞にグッと来てしまった。この深さが、当時の私には分からなかったのだろうな。映画史に残るべき名台詞だ。


「須田悦弘」 @ 渋谷区立 松濤美術館24.12.21

松濤美術館精巧な植物の木彫り作品で知られる須田悦弘の個展を観に、松濤美術館に行ってきた。彼の作品は、原美術館や東京都庭園美術館で目にして、印象的だったのだ。

松濤美術館純粋な絵画作品も展示されている。彼は、アサヒビールの「ニッカ弘前 生シードル」のパッケージの原画なども手掛けているそうだ。

松濤美術館そして、精巧な木彫り作品。これは、1988年、大学1年の時に製作した初めての木彫作品「スルメ」。この、ストイックなまでの精巧さには、高橋由一の「鮭」を連想したり。

松濤美術館木彫りのホオノキの花を囲んだ「朴の木」のような、比較的大きなインスタレーションもある。

松濤美術館そして、興味深かったのが、絵画と立体作品を並べて展示する見せ方。この「ガーベラ」の他にも、何点か、このような展示があったが、細密なドローイングと精巧な木彫りが並ぶことで、静かな緊張感に満ちた空間になっている。

松濤美術館しかし、彼の展覧会のお楽しみは、堂々と展示されいる作品だけでは無い。展示室に入って、最初に目にするのは、壁に直接くっついている「バラ」。

早速のインパクトだが、まだ、これは分かりやすい方だ。

松濤美術館 松濤美術館
松濤美術館会場の床、壁の隅、扉の陰。目立たないところに、さりげなく置かれている小さく精巧な木彫りの植物達。展示マップを見ずにこれらを見つけるのが、宝探しのようで楽しい。

こういうお楽しみがあるから、須田悦弘の作品は、それが置かれる環境も大事だと思う。小規模だが、独特の存在感の松濤美術館(設計は「哲学の建築家」と称された白井晟一。麻布台の「ノアビル」も彼の建築)との相性は、バッチリ。展覧会の公式サイトに書かれているとおり、建物全体がインスタレーション作品となっているようで、とても興味深い展覧会だった。



しかし、 同時に進行中だった上原ひろみ嬢祭りの方は、チケットを取得していた12/19のすみだトリフォニーホール公演を、仕事の都合で断念。先週の大宮ソニックシティのように、会場近くのテレワーク・スポット利用を準備したものの、会議終了が20時過ぎで、撃沈。2024年の最終盤に、不完全燃焼感が残ってしまいました…