IN/OUT (2024.2.18)

春一番が吹き、気温は急上昇。我が家の近所で新しいマンションの建設が進行中で、これまで以上にビル風が強くなっているのが困りものです。


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「蜷川実花展 : Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠」@TOKYO NODE 24.2.12

TOKYO NODE 蜷川実花を中心に、データサイエンティストの宮田裕章、セットデザイナーのEnzoらで結成されたクリエイティブチーム「EiM」による大規模展覧会を観に、TOKYO NODEに行ってきた。

地下鉄を降り、虎ノ門ヒルズステーションタワー 地下2階からエレベーターで7階の「スカイロビー」 → エスカレーターで8階の「TOKYO NODE エントランス」 → エレベーターで45階の「TOKYO NODE」。ここからさらに、暗い通路をグルグル歩いてようやく展示室に到達する。これは、導線が駄目というのではなく、徐々に、観客の気分を高めようという企みだろう。

TOKYO NODE 暗い通路の先には、天井から垂れ下がる大量の花。最初の作品「残照 Afterglow of Lives」だ。生花もあれば、枯れた花もある、深みのある雰囲気。

TOKYO NODE そこを抜けていくと、金魚をモチーフにした「Unchained in Chains」。

他にも、クッションに寝っ転がって、天井に仕込まれたモニターを眺める部屋や、2022年の東京都庭園美術館にも展示されていた、半透明のスクリーンが重なった空間に映像が投影された部屋など、蜷川実花作品を、様々な手法で投影するインスタレーションが続く。花と金魚と都市が主題となった作品が多い。

TOKYO NODE TOKYO NODE 天井の高い広大な展示空間全体に映像を投影したインスタレーションなど、まさに没入体験だ。

TOKYO NODE そしてメインの展示室。大混雑の会場で、この部屋に入るまでの行列は遅々として進まないし、中に入っても、身動きが取れないほどの混み具合なのだが、そういった息苦しさを凌駕する圧巻の花、花、花。

TOKYO NODE 天井からも、足下からも、とにかく花が咲き乱れている。刻々と変化する照明の中、どこに視線を向ければ良いのか、とにかく圧倒される。

TOKYO NODE ということで、あざといほどの綺麗さに満ちていて、蜷川実花らしさ全開の展覧会だ。ただし、正直な所、新鮮な驚きは無い。どのインスタレーションにも既視感を覚えるし、流れている音響も極めて凡庸(刺激的じゃ無いからこその環境音楽とも言えるが)。しかし、これだけの圧倒的物量で押し切るられると、お見事としか言い様が無いのである。

因みに、客層を見ていると、蜷川実花と港区女子って相性が良いのだな、と思ってしまった…


"QUEEN + ADAM LAMBERT - THE RHAPSODY TOUR"@東京ドーム24.2.13

東京ドームQueenのライヴを観に、東京ドームに行ってきた。ヴォーカルはAdam Lambert。彼らのライヴを観るのは、サマーソニック 20142016年の武道館公演に続いて3回目だ。

座席は、1階スタンドの前から10列目。アリーナの後方よりは、むしろ見やすいかもしれない(と言うのは、負け惜しみっぽいな)。

東京ドーム19時開演。"Machines (Or’ Back to Humans’) ~ Radio Ga Ga"(2曲を組み合わせた感じ)からスタート。"Radio Ga Ga"は、観客が皆、身振りと手拍子で参加できるので、会場を温めるにはピッタリ。

そこからは"Hammer to Fall"、"Fat Bottomed Girls"、"Another One Bites the Dust"、"I'm in Love with My Car"、"Bicycle Race"、"I Was Born to Love You"、"I Want It All"…と、名曲のつるべ打ち。

写真やヴィデオ撮影はOK。今どきのスマートフォンの性能なら、ステージの写真も、もっと綺麗に撮れるはずだが、ライヴに没頭すると同時に、手ぶれを押さえて撮影する技量は、私には無い…
東京ドーム東京ドーム東京ドーム

東京ドーム"Love of My Life"では、ギターを弾き語るBrian Mayと映像のFreddie Mercuryが共演する、泣ける演出も有り。

"Teo Torriatte (Let Us Cling Together)"は、Brian Mayの弾き語りからAdam Lambertのヴォーカルにつなぐ構成。1977年にリアルタイムで聴いた時は、日本語の歌詞に違和感というか、色モノ感を覚えた曲だが、今、ライヴ会場で聴くと、日本と日本のファンを大事にしてくれている事への感謝の気持ちで一杯である。

若き日のRoger Taylorがティンパニーのソロ演奏をキメる映像に続いて、今のRoger Taylorがドラムス・ソロ(演奏前に、Rogerがボソッと ”young me, old me”)。そして、"Under Pressure"(RodgerとAdamのヴォーカル。やはり、超が付く名曲だ)という流れも楽しい。

さらに、"Tie Your Mother Down"、"Crazy Little Thing Called Love"、"You Take My Breath Away~Who Wants to Live Forever"と続いて、ギター・ソロのコーナーへ。

ロック・スターであると同時に天体物理学博士でもあるBrian Mayは、小惑星の上、そして、宇宙空間を背景にして、ドヴォルザークの「新世界より 家路」(その前に、日本の旋律も。"雛祭り"だったような気がしたが、不確か…)を、朗々と弾き倒す。

メッセージ色の強い"Is This the World We Created…?"から、"A Kind of Magic"、そして終盤、"Don't Stop Me Now"、"Somebody to Love"、"The Show Must Go On"、と名曲群を続け、本編ラストは"Bohemian Rhapsody"。オペラ・パートからハード・ロック・パートに切り替わる瞬間、切り込んでくるBrian Mayのカッコ良さよ!

アンコールは、Freddie Mercuryが観客を"Ay‐Oh!"のコール&レスポンスで煽る過去のライヴ映像から始まり、"We Will Rock You"、オープニングに戻って"Machines (Or’ Back to Humans’) ~ Radio Ga Ga"、そして、"We Are the Champions"で締める。文句の付けようが無い構成だ。

東京ドーム大小いくつものスクリーンとプロジェクション・マッピングを駆使した映像と照明効果を組み合わせ、曲毎に異なるイメージを出現させる演出も素晴らしい。

その舞台でパフォーマンスするのは、今でも圧倒的な演奏技量を誇るBrian MayとRoger Taylor。そして、とてつもない声量とカリスマ性を持ったAdam Lambert(唯一無二のパフォーマーだったFreddie Mercuryの代役ではなく、Queen + Adam Lambertとしての個性を確立していると思う)。
バックを支える3人のミュージシャン(パーカッション、ベース、キーボード)も堅実なサポートぶり。
さらに、ハズレ曲は一つも無い、皆が聞きたい曲を全て盛り込んだようなセットリスト(あ、"Killer Queen"が無かったな)。
これらが全て揃い、ロック・ショーとして完璧なまでの構成・演出だったと思う。


"Beau Is Afraid"24.2.17

Ari Aster監督の新作を観てきた。邦題は「ボーはおそれている」。

Beauは、Joaquin Phoenix演じる主人公の名前。冴えない中年男Beauは、父親の命日に、母親の元に帰郷しようとするのだが、予想外のアクシデントが続出し、行けなくなってしまう。そうこうしている内に、母親が突然の事故死。何とか帰郷しようとする彼に、さらに予想外のアクシデントが降りかかる。やがて、明らかになってくるのは母親から受けてきた抑圧…

…という粗筋はあるのだが、上映時間 2時間59分。最初から最後まで、訳が分からない映像の連続で、観客は完全に置いてきぼりを喰らう。そういう映画だ。明らかに主人公の妄想だと分かるシーンもあるのだが、それ以外の、小説で言えば地の文に当たるパートも、現実としては辻褄が合わず、誰かが見ている悪夢のようだ。あるいは、最初から最後まで、全てがBeauの妄想かもしれないという気もしてくる。

恐らく、全編、暗喩やメタファーがたっぷりと仕込まれた映像だと思うのだが、それが何を意味しているのか、さっぱり分からない。Ari Aster監督の前作「Midsommar」が、強烈な作家性を出しながらも、商業映画としての完成度も高かったのに対し、今作は、監督のやりたい放題。親子の歪んだ関係というのは、監督自身が抱えるトラウマなのかもしれない。

ただ、これだけ訳が分からないのに、3時間、睡魔に襲われることは無く、Joaquin Phoenixの地獄巡りに付きあってしまう。これが、Ari Asterの鬼才たる所以か。

面白かったのは、映画自体よりも、上映が終わった館内に「訳が分からなかったよねぇ」という、ある種、観客同士の連帯感が自然発生的に溢れるところ。こういう雰囲気になる映画館って、滅多に無いな。



この冬は、厚物コートの出番がかなり少ないまま終わりそうです。