IN/OUT (2024.10.6)

どんな猛暑の夏でも、いつかは秋は来るものです。矢野顕子の名言「始まれば、終わる」を思い出す、今日この頃です。


in最近のIN

”Kinds of Kindness”24.9.30

Yorgos Lanthimos監督の新作を観てきた。邦題は「憐れみの3章」。前作”Poor Things”公開から、8ヶ月で早くも新作公開というのが、今の監督の充実ぶりを示している。

が、これまでも、"The Lobster"、The Killing of a Sacred Deer"、The Favourite"と、変テコな映画ばかり撮ってきたYorgos Lanthimos。今回も、かなり捻くれた作品である。映画は、それぞれ独立した1時間弱の中編 3話で構成されている。が、出演者が共通。同じ俳優が、3つの物語で、それぞれ違う役柄を演じるという趣向。

その3つの物語が、いずれも、とんでもない不条理劇。日々の食事から性生活まで、全てを上司の指示に従う男の話。遭難事故から奇跡的に生還した妻が別人にすり替わっているのではと疑う男の話。奇跡を起こす特別な人物を探しまわるカルト教団の女の話。いずれも、支配と被支配を描いているようにも思えるが、そこに一貫した思想や教訓を見いだすのは、私には難しい。ただ、過剰な不条理は、人間の美しいところも醜いところも等しくさらけ出し、黒い笑いを醸し出す。この何とも言えない感覚こそ、まさにYorgos Lanthimos監督作品。

それにしても、3作全てに出演しているEmma Stone、Willem Dafoe、Margaret Qualley(この3人は”Poor Things”から続投だ)、Jesse Plemons、Hong Chau、Mamoudou Athie、Yorgos Stefanakosらの、まさに身体を張った演技が凄い。特に、Emma Stoneは、(自身で製作も手掛ける才人だから、承知の上だろうが)普通の美人女優には戻れなくなるのではと心配になるほどだ。一流の俳優陣に、あんな事やそんな事まで演じさせるのは、やはり監督の力量なのだろう。


PCオーディオ環境を新しくする24.10.4

PC音楽再生環境PCでの音声再生環境を新しくした。

2007年から使ってきたフライング・モールのプリメイン・アンプ:CA-S3の電源が逝ってしまったのだ。さらに、2013年から使ってきたKORGのUSB DAC:DS-DAC-10の調子もよろしく無い。

ということで、USB DACとプリメイン・アンプを新調。選んだのは、
・USB DAC:iFi audioの ZEN DAC 3
・アンプ:Fostexの AP25
なお、スピーカーは、2007年から稼働し続けている ECLIPSE TD307IIを続投。

USB DACもアンプも、前世代機と同程度の、極めて小型の筐体だ。これだけ小型だと、配線も楽ちん。USB DACのインターフェースがUSB Type Cになり、電源ケーブルが不要になったのも、ありがたい(別売の電源アダプターを使えば、USBは音声信号のみになるので、さらなる高音質化が図れるとメーカーは謳っているが、そこは我慢)。

念のため、USB DACのファームウェアとドライバを最新の物にアップデートし、起動。かなり、音が変わったことに驚いた。こうやって新しいデバイスで聴いてみると、前世代機は、結構、硬質で勢いのある音質だったなと思う。新しい組み合わせだと、迫力が削がれる分、透明感は増した感じだ。もう少し、前に出てくる感じが欲しい気もするが、前世代機の半分ぐらいの値段に押さえたことを考えれば、コスト・パフォーマンス込みの全体的なクオリティは向上しているだろう。KorgのDS-DAC-10では不安定だったASIOが安定して使えるのもありがたい。そして、17年間、相当の使用頻度で鳴らし続けているECLIPSE TD307IIの安定感に、改めて感謝だ。

正直な所、使用機種の変更みたいな作業は、年々、億劫になってくるし、掛けられる予算も厳しくなるのだが、いざ必要に迫られてやってみると、機種選定からセッティングまで、どの工程も楽しい。

が、メインのオーディオ環境や、諸々の家電類も、そろそろ耐用年数問題が顕在化するかもしれない。やはり、億劫だな……


「昆虫 MANIAC」@ 国立科学博物館24.10.5

国立科学博物館「ムシ」をテーマにした博覧会を観に、国立科学博物館に行ってきた。タイトルは「昆虫」となっているが、それ以外の「節足動物」の展示も含まれている。マニアックな研究員の方々が所属しているであろう国立科学博物館が自ら「MANIAC」とタイトルに謳っているだけに、期待大である。

博物館所属の研究員5人が、それぞれ、「トンボ類」、「ハチ類」、「チョウ・ガ類」、「クモ類」、「コウチュウ類」を監修するという構成になっている。解説は、音声ガイドも含め、とても分かりやすい(もちろん、昆虫好きのお子様に合わせている面もあるが、結構、ハイ・レベル)。私も、今回初めて知見を得た事、多数。また、必ずしも「昆虫凄い!」という雰囲気では無く、皮肉も効いているのが楽しい。例えば、蘭の花に擬態することで有名なハナカマキリについての解説文「ただし、その成虫は『ただのぼてっと太った白いカマキリ』である」……

国立科学博物館もちろん、国立科学博物館が所蔵する標本類は見応え有り。ホウセキゾウムシなどの作り物のような美しさに驚き、

国立科学博物館タマオシコガネが作る洋梨型の糞球を見て、子供の頃に読んだファーブル昆虫記の記憶がよみがえり、

国立科学博物館センチコガネの生態展示に添えられた「上野動物園のエゾシカの糞で飼育中!」のプレートにホッコリする。

国立科学博物館の特別展では、これまで、「深海」、「ワイン」、「」、「和食」などを観てきたが、今回は、特に解説の巧みさが際立っていたと思う。


”Civil War”24.10.5

アメリカで内戦が勃発したという設定の映画を観てきた。

連邦政府から19の州が離脱。テキサス州とカリフォルニア州の同盟"Western Forces (WF)"と政府軍の戦いが激化する近未来の米国を舞台に、4人のジャーナリストが大統領に単独インタビューを行うべく、ニューヨークからワシントンD.C.へ向かう。その道中で目にするものとは…

最近の米国の分断を皮肉るような作品かと思っていたのだが、意外なほど政治色は薄い。WFが連邦政府から離脱し、内戦を起こした理由が明確に語られることは無い。それよりも、確かな動機が無いまま、戦場の狂気に飲み込まれ、同胞を殺すことに抵抗を覚えなくなっていく人々の恐ろしさが抉り出される。主人公達が体験する地獄巡りは、現代の米国が舞台でありながら、”Apocalypse Now(地獄の黙示録)”でベトナムのジャングルを覆っていた狂気と同根だ。

そして、この作品は、ジャーナリストについての映画でもある。ベテラン戦場カメラマンに憧れ、同行する若いカメラマン志望の女性が、ナイーヴな若者から変容していく様子は、彼女の成長なのか、あるいは、彼女もまた戦場の狂気に取り憑かれたのか(演じる Cailee Spaenyの表情の変化が実に何とも…)。そして、数え切れないほどの修羅場をくぐり抜けてきたであろうベテラン・カメラマン(ハードボイルドで虚無的ですらある人物を、Kirsten Dunstが好演)は、若手に何を伝えるのか。

因みに、劇中、Kirsten Dunstが使うのは最新デジタル・カメラ=SONYのα、一方、Cailee Spaenyが使うのはフィルム・カメラ=1983年発売の名機 NIKON FE2。この対比も、色々深読みが出来そうだが、とりあえず、ラストのカットは、モノクロ・フィルム・カメラだからこその印象的なものになっている。上手いなぁ。

極めてドライで、ヘヴィーな映画だが、ここで描かれていることは、絵空事でも他人事でも無いのが恐ろしい。


”Hanu-Man”24.10.6

今年、インドで大ヒットしたテルグ語映画を観てきた。インド神話に登場する神様の化身の猿の将軍 Hanumanの力が人間に宿るという設定から、タイトルは、Hanumanの間を区切って”Hanu-Man”(まぁ、駄洒落だ)。邦題も、Hanumanの日本語表記「ハヌマーン」ではなく、「ハヌ・マン」となっている。

インドの中でも、バスも通らないような辺境が舞台。いまだに民主的な選挙が行われた事はなく、「殿様」が支配し、人々は殿様が課す上納金に苦しめられているという、旧態依然とした村だ。そこで暮らす主人公の青年は、お調子者で盗み癖もあるが、根は善人。一方、彼の幼なじみのヒロインは、進歩的な思想を持つ医師。殿様を公然と批判したことで、命を狙われてしまう。そんな中、ハヌマーンの力が宿る石を手にした主人公が、ヒロインを守るのだ! というお話。

冴えない主人公が、偶然、スーパー・パワーを手に入れ、ヒーローとして活躍するという、アメコミ映画お約束の設定だ。ただ、そこはインド映画。物語展開のリズムが悪いし、サブ・ストーリーに色々詰め込み過ぎだし、合間の歌と踊りはたっぷり。最近はハリウッド化が進むインド映画の中では、古典的なスタイルと言えるだろう。私は大好きだが、不特定多数の人に勧めるのは難しいかな。

音楽、演出、台詞等々、映画の端々に、あの魂の名作”Baahubali”へのオマージュが溢れている(むしろ、パクリと言った方が良さそうな箇所も多い)。この図々しさも、インド映画的と言えると思うし、”Baahubali”の影響力の凄さも思い知る。

田舎を舞台にしていた物語は、終盤、唐突に(日本人には馴染みの無い)神話的展開となり、ラストでは、続編が2025年に公開されることが示される。この作品、MCUばりのユニバース展開を企画した第1作なのだ。かなり、風呂敷を広げているが、大丈夫なのか、ちょっと心配でもある(第2作以降で、この風呂敷を畳めるのかという心配と共に、そもそも日本で公開されるのかが心配だ)。



とは言え、朝晩はともかく、10月としては、昼間は結構暑いっすね。