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*9月14日、15日の八ヶ岳高原音楽堂公演は、(「リサイタル」名義では無いため)別ページに記載しています。
ソロ・ライヴは、4月に「TOKYO春爛漫、」、5月に「矢野顕子 Into The Space <Version 2>を開催しているが、”リサイタル”名義の弾き語りライヴは、今年初。会場の江戸川区総合文化センター 大ホールは、キャパ 1,497席。私は初めて訪れたが(矢野さんも初めてとのこと)、昔ながらの豪華なホールという雰囲気だ(ロビーに、何気にパブロ・ピカソの絵が飾られていたりする)。
ピアノはSteinway。客入れの音楽は、Sérgio Mendes(& Brasil 66)。この日、訃報が流れた彼への弔意だろうか。
開演。1曲目「そりゃムリだ」と2曲目「ひとりぼっちはやめた」をシームレスにつなげる。最初から絶好調だ。ホールのSteinwayも良い響きだし、矢野さんの声の調子も良い。何より、一つ一つの言葉を明瞭かつ丁寧に届けようとしているような歌唱だ(この印象は、最後まで持続した)。
MCも、終始リラックスした感じ。都心近くの(ただし、高速の出口周辺に高いビルは無く、空が広い)会場の気安さかな。
「音楽はおくりもの」では、これまで聞き取りづらいと個人的には感じていた「モータウン」の歌い方が工夫され、くっきり聞こえたのが印象的だった。
「悲しくてやりきれない」の演奏後には、「ピアノ演奏に、角野隼斗さんから盗んだ(?)テクニックを使ってみた」との発言(すいません、私には分からなかった…)。そして、「次の曲は、長い間、演っていなかった曲です」と言って、演奏を始めようとキーを探っていたのだが、結局、思い出せない。ということで、この曲は見送り…。ただ、そこからの「SUPER FOLK SONG」、「自転車でおいで」の流れが素晴らしかったので、無問題だ。
「星のラブレター」は、The Boomの1989年の作品。矢野さんは、初めて演奏するつもりだったが、スタッフから「昔、演ってましたよ」と指摘されたそうだ。演奏後、歌詞カードに、「ヤノ」、「ミヤ」、「大貫」、「奥田」、「鈴木」、「全員」などの書き込みがあることを発見し、ようやくこれが、「Beautiul Songs」で演奏した曲であったことを思い出す矢野さん(この曲が歌われたのは2回目の”Beautiful Songs 2002"。ライヴ盤として発売されている”LIVE Beautiful Songs”は1回目の公演の記録なので、この曲は収録されていません)。
ここから、鉄板曲が続く終盤戦。特に、「GREENFIELDS」の熱演に、やはり大名曲だとの意を強くした。本編ラストは「ひとつだけ」
アンコール。どうせ、二択を観客に問いかけても反応は「両方」になるのだから、ということで、炭水化物セット、「ごはん」と「ラーメン」。矢野さんの素晴らしい即興アレンジで、見事なメドレーのつなぎ。これで全編終了。いつにも増して、極めて高レベルな弾き語りパフォーマンスだったと思う。大満足であるが、矢野さんが思い出せず、演奏を断念した曲が何だったのかだけが気になる……
追記:翌日の矢野さんのTwitter(現X)によれば、断念したのは「 Evacuation Plan」だったとのこと。私のメモでは、2008年~09年頃はしばしば採り上げていたが、2011年に上原ひろみさんと行った「さとがえる」で演奏された以降、記録されていない。エモーショナルで大好きな曲なので、これは、聴きたかった!
一昨年まで、「年末」恒例の鎌倉芸術館小ホールでのライヴだが、23回目となる今年は、昨年に続いて11月の開催だ。さとがえるで盛り上がった後、親密感溢れるソロ公演で年越しを迎えるという感覚が染みついているので、まだ、調子が狂う感じはある。
客入れの音楽は、Sérgio Mendes(& Brasil 66)。もちろん、Steinwayの前の椅子は、コクヨのingLIFE ピアノ演奏仕様特注版。
まずは、この日の朝、11月13日に亡くなったことが公表された谷川俊太郎氏が作詞した「さようなら」。終盤のピアノの力強い打鍵に、想いが込められているような演奏。そのまま、シームレスに始まった2曲目も、谷川俊太郎氏作詞の「赤いクーペ」。糸井氏の曲を1曲挟んで、さらに谷川俊太郎氏の「引っ越し」。この曲は、2017年のさとがえるで披露されて以来の難曲だが、やはり、心のこもった名演だ(矢野さんご本人は、次に演るのは30年後かも、とおっしゃっていたが)。
難易度の高い曲の後、5曲目「David」でほっこりした後、始まったのは、サトウハチロー氏作詞の「ちいさい秋みつけた」。演奏開始直後は、尖ったアレンジに驚いたが、演奏が進むにつれ、元祖さとがえるトリオ(Anthony & Cliff)の名演を想起させる展開になり、どんどんヒートアップしていく。実にカッコ良し。
続いて、糸井重里氏作詞の「夢のヒヨコ」。今回、オリジナルのFax原稿を見いだしたところ、録音版に採用されなかった2番の存在が明らかになったということで、1番から3番のフルセットでの演奏。没になった2番には、なんとヒヨコが登場しないという驚きの展開(代わりに登場するのは、カエル!)。
野口聡一宇宙飛行士とのプロジェクトから、「ドラゴンはのぼる」。そして、今年5月の「矢野顕子 Into The Space <Version 2> 矢野顕子の歌とピアノで宇宙へ行こう。」で披露された、地上に戻ってきたその後の宇宙飛行士のことを描いた「夢の世界で」。演奏後、例によって、宇宙についての話を色々としている内に、Space X社のElon Musk氏に話が発展しそうになり、"腹が立ってくる"前に、「Prayer」でクールダウン。そして、本編ラストは、「ごはんができたよ」と「ひとつだけ」の鉄板構成。
アンコールは、「MISIAさんに提供した曲だから、自分で歌うのは控える」と公言していた「希望のうた」。やっぱり、自分でも歌いたくなって、MISIAさんに了解を得たということだが、この名曲の矢野ヴァージョンは、清水ミチコさんに頼るしか聴く術が無いと思っていた我々には、ありがたい限りだ。そして始まった演奏が素晴らしい。想いの詰まった歌唱とピアノ。凄みすら感じる熱演だ。そのため、アンコール2曲目で「ラーメンたべたい」が始まった直後は、蛇足かも… と思ってしまったのだが、これがまた、素晴らしい熱量のパフォーマンス!毎年、鎌倉のラーメンの熱さは、特別だ。
ということで、「冬の矢野顕子祭り」開幕である。一連の公演を、23回目の今回も衰えない音を出してくれる素晴らしいピアノを擁し、通い詰めてるコアなファンも多いこの会場で、リラックス・モードでスタートするというのは、正解だなと思い直したのである。