2014年も終わりです。
最近のIN
珍しく日本で公開されたシンガポール映画を観てきた。監督は、これが長編デビュー作となるAnthony Chen。1984年シンガポール生まれの期待の新人だ。邦題は「イロイロ ぬくもりの記憶」。なお、「イロイロ」というのは、監督の少年時代、家にいたフィリピン人メイドの出身地の地名とのこと。
舞台は、1997年のシンガポール(画面に映るPCのモニターが液晶では無くCRTだったりする何気ない描写が巧み)。共働きの夫婦と、わがままで反抗的な一人息子。その一家に、住み込みで働くことになったフィリピン人メイドがやってくるところから物語は始まる。初めはメイドに対して心を開かず、意地悪を繰り返していた息子だが、徐々に心を通わせ初める。しかし…
ストーリー展開は地味だ。物凄い感動的な展開がある訳では無い。問題行動を繰り返す息子。リストラに遭った父。家族の問題に悩むうち、新興宗教に救いを求める母。フィリピンに子供を置いて一人、出稼ぎに来ているメイド。これら登場人物達も、感情移入しづらい奴らばかり。息子は、本当に素直じゃ無いし、父親のダメ親父っぷりは半端ないし、母の不機嫌さにはイライラくるし、メイドだって聖人という訳じゃ無い。それなのに、気がつけば映画の世界に没頭し、ラストの音楽が終わる頃には、胸にじんわりくるものが残っている。四人それぞれが抱える問題を丁寧にすくい上げる演出手腕が、実に力強く、見事なのだ。シンガポールが舞台というだけで観に行った作品だが、見逃さなくて良かったとつくづく感じた。
マンダリンとシングリッシュ、さらにはインド訛りの英語も出てくる台詞。住み込みの外国人メイド。HDB(公営の団地)の生活。賑やかな葬式。鞭打ち。4D(シンガポールでメジャーな宝くじ)。これら、シンガポール独特のものが画面に登場する。駐在していたからこそ、すんなり分かるのだと思う一方で、Anthony Chen監督は、こういったものを出しながらも、この映画を、世界中、どこでも通用する普遍的な家族の物語として成立させているとも感じる。現在は、英国在住という監督。今後が楽しみだ。
David Fincher監督の新作を観てきた。
ある日、突然、妻が失踪。鑑識の結果、自宅からは、血痕を拭き取った跡が見つかり、夫に殺人の容疑がかかる。事件はメディアに取り上げられ、彼は全米からバッシングされるのだが… というお話。
どこか煮え切らず、疑われても仕方ないと思わせる夫を、Ben Affleckが好演。若い頃はヒーロー的な役柄が多かった彼だが、歳を重ねて、彼が本来持っていると思われる野暮ったさや、女性にだらしなさそうな雰囲気が、うまく役柄にマッチしている感じだ。
失踪事件の捜査と、夫目線から語られる夫婦の物語と並行して、妻が書いた日記に沿って、これまでの結婚生活を辿るストーリーが語られる。そして、物語は、中盤、驚くべき急展開を見せる。ここからは、失踪した妻、Rosamund Pikeの凄まじい演技が見所に。この急展開が、そのままどんでん返しにつながっていくのかと思いきや、さらに終盤、もう一捻り、二捻りがあって、なんとも後味の悪い、恐ろしいエンディングとなる。
Fincher監督独特の凝った映像は、本作では控えめだが、引き締まった画面と、そこに重なるNine Inch NailsのTrent Reznorによる音楽が印象的。複雑な構成を持った149分の長い映画だが、中だるみすること無く、また、ストーリーに迷うこと無く画面に惹きつけられ続ける。監督の力量を感じる傑作だ。
生活を共にしながらも、お互い、パートナーのことを本当に理解しているのか、という疑問を突きつける作品で、カップルで観に行くのは避けた方が無難かもしれない。ただ、このラスト、単に怖いと言うよりも、とことん捻くれたブラック・ユーモアという捉え方もできるかな。
毎年、年末には、色々反省することが溜まっている、というのを繰り返し続けている訳です。「今年は、反省する事無しの充実の一年だった」と振り返れる日が来ることはあるのだろうか? 自信無いなぁと思う、今日この頃です。
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