IN/OUT (2014.7.6)

「形而上的二日酔い」(Kingsley Amisの文章を吉行淳之介が訳したらしい)という言葉があることを知り、そうそう、これこれ。と痛感する今日この頃です。


in最近のIN

Rick Wakeman @ 東京国際フォーラム14.7.1

Rick Wakemanのソロ公演を観に、東京国際フォーラム ホールCへ行ってきた。2008年に彼のソロライヴをビルボードライブ東京で観たときは、シンセサイザーを使っていたが、今回はアコースティック・ピアノだけのライヴである。

ヨハン・パッヘルベルの「カノン」で登場し、ピアノ演奏スタート、というオープニングは、ビルボードライブの時と同じ。また、演奏曲の大半も、ビルボードライブと被っている。"Henry VIII"から、二人の妻("Catherine Howard", "Catherine of Aragon")、"King Arthur"から、"Merlin the Magician"、"Return to the Centre of the Earth"から"The Dance of a Thousand Lights"(この曲のみ、バックにオーケストラの音を流しながらの演奏)、YESの"And You and I", "Wonderous Stories"、ABW&Hの"The Meeting"、Cat Stevensの"Morning Has Broken"。さらに、最後に演奏するのが、The Beatlesの"Help!"と"Eleanor Rigby"。

前回のライヴと同じ曲が多く、しかも、今回はシンセサイザーが無い分、淡泊な演奏だった訳だが、じゃあ、つまらなかったのかと言えば、そんなことは全く無い。ピアノだけなので、彼独特の、たっぷり装飾された、しかし流れるようなフレーズをしっかりと堪能できたし、今回は、"Journey to the Centre of the Earth"と、"Myths and Legends of King Arthur and the Knights of the Round Table"の二大超傑作アルバムを、ほぼ全曲演奏してくれたのだ。どちらのアルバムも、バンド、オーケストラ、コーラスをふんだんに使った分厚い音の作品だが、Rick曰く、「作曲はピアノで行ったので、この演奏がオリジナル」とのこと。アルバムのエッセンスが詰まった演奏は、聴き応え十分。

さらに、私が、Rick Wakemanのピアノ・プレイの中で一番好きな、David Bowieの"Life On Mars?"を演奏してくれたことに大感激。この曲は、レコーディングの際、Bowieに「好きにピアノを弾いてくれ」と言われて録音されたそうだが、本当にRick Wakemanの個性が溢れた名アレンジだと思う。1971年発表のこの名曲を、2014年の今、ご本人のピアノで聴けるとは、なんたる幸福!(ここにBowieが居れば、なんて思うのは、いくら何でも贅沢過ぎだろう

それにしても、彼の弾くメロディー・ラインは、私の音楽嗜好の相当深い所に根付いているなぁ、と実感したライヴだった。


"Edge of Tomorrow"14.7.5

Tom Cruiseの主演最新作を観てきた。原作は、桜坂洋のライト・ノベル「All You Need Is Kill」。さすがに、このタイトルは米国では採用されていないが、日本では原作通りのタイトルで公開されている。ライト・ノベルというのは、どうにも食わず嫌いなので、あまり期待せずに観に行ったのだが、中々手堅く出来た娯楽作だった。

異星からの侵略者との戦いが続く中、Tom Cruise扮する軍の広報担当者が最前線に送られ、あっけなく戦死する。しかし、次の瞬間、彼は出撃の1日前に戻っている。戦っては死に、再び時間を遡り、戦っては死ぬ。というループに囚われた主人公(都合が良いことに、時間を遡っても、記憶は蓄積されるのだ)は、果たして戦いに勝利する手立てを見つけることが出来るのか? というお話。いかにもライト・ノベルらしい、中学生男子が喜びそうな設定だ(偏見かなぁ…)。何度死んでも、リセットしてやり直し、徐々に経験値を高め、ステージをクリアしていく、というのは、TVゲーム的でもある。

敵の設定や、主人公がループする時間に閉じ込められた理由付けなどは、はっきり言って低レベルだと思う。が、とりあえず、それらを受け容れてしまえば、Doug Liman監督のスピード感溢れる演出に支えられた、巧みな展開を楽しむことが出来る。

特に、前半のTom Cruiseの人物設定が面白い。広告代理店上がりの、調子だけ良いが、戦闘には不向きな腰抜け男、というダメ・キャラを演じるTomが活き活きしている。そんな彼を、厳しく、何度も強制リセット=射殺しながら鍛え上げていくのが、Emily Blunt演じるヒロイン。引き締まった肉体とクールな美貌で、カリスマ的な女性戦士を好演している。この二人の距離感が絶妙で、ストーリーがダレずに最後まで緊張感が持続しているのも、良い演出だ。

ちなみに、敵の名称が「ギタイ」というのは原作の通りで、それが字幕(戸田奈津子らしい意訳の多さで、ちょっと閉口した)にも出てくるのだが、台詞では"mimic"と発音されている。シナリオ・ライターは、「擬態」をそのまま英訳したみたいだ。そして、その形状が、ミミック・オクトパスに似ているのは、意識しているのかなぁ…



まあ、カッコ良い言葉を使ったところで、二日酔いに違いは無い訳ですが…