全6公演中、4公演に行くことが出来ました。
地区 | 公演日 | 開演 | 会場 | ピアノ |
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神奈川 | 12月7日(木) | 19:00 | 湘南台文化センター 市民シアター | BECHSTEIN |
福島 | 12月9日(土) | 18:00 | 郡山市民文化センター 中ホール | STEINWAY |
東京 | 12月10日(日) | 18:00 | NHKホール | BECHSTEIN |
愛知 | 12月12日(火) | 19:00 | 三井住友海上しらかわホール | STEINWAY |
大阪 | 12月15日(金) | 19:00 | サンケイホールブリーゼ | BECHSTEIN |
石川 | 12月17日(日) | 17:00 | 北國新聞赤羽ホール | STEINWAY |
第一部は銀色のスパッツ(「UFO」を歌うピンクレディー風)、第二部はモノトーンのワンピースにお着替え。湘南台での出演前には、出前の鍋焼きうどん(上)で温まったそうです。(映画「SUPER FOLK SONG 〜ピアノが愛した女。〜」を観た人は、その鍋焼きうどんが熱々だったのかが、気になると思う…)
今年は、年末恒例の鎌倉芸術館での弾き語り公演が無く、代わりに、藤沢市の湘南台文化センターがさとがえるコンサート一発目の舞台となった。毎年、他の会場とは一味違う選曲と演奏で楽しみだった鎌倉芸術館公演が無いのは、非常に残念だ。矢野さんは「呼んでもらえなかった」と言っていたが、BECHSTEINピアノを持ち込めなかったのかなぁ… などと考えてしまう。
さて、初めて訪れる湘南台文化センター。勤務先からは、鎌倉以上に遠いが、何とか間に合った。今年は、ツアーグッズにさとがえる伝統の「パフパフ」が無いのが寂しいな、などと思いながら場内へ。キャパは600人。同心円状に配置された座席と、キャパに比して非常に高いドーム状の天井が特徴的なホールだ。舞台上は、C.BECHSTEINが鎮座しているだけのシンプルなセット。私の席は、舞台に向かって左側。ちょうど矢野さんの正面に当たる角度。
演奏が始まって、まず、気づくのは、PA。これまでの矢野さんのソロ公演と比べて、ヴォーカルがとても前に出ていると思う。非常に聞きやすいバランスだ。今回のアルバム「Soft Landing」の音響に通じるものがあると思う。矢野さんの声自体も好調だ。そして、BECHSTEINピアノの響きも、中音域のふくよかさと力強さが、いつものSTEINWAYとは一味違うのが、CDで聴くよりもよく分かる。弾きこなすには力が要りそうだが、正しく力を込めると、ガツンと響いてくれるという感じ。インタビューで矢野さんが「私を甘やかしてはくれないピアノ」と言っていたのが分かるような気がする。結果、矢野さんのピアノの弾き方も、一味違うものになっていると思う。
ピアノも歌唱も力強く、歌詞が飛ぶことも無く、非常に充実した演奏が続く。一方、MCの方は、ピアノの違いを説明するのに豚の生姜焼きを例えに出すなど、自由奔放。第一部の最後は、上原ひろみさんがアレンジした楽譜を見ながらも、独自アレンジで「飛ばしていくよ」。
15分間の休憩中は降りていた幕が上がり、第二部スタート。舞台上には、大きな木のオブジェが設置され、衣装を替えた矢野さん登場。ピアノの前には座らず、まずはスタンディグのアカペラで「Soft Landing」を歌い出し、ワンコーラス歌った後、ピアノの前に移動して弾き語りに。続く「引っ越し」は、演奏の難易度が高い曲で、ライヴでやるのはこれが初めていうことだったが、見事に弾きこなされていた。
当然だが、新アルバムからの曲が多く、サプライズの無いセットリストの中で、異彩を放っていたのは「津軽海峡・冬景色」だろう。石川さゆりさんとの共演以来、何度かライヴで取り上げられていて、結構、お気に入りになっているのかな。アバンギャルドにヒートアップしていく演奏がスリリング。
アンコールでは、スクリーンが吊され、そこに映るのは谷岡ヤスジ氏の漫画。「SUPER FOLK SONG」の舞台となった「村(ソン)」である。演奏されるのは、もちろん「SUPER FOLK SONG」と「SUPER FOLK SONG RETURNED」。正直、演奏と映像が合っているのかは難しいところだ。私は、タゴ、アオ、タロのお馴染みのキャラクターが懐かしく、ついつい、演奏を聴く事よりも、映像に目が行ってしまった…
ということで、始まったさとがえる。初日から、非常に充実した演奏&歌唱だったと思う。この先、どのように進化していくのか、そして、「Wives and Lovers」に追加の歌詞が付けられるのか(昔の男性目線の歌詞に、矢野さんは腹を立てていて、歌詞を追加したいそうだ)、楽しみである。
この日、郡山市民文化センターの大ホール(キャパ 2,004席)では、米津玄師さんのコンサートがあり、ロビーは沢山の人で溢れかえっている。その人混みを横目に、中ホール(キャパ 806席)へ。因みに、ホール隣の談話室では、郡山天文研究会による天体写真展開催中。 会場内は、古き良き市民会館という雰囲気。最新のコンサートホールに比べると、座席が小さい…
今回のピアノは、意外にもSTEINWAYだ。演奏が始まると、その軽快で透明感のある音は、BECHSTEINとは違う個性であることをはっきり感じる。湘南台でのBECHSTEINに対しては、矢野さんは対峙しているという印象だったが、STEINWAYとは一体化しているという感じもある。今日も、ヴォーカルがくっきりと前に出るPAだが、この音作りは、BECHSTEINとの組み合わせの方が映えるかな。
4曲目は、糸井重里作詞枠なのか、今日は「ふりむけばカエル」。会場から起こる手拍子に、個人的には違和感を覚えるが、この曲にはSTEINWAYの軽やかさが似合う。どうも、今日の公演は、「さとがえる」の特別感よりも、地方での「リサイタル」感の方が強い印象だ。
休憩後、幕が上がると、木のオブジェ。湘南台と違い、花が一輪。これは、華道家の上野雄次さんの作品で、会場毎にアレンジが変わるそうだ。
10曲目は、石川さゆりさん枠なのか、今回は「ほめられた」。と思っていたが、13曲目で「津軽海峡・冬景色」。今日は、一曲多い!と喜んでいたら、まさか、本編ラストにさらに1曲「ひとつだけ」。たまにしか来ることが出来ない地方公演ならではのサービスだろう。それにしても、湘南台より2曲多いとは…。私としては、余裕を持って買っていたつもりの新幹線の指定席が、かなり危なくなってきた…
それでも、今回の構成では、アンコールの2曲は外せない。私がずっと気になっていた「若い世代には、『村(ソン)』も『ラッタッタ』も、意味が分からないのでは?」問題に、映像と歌の合間の語りで解決が図られたことが、ちょっと嬉しい。
ということで、15分間の休憩も入れて、全編、ほぼ2時間30分。今日は、ピアノ・選曲・会場の雰囲気も合わせ、「リサイタル」っぽい印象ではあったが、たっぷりと堪能。ただ、湘南台に比べると、歌詞が飛ぶ箇所が、ちょっと多かったかな。
矢野さんが舞台からはけるやいなや、郡山駅へダッシュ。ヘトヘトになりつつも、なんとか指定を取っていた新幹線に間に合った。
今日のピアノはBECHSTEIN(当然、創業者 Carl Bechsteinのイニシャルが付いたC.BECHSTEIN=通常ラインよりもお高いモデル)。私の席は、前の方ではあるが、舞台に向かって右端。かなり辛い角度だ。
演奏が始まる。非常にバランスの取れたPAだ。そして、BECHSTEINが実に豊かに鳴っている。
3曲目の演奏では、糸井・矢野コンビをLennon-McCartneyに例える矢野さん(作詞と作曲の役割分担があるので、Keith Richards / Mick Jaggerに近いような気もする…)。そして、演奏後には大谷翔平選手が西海岸のチームを選んだ事への異議申し立て。因みに、矢野さんは、New York MetsのNoah Seth Syndergaard投手が、今の贔屓らしい。
ここで、前回までと曲順が替わる。さらに、郡山に続き、NHKでたまたま観た「メトロポリタン美術館」に触発され(これを歌おうと思ったが、自分では歌っていないことに気がつき)「みんなのうた」繋がりで決めたという「ふりむけばカエル」。郡山ではSTEINWAYの軽快さが似合う曲と感じたが、今日の演奏では、BECHSTEINも良く響いている。
第一部ラストは、会場の手拍子を促しての「昨日にドドンパ」。どうも、今回のさとがえるは、新アルバム「Soft Landing」をテーマにしながらも、裏テーマに「糸井重里」、さらにその奥に隠されたテーマが「石川さゆり」という趣向のようだ。
休憩時間は、会場の大きさを考慮して20分。そして、第二部開始。これまで、矢野さんのライヴでは、降りているところをほとんど観たことが無いNHKホールの緞帳が上がると、例によって上野雄次さんによる木のオブジェが舞台上に現れ、スタンディング・マイクで「Soft Landing」の歌唱開始。そして、続く「引っ越し」の演奏が素晴らしかった。BECHSTEINの響きを、矢野さん自身が試し、楽しんでいるような印象だ。そして、それに応えて、ピアノも実に良く鳴っている。
「津軽海峡・冬景色」の演奏は、これまでの中でも出色の出来だったと思う。原曲のイメージの残し方と崩し方、そして、高まるテンションとのバランスが素晴らしい。「ラーメンたべたい」も、郡山での勝手知ったるSTEINWAYとの一体感とは違い、BECHSTEINと真正面から向き合う演奏と、ピアノ演奏の気迫に引っ張られるように響く歌声が、とても力強い。
アンコールの二曲、今日も、「若い世代には、『村(ソン)』も『ラッタッタ』も、意味が分からないのでは?」問題に、映像と歌の合間の語りで解決が図られているのは良いことだ(終演後の周囲の人の会話を漏れ聞くと、谷岡ヤスジ氏の漫画の知名度は、私より下の世代には、かなり低いことに改めて驚いた)。
ということで、今日は、ピアノの鳴りっぷりも、矢野さんの歌唱と演奏も、PAも、全てが高いレベルで調和していたと思う。個人的には、第一部のラストは「昨日にドドンパ」の明るい一体感よりは、「飛ばしていくよ」のハイテンションの方が好みではあるが。あと、一曲毎のMCが、私には冗長に感じられた。語り無しで曲を繋いでいく展開もあって良いと思うのだが。一方で、NHKホールの客層は、いつもながら、素晴らしいとも感じた。余計な手拍子は入れず、一方で、矢野さんに促されれば、何気に難易度が高いドドンパの手拍子を決め、どの曲でもピアノの最後の一音が消えるの待ってから巻き起こる拍手など、とても良い感じだ。
これで、今回のツアー、関東圏は終了。果たして、ツアー最終日までに、「Wives and Lovers」の追加歌詞は完成するだろうか?
私が金沢を訪れるのは、2004年のオーケストラ・アンサンブル金沢 との共演、2009年の金沢21世紀美術館での出前(Bösendorferを弾くという企画)に次いで、三度目。要は、私にとっては、矢野さん絡みでしか訪れていない土地である。折角なので観光でもと思い、前日の午後に到着したものの、激しい風雨。結局この日は、会場の北國新聞赤羽ホールの場所を確認した以外、出歩くこともなし。
翌朝は、予報通りの大雪で、かなりの積雪。午後からは、弱いみぞれになったが、足下は非常に悪い。赤羽ホールは、金沢一の繁華街、香林坊にあり、ガラスを多用したオシャレな外観。キャパは504人。今日のピアノはSTEINWAY。
開演。STEINWAYの透明感ある響き。出だしは矢野さんの喉の調子も良いと思ったのだが、「野球が好きだ」に絡めたMCで、石川さゆりさんと一緒にイチロー選手が出場する試合を観戦した時の話をし、石川さんの「行け〜!」という応援の声を真似たせいか、本日の糸井枠「自転車でおいで」の歌唱では、かなりエヘン虫に悩まされていた。一方、ピアノの方は、矢野さん曰く「今日のピアノはとてもフレンドリー」。慣れ親しんだSTEINWAYとの自然な一体感を強く感じる演奏だ。
休憩中に下りていた緞帳が、金沢城址・兼六園から金沢市街の風景を、金色も用いた艶やかな色彩で描いた物で、さすが金沢という感じ。その緞帳が開いて、第二部。まずはアカペラで始まる「Soft Landing」。喉の調子はすっかり回復したようだ。因みに、今日の上野雄次さんによる木のオブジェには、近くにお住まいの林さん宅のサザンカが使われているそうだ(そのせいか、矢野さんの歌詞カードの上にアリが出現するというハプニングも)。
9曲目「お引っ越し」の後は、ツアー最後の物販コーナー。そして、会場に向かって「ひとつだけ」と「ごはんができたよ」のどちらが良いか、拍手を募る。郡山でもあった、地方公演ならではの鉄板曲サービスだろう。拍手の数は同じぐらいだったが、より鉄板度が高いからか、矢野さんは「ひとつだけ」をチョイス。
続く「Wives and Lovers」、結局、ツアー中の追加歌詞は完成せず。一方、「津軽海峡・冬景色」の完成度は、ツアー中に確実に高まってきたと感じる。
アンコールで登場した際には、ツアー最終日ということで、スタッフへの拍手。そして、例によって谷岡ヤスジ氏の漫画を映しながらの「SUPER FOLK SONG」&「RETURNED」で全編終了。恐らく、矢野さんも今日中に東京に帰るのだろう。MCが間延びすること無くスムースに進行し、17時開演で19時10分頃終演。最終日という気負いも感じられず、綺麗にまとまった公演だった。
この公演で印象的だったのは、金沢の観客の熟練度のようなものだ。曲が終わって、矢野さんがピアノのペダルを離すのを待ってから巻き起こる拍手や、アンコールの時の手拍子の揃い方は、東京公演に近いと感じた。さすが、大都市。
ということで、今年は、全6公演中、4公演を観ることが出来た。うち、使用ピアノは、BECHSTEINが2回。STEINWAYが2回。因みに、私が行けなかった名古屋はSTEINWAY、大阪はBECHSTEINだったそうで、交互に演奏されてきた事になる。この2台の響きの違いが、今年のさとがえるの一番の聴き所だったと思う。透明感があり、矢野さんと一体化したかのような演奏が楽しいSTEINWAYと、ふくよかな響きで、矢野さんが正面から向かい合って弾きこなそうとしているかのような力強さを感じるBECHSTEIN。どちらも、個性があるが、やはり、初めて聞くBECHSTEINの音が印象的だった。
また、どの会場でも、PA、特にヴォーカルのセッティングが絶妙で、とても聞きやすいサウンド・バランスだったことも特筆すべき点だろう。特に、NHKホールでのBECHSTEINの豊かな鳴りっぷりと矢野さんの声の響きの美しさが絡んだサウンドは、絶品だったと思う。
「Soft Landing」に糸井さん増量、石川さゆりさんトッピングという選曲だった訳だが、個人的には「かくれんぼの村」が採り上げられなかったのは残念。あと、さとがえる伝統のツアー・グッズ「ぱふぱふ」が無くなり、Tシャツなど、より利益率の高そうなグッズばかりになったことも、残念な点ではある。
いずれにせよ、矢野さんの原点がピアノ弾き語りであることを再認識させられるとともに、BECHSTEINという新しいピアノとの出会いで、その演奏の幅がさらに広がったように感じられた今年のさとがえるだった。春の、上原ひろみさんとのツアーも合わせ、2017年は、矢野さんのピアノにさらなる進化/深化があった年だったと思う(だからこそ、年末恒例だった鎌倉芸術館での弾き語り公演が、今年は無いことが残念だ)。