地区 | 公演日 | 開演 | 会場 |
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青森 | 12月9日(金) | 19:00 | 青森市文化会館 |
東京 | 12月11日(日) | 18:00 | NHKホール |
静岡 | 12月13日(火) | 19:00 | 静岡市民文化会館 中ホール |
愛知 | 12月14日(水) | 20:00 | Zepp Nagoya |
大阪 | 12月17日(土) | 18:00 | 森ノ宮ピロティホール |
静岡が生んだ21世紀の「いじん(漢字不詳)」。腰を浮かし、足を踏みならし、うなり声を上げながら、超高速かつ正確無比に鍵盤を叩き続ける、その圧倒的身体能力に驚かされます。まさに全身で音楽を楽しんでいるようです。
上原先生の厳しい指導と、YAMAHAの最高機種CFXを弾きまくれる嬉しさからか、今年のピアノプレイは一味違います。「弘法筆を選ばず」という格言は、音楽には当てはまらない、との名言も出ました。その直後、「で、弘法って誰?」
舞台には蓋を外した二台のグランド・ピアノが向かい合わせに置かれている。向かって左が矢野さん。右が上原さん。舞台の後ろには鏡が角度を付けて吊り下げられていて、ピアノを演奏する姿を上から映す。開演前には、お二人自らが録音した、注意事項などを告知するアナウンスが流れる。このアナウンスで拍手が起きるコンサートというのも珍しい。
さて、本番。意外にも、「Get Together」には入っていない曲からスタート。1曲目から飛ばす二人。3曲目は、童歌「ずいずいずっころばし」に、「私のお気に入り(サウンド・オブ・ミュージック)」を組み合わせるという、上原さんらしいアイディアの曲。そのアイディアを生かし切る矢野さんの歌唱もお見事。
「CAPE COD CHIPS」の後、しばしポテトチップス談義に花を咲かせる二人。上原さんは、ピアノを弾く姿はまるでアスリートのような迫力だが、素の喋りは、ちょっと天然っぽい感じで、そのギャップも見ていて楽しい。
激しいプレイが続くため、途中で15分の休憩が入る。休憩後、まずは矢野さんのソロ。テンションの高い演奏ばかりだったので、ここで少し和む。そして上原さんのソロ。共演している時とはまた違う、自分の音に浸りきっているような深い演奏。
終盤、「CHILDREN IN THE SUMMER」の演奏が、凄いことになっていて、演奏終了と同時に、上原さんはガッツポーズ。と思っていたら、最後の「リンゴ祭り」が輪をかけて凄い。上原さんの体力は本当に無尽蔵という感じだが、矢野さんも負けていない。二人の掛け合いは、お互いに相手を刺激し、高め合い、遙か上空へ舞い上がるかのようだ。
アンコールは、当然「ラーメンたべたい」。圧倒的な演奏に鳴り止まない拍手。そして、ダブル・アンコールは、しっとりと「Green Tea Farm」。
上原さんは、本当に矢野さんの音楽が好きなのだろう。だからこそ、全身全霊でその良さを引っ張り出そうとしているような演奏になっているのだと思う。一方、それに正面から応える矢野さん。観客にも体力が必要だと思えるほど、実に見応え・聴き応えのある公演だった。
会場は、キャパ 1,170人。ほぼ、満席だったと思う。私は、NHKホールの時と同じ、前方、矢野さん側の席だったので、上原さんの方が見づらいのだが、舞台後方に吊られた鏡がありがたい。
開演前の注意事項のMC、本日は、地元上原さんによる、遠州弁バージョン。会場の笑いと拍手を誘う。
セットリストは、矢野さんのソロ曲も含め、NHKホールと同じだった。しかし、私が受けた印象はかなり違ったものになった。NHKホールでは、二人の力は、大勢の観客に対峙するために向けられていた部分が多かったように思う。そのことで、我々を圧倒するような爆発的なパワーが発揮されたのではないだろうか。一方、今回の比較的小さな会場では、二人の力は、観客に向かうと言うより、二人のコミュニケーションに当てられているような気がした。二人の駆け引きにぐっと親密感が増していて、それが観客にも伝わってくるような印象。あるいは、観客と舞台の距離が近いために、そう感じたのかもしれないが。
そのような印象が特に残ったのは、第一部では、「Evacuation Plan」と「CAPE COD CHIPS」での上原さんの自由奔放なプレイだ。本当に楽しそう。
第二部。二人のソロの、それぞれの深さも、格別だ。PAのバランス(今回は、全体的にヴォーカルを抑え気味にしているみたいだ)も、これぐらいの会場の方が良い感じに響いている。そして、ここから終盤の展開がNHKホールでの演奏を遙かに凌駕するような、凄いことになっていた。
「CHILDREN IN THE SUMMER」の後半。飛翔感溢れる二人の掛け合いは、このまま10分でも20分でも続いて欲しいと願ってしまうような迫力。
「リンゴ祭り」では、矢野さん自身がすっかり楽しんでいて、スキャット部分では、まさかの「ゴジラ、ゴジラ、ゴジラとメカゴジラ」。NHK-FMのかつての人気番組「サウンド・ストリート」の「デモテープ特集」を聴いていた世代には、驚愕&感涙の展開。しかも、それに瞬時に応える上原さんのピアノも素晴らしい。
当然のスタンディング・オベーションの後、アンコールの「ラーメンたべたい」。こんどは上原さんが爆走!途中で会場から何度も拍手が沸き起こる超絶プレイが炸裂。見ているこちらも、楽しくて仕方が無い。
再びのスタンディング・オベーションで、ダブル・アンコールを期待したのだが、静岡のお客様は生真面目なのか、客電が点いた瞬間、ピタッと拍手を止めてしまった。うーん、今日の公演で、ここだけが残念。っていうか、静岡は上原さんの地元(会場には、ご家族、ご友人からピアノの先生までお見えになっていたそうだ)。その茶畑を歌った名曲が控えていたのに…。会場使用時間の問題等もあったかもしれないが、やはり残念ではある。が、これだけの大熱演を観ることができたのだから、無問題。本当に凄かった。
会場は、「縁起の良い劇場」森ノ宮ピロティホール。自ら「縁起の良い」と名乗っているのだが、一体、どういう意味なのか、途中のMCで矢野さんも結構いじっていた。私からしても、一体、何故、さとがえる最終公演がこの劇場なのか、はなはだ疑問だ。客席数1,030席という広さは、今の上原さんの集客力を考えれば小さすぎると思うし、劇場自体が古く、設備面でも見劣りする。ロビーは狭く、クロークも無く、トイレの数も少ない。女性用はともかく、男性用トイレの前に開演前、あれだけ長蛇の列ができた会場を見たのは初めてだ。ただ、音響の方は、かなり良かったとは思う。
開演前には、例によってお二人自身が録音したアナウンスが流れたのだが、特に方言バージョンということでもないせいか、あまり盛り上がらない。と言うか、大阪の方々は、場内アナウンスをおとなしく聴いたりせず、その間もお喋り。他の会場では起こったアナウンス後の拍手も無し。ある意味、大阪らしいか。
いよいよ最終公演開始。1曲目の「そこのアイロンに告ぐ」から、上原さんが飛ばす飛ばす。矢野さんも切れの良いスキャットで応戦するが、果たして、二人とも最後まで持つのか?と思わせる出だし。続く、「Evacuation Plan」は、いつもよりたっぷりと聴かせてくれて、この曲を偏愛する私は大満足。
「ずいずいThings(命名は矢野さん。上原さんは"My Favoriteずっころばし"を提案していたそうだ)」。二つのまったく異なる曲の混じり具合が、ツアー中にすっかり熟成されたような気がする。聴いている方が聴き慣れてきた、というのもあるかもしれないが。
ということで、第一部、どの曲も「飛ばしすぎだろう!」と、嬉しいツッコミを入れたくなるような演奏が続き、そろそろ疲れたのか、7曲目「学べよ」では、歌い出しを矢野さんがとちる。しかし、それを挽回するかのように、さらに加速する上原さんの演奏。ひたすら、凄い。
二部のソロコーナー。矢野さんのピロティホール・ネタなど、かなり長めに色々とお喋り。一方、上原さんがたっぷりと情感を込めて弾く「Haze」。これが良かった。聴く度に好きになっていく、しみじみと味わい深い曲だが、今日の演奏は、特に染みた。個人的には、今回見た三公演の中でも最上位に位置する演奏だ。
そして、コンサートは終盤の怒濤のノリへ。いつも、盛り上がるところだが、今日の上原さんの爆走ぶりは、ただただ凄い。最終公演ということもあるし、会場に、おじいさまとおばあさまがお見えになっているということもあったのか(一方、矢野さんは「息子の嫁のご両親が来ている」と、負けずに親族自慢)。
ただ、残念だったのは「リンゴ祭り」で手拍子が起きたことだ。賛否両論あるかもしれないが、私には、あの二人が全力で作り上げている音の中に、自分が発する雑音を入れるなんて、考えられない。というか、あのリズムに合わせて手拍子するなんて、プロのミュージシャンじゃないと無理なのでは?実際、演奏が進むにつれ、どんどんずれていく手拍子。それでも、結構、しぶとく続けてくる。うーん、私には理解出来ない。その後、一旦収まった手拍子は、ラスト近くの上原さんのピアノ連打で再燃。ただ、こちらは、起きるべくして起きた手拍子だと思うので、私も嫌な感じはしない。また、静岡では、矢野さんから「ゴジラ」が飛び出した二人の掛け合い(名古屋では「モスラ」も召喚されたそうだ)、本日は、ピアノで「上を向いて歩こう」や「ディズニーのエレクトリカルパレード」のフレーズを挟み込むというパターンになっていた。観客の受けも良かった「リンゴジラ」を封印し、ピアノの即興を入れ込んできたのは、上原さんのピアノを一層引き立てるためだったようにも思う。
アンコールの圧倒的な「ラーメンたべたい」が終わり、客電が点き、アナウンスと音楽が流れる中も止まらないスタンディング・オベーションに、ダブル・アンコールが実現。矢野さんは、口が回らないほど疲れていたようだが、いつも以上に心を込めているように聞こえる「Green Tea Farm」。演奏中の上原さんが、結構、感極まっているように見えたのだが、終了後、なんと、涙ぐんだのは矢野さんの方。コンサートの最後に涙を見せる矢野さんというのは、とても珍しい。それほど、思いのこもったツアーだったのだろう。
これで、このツアー、3本を観ることができた。
NHKホールでは、二人が力を合わせて大観衆に立ち向かうかのような演奏。
静岡では、二人ががっぷり四つに組んだ、とても濃密な演奏。
というのに対して、大阪では、出だしからガンガン突っ込んでくる上原さんを矢野さんがしっかり受け止める演奏、という印象だ。
テクニックでは圧倒する上原さんが繰り出す音をどっしりと受け止めながら、最終的には「矢野顕子のさとがえる」に持って行ってしまう矢野さんのスケールの大きさ。それを一番感じさせてくれた大阪の演奏が、やはり、こののツアーの完成形だったように思う。
そして、矢野さんとの共演を本当に楽しんだであろう上原さん。「Green Tea Farm」の最後に、いつも、地元の唄「茶摘み」のフレーズを入れてくるのだが、大阪では、より普遍的な「ふるさと」を入れてきた。ここにも、何か意味を感じてしまう。
全てが終わり、ステージ上で涙ぐむ矢野さんと、その分、いつも以上におどけてみせる(でも、グッと来ていたようにも見えたが)上原さん。本当に良いものを見せてもらい、こちらも大いに幸せな気分になった。早く、次の二人の共演が観たいのである。
左高さん、ありがとうございました。