2023年3月15日発売
VIZL-2149
野口さんから受け取った14篇の詞の全てをつなげて、(James Joyceの”Ulysses”のような!)サーガを書こうと考えたという矢野さん。サーガの冒頭では、スペースX社の宇宙船「クルードラゴン」で宇宙空間に到達するまでの12分間をダイナミックに歌い上げます。カウントダウンから始まるところは、David Bowieの「Space Oddity」を思わせますが、こちらは、どこまでもリアルな言葉。そして、曲調はプログレッシヴ・ロック!
地球上の我々よりも南極を身近に感じる宇宙飛行士。地図上の固定観念から、下にあると思いがちな南極を、「地球のてっぺん」と表現できるのは、上下の無い宇宙空間から見る宇宙飛行士ならでは。
はやぶさ2が地球に帰ってきて、小惑星リュウグウで採取したサンプルが入ったカプセルをオーストラリアの砂漠に投下したのが2020年12月6日。ちょうど、野口さんの宇宙滞在の時で、飛行する姿を目視できたのですね。長いミッションを成功させた後、再び小惑星探査に旅立ったはやぶさ2に、親しみと敬意を込めて呼びかけているようです。
4曲目「育てよう」でも歌われた、宇宙ステーション内で育つ植物。野菜として栽培していたはずが、食用には出来ないほど愛着が湧いてしまったようです。微笑ましい、ステーション内の一コマ。
宇宙は死の世界だという冷徹な覚悟を持ちながら、いざ船外に踏み出し、一対一で地球と向き合うと、雑念は消え去る。これは、まさに、船外活動の経験者にしか紡ぎ出せない言葉でしょう。このアルバムを代表する作品だと感じます。
サーガの締めくくりは、英語の慣用句”Every cloud has a silver lining”(どんな雲にも銀の裏地が付いている=逆境の中にも希望はあるという意味)を効果的に使った作品。地上から見れば曇天でも、宇宙からだと輝く銀の裏地を見下ろす事が出来る。希望溢れる、素晴らしい視点です。