2016年中に、もう一回、更新。
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ドローンを用いた現代の軍事行動を描く映画を観てきた。
対テロリストの英米共同作戦。現場は、ケニアのテロリストの拠点。しかし、ドローンからの映像を見ながら作戦を指示するのはロンドンの司令部。ドローンの遠隔操縦は米国ネバダ州。画像解析はハワイ。さらに、政治的決断を下すのはロンドンの会議室に集まった政治家達。ネットワークで情報を共有しながら、絶対に安全な場所から遂行される現代の軍事行動を、視点を巧みに切り替えながらテンポ良く見せる。
ドローンが捉えたのは、まさに、これから自爆テロに向かおうとするテロリストの姿。彼らが隠れ家にいる間に、ドローンからミサイルを撃ち込めば、80人以上の死者が出ると予想されるテロを未然に防ぐことが出来る。しかし、ドローンのカメラは、その隠れ家の前の出店でパンを売る可憐な少女も同時に捉える。一人の少女を犠牲にして、大規模テロを未然に防ぐのか?ロンドンで作戦の指揮を執る大佐は、なんとしても宿敵のテロリストの殺害とテロの防止に突き進もうとする。一方、ネバダの米軍基地でドローンの遠隔操縦を行うのは、まだ学生ローンの返済も終わっていないような若い実戦経験の無い兵士。ロンドンの会議室では、軍のトップと政治家達が、紅茶を片手に議論を交わす。皮肉だが緊迫感のある映像が続く。その合間に挿入される、イスラム原理主義者に支配された地域で健気に生きるパン売りの少女の日常が、観客の感情を揺さぶる。犠牲にするには、あまりにも愛らしい少女なのだ。しかし、それで眼を曇らせて、大規模テロを許して良いのかというジレンマ。
強硬派の大佐を演じるのは、Helen Mirren。すっぴんに近い顔で、鋼の意志を持つ軍人を見事に演じている。政治家との交渉に当たる将軍役は、これが遺作となった Alan Rickman(この作品は、彼に捧げられている。なお、この作品の後、声優としては2016年の"Alice Through the Looking Glass"に出演している)。最後に、彼が軍人としての矜持を示すシーンが印象的だ。
俳優陣の好演と、緊張感のある編集で、実に見応えのある映画だったし、色々と考えさせられるところも多い作品だ。ただ、鑑賞後、一番に感じたのは、「シン・ゴジラ」との共通点だ。決断も責任も棚上げしようとする政治家の姿もそうだし、少女を犠牲にしてでもミサイルの発射ボタンを押すのか?というサスペンスは、花森防衛大臣が、避難が遅れた住民がいることを承知の上で、第三形態のゴジラに対して射撃を許可するか総理に迫るシーンと被る。Helen Mirrenと余貴美子、英日の女傑対決の図が頭に浮かんでしまう。
カプコンのTVゲームシリーズ「バイオハザード」を実写映画化した作品の第6弾にして完結編を見てきた。海外では、商標の関係で"BIOHAZARD"のタイトルが使えず、"Residnet Evil"と改題されている。
監督は、Paul W.S. Anderson。日本では「ダメな方のポール・アンダーソン」と呼ばれる彼である。因みに、ダメじゃ無い方は、Paul Thomas Anderson。"Magnolia"など、癖のあるアート系作品で有名な"Thomas"に対し、"W.S."の方は、この"Resident Evil"シリーズや"Alien Vs. Predator"など、ボンクラ映画(褒め言葉)ばかり撮っている「ダメな方(当然、褒め言葉)」だが、内容はともかく、ヒット作を連発し、"Resident Evil"シリーズの主演女優 Milla Jovovichを妻とする、やり手なのだ。
シリーズ6作目にして完結となるこの作品、内容自体は、かなり荒っぽい。派手なアクションの連続ではあるが、新鮮味があるとは言えず、完結編でついに明らかになるという触れ込みの、主人公 Aliceの正体や、敵役 Umbrella Corporationの目的も、全く想定の範囲内。ラストはご都合主義かつ、色々と辻褄が合わない。さらに、日本人として恥ずかしいのが、日本のタレント、ローラの起用だ。最近のハリウッド大作では、資金源として、さらに市場として、中国を重要視し、必然性を度外視して中国の女優を配役にねじ込むことが目立ち、批判されることも多いのだが、それと同じだ。日本製テレビ・ゲームが元になっていることからのサービスかもしれないが、彼女が登場する必然性もなければ、見せ場も少なく、しらけるだけだ。
と、いくらでも悪口が出てくる作品なのだが、これまで拡げてきた風呂敷を、曲がりなりにも畳んで見せたことは、立派だと思う。シリーズが続くにつれ荒唐無稽さを増すB級映画を、投げ出すことも、破綻させることも無く、夫婦で完結させた Paul & Milla夫妻。「ダメな方」としての筋を通しきったことに好感が持てるのだ。
クラウドファンディングで資金調達し、当初、全国63スクリーンの小規模公開ながら、話題が話題を呼び、この規模の映画としては異例の大ヒットとなったアニメ映画を観てきた。劇場でアニメを観ることは滅多に無いのだが、絶賛する評論家が後を絶たないこの作品は、観ておくべきだと判断。
その判断は、間違っていなかった。戦前・戦中の広島県呉市を舞台に、激動の世界の片隅で、しっかりと生きていく主人公 すずを丁寧に描くこの作品。水彩画のように繊細なタッチの画面で、表面的には、とても温かい雰囲気だが、描かれるのは、戦争中の物不足の厳しい生活であり、空襲による被害であり、原爆投下である。声高にメッセージを語ることは無いが、中身は骨太の作品だ。
おっとりした主人公の声を担当する のん=能年玲奈が、まさにハマり役。彼女の声質と巧みな広島弁での演技が、映画の熱量を一段高めていると思う。
極めて綿密な取材に基づいた作品ということで、一見、ゆるふわの画面の奥に、実は相当の情報量が詰め込まれていると思う。一見じゃ、良さを理解し切れていないかもしれない。
2017年なんて、昭和の人間には、SFの世界のように感じてしまいますが、これがリアル。昭和の子供が思い描いた未来図(都市に張り巡らされたチューブの中を滑空するエア・カーとか…)は実現せず。ドローンによる戦争だの不動産王の米国大統領だの、現実は想像の斜め上を行っている訳ですが、その片隅で、しっかりやらないとね。
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