IN/OUT (2016.10.16)

ヒューマントラスト渋谷10月は、インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン = IFFJ の月。5年目となる今年は、2015年~2016年にインドで公開された映画から、13本を紹介するというもの。東京は、ヒューマントラスト渋谷を舞台に(大阪でも、シネ・リーブル梅田で)開催中です。


in最近のIN

「Fan (ファン)」16.10.9

さて、IFFJの13本、全部観たいところだが、とりあえずパンフレットを眺め、1. 休日に観られる事、2. 紹介文に「ダンス」または「アクション」のキーワードが有る事、を条件に、最低限観るべき作品をピックアップした。

まず、一本目は「Fan」。ボリウッドを代表するスター、SRKこと、Shah Rukh Khan主演のスリラーだ。SRKが演じるのは、彼自身を彷彿とさせるスーパースター。そして、彼の狂信的ファンも、特殊メイクで若返ったSRKが演じるという一人二役。ストーカーと化したファンに、スターがつきまとわれるのは、ありがちなスリラーの設定だが、この作品は、中々一筋縄では行かない。ストーカーが常軌を逸しているのは当然として、スターの側の対応にも問題有りという描写も多く、必ずしも、単純に善悪に割り切れないのだ(監督は、ファンの方に肩入れしている気もする…)。そして、それを同じ俳優が演じるのが妙味。

スターに無視されたと逆恨みしたファンが起こす行動はエスカレートしていき、普通なら、これでサスペンスがどんどん高まるところ、なぜか、スピード感が乏しいのもインド映画らしい。スリラー映画でも、堂々と、真ん中辺りで"Intermission"が入ってしまうのだからしょうが無いか(もちろん、日本での上映は、休憩無しで行われるが)。ただし、歌とダンスのボリウッド成分は希薄。演技派ぶったSRKを観て楽しむべき作品で、まさに、SRKのファン向けの映画と言えるだろう。


「Prem Ratan Dhan Payo(プレーム兄貴、お城へ行く)」16.10.9

IFFJ、二本目は、SRKに続いて、ボリウッド三大カーンの一人Salman Khanの主演作だ(もう一人のカーン、Aamir Khanの作品は、今回のIFFJでは上映無し。ただし、今月末には彼の主演作の日本公開が控えている!)。

貧しい劇団員の主人公が、憧れの王女を一目見ようと訪れた王国で、王家を巡る陰謀に巻き込まれるのだが、なんと主人公は、陰謀の渦中にある皇太子と瓜二つ(当然、Salman Khanの一人二役)! 側近達の頼みで替え玉になるというご都合主義展開(婚約者である王女ですら、替え玉に気づかないのだ)。王家の陰謀だけでなく、王女とのラブ・コメ要素や家族愛も特大大盛り。さらに華麗な歌とダンスでコッテリ味付けされた、まさにマサラ・ムービー! これぞ、私の大好物!! 古き良きボリウッド映画の醍醐味が満載!!!

ストリーや設定の整合性に頭を使うのは、無粋というもの。もう、徹頭徹尾、楽しいのだ。インド映画にしては、コメディ要素が、あまりスベることなく、ちゃんと笑えるのも素晴らしいと思う。ラストの強引なまでのハッピーエンドは、果たして、これで良いのか?という気はするが、それもまた、インド映画。

マッチョな身体に思いっきりクドくて甘いマスクのSalman Khanと、インドのファッション・リーダーSonam Kapoor嬢は、(インド映画なので、厳しい規制の範囲内だが)かなり艶っぽい雰囲気で、さすが、ボリウッドのビッグ・スター同士だ。

個人的には、ここまでマサラ要素をてんこ盛りにしたのなら、Rajni兄貴主演作のようなアクション方面での突き抜け方も欲しかったところだが、それは欲張りというものか? そもそも、2015年にもなって、ここまで大らかな(インドですら時代遅れになっているであろう)マサラ・ムービーが作れたのは、この映画が、外資=Fox系列の製作であるからこそ、なのかもしれない。


「Gabbar Is Back(ガッバル再び)」16.10.10

IFFJ、三本目は、Akshay Kumar主演のアクション作。

主人公は、収賄と汚職にまみれた地方政府の役人を調べ上げ、誘拐し、見せしめに殺害する。最近の言葉で言えば「vigilante movie = 自警団映画」だ。まあ、昔の「必殺シリーズ」や「ザ・ハングマン」に通じる世界。それを、男臭い Akshay Kumarが、格好つけ過ぎのアクションで見せるところが肝。

人間離れした格闘シーンなどは、ボリウッドの真骨頂。一方、ハードボイルドでダークな世界かと思いきや、主人公とヒロインが恋に落ちた途端、歌と踊りが始まるのも、ボリウッド。やっぱり、こうでなくちゃね!

ただし、この歌とダンスが、英米ポップス風、MTV風に小洒落ているのは、ヒンディー語映画だからだろうか。パンフレットによれば、この映画は、元々、大ヒットしたタミル映画のリメイクらしい。もしかしたら、オリジナルのタミル映画なら、Rajni兄貴主演作のようなぶっ飛び方だったような気がする。機会があれば、オリジナル版を入手したいところだ。

それにしても、この映画で描かれる、マハーラーシュトラ州の役人の堕落ぶりや、ムンバイ警察の無能さと人権無視・拷問有りの捜査手法など、当局からクレームがつかないのかしらん?


「Housefull 3(ハウスフル 3)」16.10.15

IFFJ、四本目は、Akshay Kumar、Abhishek Bachchan、Riteish Deshmukhらが共演するコメディ。

ロンドンに暮らすインド人の大富豪の三人の娘と、彼女らのボーイフレンドが繰り広げるドタバタ劇。「Gabbar Is Back」では、ハードボイルドに決めたAkshay Kumarが、打って変わって、お馬鹿演技を見せる。

とにかく、設定も脚本も、日本やハリウッドのコメディを見慣れた人にはベタ過ぎる。昭和の吉本新喜劇を、さらに煮詰めたようなベタさ。見始めて30分ぐらいは、今時、こんな映画で笑うなんてあり得ないと、拒否反応が出てしまう。大体が、三人のボーイフレンドが、訳あって、それぞれ、目が見えない、歩けない、口がきけないという障害者のふりをし、それで笑いを取るという設定自体、ポリティカリー・コレクトネスのグローバル・スタンダードから外れすぎだろう。

ただ、そこはインド映画の恐ろしさ。映画が始まって、1時間を過ぎる頃には、この、あまりにも馬鹿馬鹿しいコメディ世界に違和感を持たなくなる。それどころか、声を上げて笑い出すのだ。

どうやら、インド人は、蝋人形が大好きらしく、「Fan」でも重要な舞台のひとつになっていたマダム・タッソーの蝋人形館が、この映画のクライマックス・シーンでも使われているのが面白い。さらに、映画スター絡みのギャグも大好物だなぁと思う。このような映画祭に通うと、劇中に散りばめられたネタを、それなりに理解できるようになるのが嬉しい。いずれにせよ、この作品は日本での一般上映は難しそうだな。


「Neerja(ニールジャー)」16.10.15

IFFJ、五本目は、1986年にカラチで起こったパンナム機ハイジャック事件を描いた作品。

主演は、「Prem Ratan Dhan Payo」では王女様に扮していた Sonam Kapoor。この映画では、実在の客室乗務員 Neerjaに扮している。その美貌から、モデルとして活躍しながら、パンナム(若い世代は、Pan American Airwayという航空会社が有ったことを知らないんだろうな…)の客室乗務員になったNeerjaは、このハイジャック事件で世界中に「英雄」として知られることになる。日本では「ニーラ・バノット」という名前の方が通りが良いだろう。

映画は、ハイジャックされ、緊迫する機内の様子だけだなく、Neerja自身の過去、そして現在の家族の様子も、たっぷり描く。緊張感という面では減点だが、インドで彼女は国民的英雄なので、観客の多くは彼女の活躍とその結末を知っている訳で、サスペンス方向に過剰に盛り上げる必要は無かったのだろう。むしろ、彼女の人間ドラマを掘り下げる、この映画の演出が、インド人観客には、より深く胸に刻まれるのだと思う。

ただ、ハイジャックを題材にしたスリリングな映画でも、(さすがにダンス・シーンはないが)、ここぞという所で歌が流れるのが、ボリウッド。

サスペンス映画として観ると物足りないところもあるが、Sonam Kapoor嬢の毅然とした美しさは、紛れもなくグローバル・スタンダードだと実感する一本だ。



ということで、今年のIFFJでは「Prem Ratan Dhan Payo(プレーム兄貴、お城へ行く)」が最大の収穫でした。こういうタイプの映画は、伝統芸能として作り続けていただいきたいと、切望する今日この頃です。