IN/OUT (2016.10.2)

電子ブックリーダー kindleを、旧世代のPaper WhiteからVoyageに買い換えました。解像度が高まって、読みやすさ改善。ただ、生活に占める読書時間が、すっかり減ってしまっている現状は、機種を変えても改善する訳も無し。困ったものです。


in最近のIN

"Pride and Prejudice and Zombies"16.10.1

Jane Austenによる、19世紀を代表する純文学の一つ「高慢と偏見」に、ゾンビを合体させたという怪作映画を観てきた。邦題は「高慢と偏見とゾンビ」。

原作の文章を、ほぼ、そのまま使いながら(Jane Austenは1817年に亡くなっているので、著作権の問題は無い)、ところどころにゾンビ成分を混ぜた、いわゆる「マッシュアップ」作品の映画化。書いたのは、Seth Grahame-Smith。リンカーン大統領がじつはヴァンパイア・ハンターだったという"Abraham Lincoln: Vampire Hunter"と同じ作者である。

このマッシュアップ小説、全世界で200万部を超える売り上げとなり、Natalie Portmanが映画化権を獲得。そのことで、興味を持って、私も読んだのだが、これが滅法面白い。18世紀のイングランドを舞台にした古典的恋愛小説の世界と、ゾンビが見事に共存。さすが、才媛 Natalie Portmanが目を付けただけのことはあると感心した。しかしながら、映画化作品では、彼女はプロデューサーに名を連ねるだけで、出演せず。これは残念。

映画版は、スピーディーな展開で、要領よく話しをまとめていると思う。イングランドの田舎を舞台に、四姉妹の結婚騒動を描く骨子は原作通り。ただ、極力、原作通りの文章を使いながら、ゾンビを共存させるという離れ業を見せた小説版と違い、後半、独自の展開となるところは、賛否両論だろう。個人的には「否」だが、商業面を考えれば、ゾンビとの最終決戦で盛り上がる終盤を用意しながら、108分の上映時間に収めた演出も、理解できる。原作に忠実な映像化も観たいが、まともに映像化したら、軽く三時間は超えそうだし…

主演は、2015年版のCinderellaで主役を演じたLily James。なかなか頑張っていたと思う。ただ、もう少し、アクション・シーンではカンフー成分高めにしてもらいたかったかな(当時、ゾンビに対抗するため、富める者は日本で武道を修行。富は無いが知恵ある者は中国で修行するという設定。あまり裕福な家庭では無い主人公は、少林で格闘技をマスターしているのだ!)。


「いとうせいこうフェス ~デビューアルバム「建設的」30周年祝賀会~」16.10.1

東京体育館いとうせいこうが、アルバム「建設的」を発表してから30周年を記念したイベントを観てきた。舞台は東京体育館。ここに、1万人を集め、二日間、延べ10時間のフェスを開催するというものである。私は、二日目のみ参戦。

いとうせいこうは、大学在学中から芸人として活動、1984年、講談社の「ホットドッグプレス」の編集者となり、サブカル界隈で名を上げる。さらに、日本にHip Hop文化を紹介し、自らMCとして音楽活動を展開。1986年に「いとうせいこう & TINNIE PUNX」名義で発表したのが、アルバム「建設的」(このタイトルは、当時、ネオアカ界隈でブームだった「脱構築」に対抗したものだ)。現在まで続く、日本語ラップ・シーンを先導してきた功績は大きい。さらに、小説家としても高い評価を受け、お笑いユニット「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」のメンバーとしても活動。TVタレントや作詞家の顔も持ち、みうらじゅんとの「スライドショー」でも知られ、最近では園芸家=ベランダ-としても活動という、まさに、マルチな活動を続ける才人だ。

そんな彼だから、節目のイベントに集まったメンバーが濃い。私が観た二日目だけでも、やや、みうらじゅん、竹中直人(中津川ジャンボリー君)、Sandii、サイプレス上野とロベルト吉野、KICK THE CAN CREW、ゴンチチ、かせきさいだぁ&ハグトーンズ、LASTORDERZ、大竹まこと、細野晴臣、東葛スポーツ、テニスコート、ナカゴー、上田晋也、蛭子能収、勝俣州和、久本雅美、MEGUMI、きたろう、スチャダラパー、須永辰緒、田中知之、藤原ヒロシ、高木完、高橋幸宏、鈴木茂、岡田徹、沖山優司、ユースケ・サンタマリア、KERA、犬山イヌコ、岡村靖幸、東京パフォーマンスドール、水道橋博士、ヤン富田。これだけのメンバーが入れ替わり登場し、16:30から22:30まで、たっぷり6時間。

もう、どこを取っても、お腹一杯のイベントだったが、見所で言えば、細野さんの首吊りコントからの「ろっか・ばい・まい・べいびい」(普通に演奏するだけでカッコいい細野さんが、敢えて、シュールなコントを披露!)。ドラムス:高橋幸宏、ギター:鈴木茂、キーボード:岡田徹、ベース:沖山優司の超豪華メンバーにいとうせいこうを交えての「花いちもんめ」(from はっぴいえんど「風街ろまん」)、安齋肇が復活したLASTORDERZ(森若香織を久しぶりに観られたのが嬉しい!)などが、印象深い。普段聴く機会の無い、日本語ラッパーの皆さんのパフォーマンスは、まあ、なるほどなという感じではあったが、それでも、スチャダラパーは、やっぱり凄いな、と思う。大竹まことの「俺の背中に火をつけろ」、きたろうのコント「ピアノの粉末」も、良かったなぁ。Sandiiの久々の美声も良かったし… と、あまりにもてんこ盛り過ぎて、消化しきれないほどだ。

そして、最も驚くべきは、これだけ盛り沢山のステージのかなりの部分に参加したいとうせいこう自身だ。時には、ヴォーカリストとして、あるいは、ラッパーとして、さらに、コントに参加し、東京パフォーマンス・ドールと一緒に踊っちゃい、まさに八面六臂の大活躍。本当に多才な人だし、良い人脈を持っているなぁと思う。

会場も、いとうせいこうと同年代の人だけでなく、若い人も多い。多方面に沢山のフォロワーを生み出しつつ、現在進行形で活動を続けているんだなと実感。「業界くん物語」の頃は、単なるお調子者かと思っていて、失礼しました。



私は、先に「高慢と偏見とゾンビ」を読んでから、原典「高慢と偏見」を読んだのですが、その面白さに刮目しました。18世紀の恋愛小説なんて読みづらいだけだろうと敬遠していたのですが、全く予想と違う。これ、ゾンビ成分抜きで(と言うか、ゾンビ無しの原典の方が)、十二分に面白い。波瀾万丈で、ロマンチックで、シニカルな笑いもたっぷり。やはり、名作の誉れと共に時代を超えて生き残ってきた作品は、鑑賞する価値大だと実感したのですが、まだまだ読めていない世界文学の名作は多数。この先、どれだけ消化できるかしらん。