一年の最後に、矢野顕子、清水ミチコ、上原ひろみのライヴを鑑賞という、実に充実した締めくくりになりました。終わりよければ…、かな。
最近のIN
清水ミチコのライヴを観に、仙台の電力ホールまで出かけてきた。今回の「一人フェス」は全国ツアーで、12月30日にファイナルの武道館公演があるのだが、都合が合わず、やむなく、仙台のチケットをゲットしたのである。2015年は、最初に観たライヴが1月2日の「清水ミチコ 一人武道館 ~趣味の演芸~」だった。年内にもう一度、彼女の至高の芸を観ることができて、良い年の瀬だ。
開演直前、盗作騒動で話題のあの歌を場内に流すという、いかにもの演出で始まった公演。TVショッピング・ネタなど作り込んだヴィデオ作品、まさかのご本人登場の歌物、もちろん「作曲法」などの鉄板ネタもあり、彼女のセンスの良さに感心しつつ、抱腹絶倒。特に、「Mr. Children作曲法(歌詞を盗作されるは、作曲法をいじられるはで、大変だ)」や、松任谷由実・中島みゆき・SEKAI NO OWARIによる「ウサギとカメ」の競作ネタなど、彼女の音楽技量の高さに裏付けられた笑いには、毎度の事ながら驚かされる。
実弟イチロウ氏の活躍や、NYからテレポーテーションしてきた矢野さんなど、1月のライヴ(これは、ツアーでは無く単発の企画だった)と被る企画もあったが、何度観ても楽しい。清水ミチコの場合、矢野さん絡みのネタになると、笑い抜きの真剣モードになるところが、矢野ファンには実に嬉しい(一般のお客さんはどう思っているのだろう?)。
楽屋に用意される食事が美味しいので仙台公演が大好きだという清水ミチコ。最終の武道館公演を一週間後に控えたツアー終盤。ご本人もノリノリになっているのが伝わってくる楽しい舞台だ。また、地方公演ならではのご当地ネタが聞けるのは、遠征してきた甲斐があるというもの。なお、冒頭の会場からリクエストを募るところでは、「キース・ジャレット」・「フジ子・ヘミング」・「ホーミー」という渋いネタが集まった。仙台市民、侮り難し!
上原ひろみが、自身の曲をオーケストラ用にアレンジして共演するという公演を観に、すみだトリフォニーホールへ行ってきた。オーケストラは、下野竜也指揮の新日本フィルハーモニー交響楽団。6年前にも、一度、行われた企画らしい。
舞台中央、前面にグランド・ピアノ。そこに、鮮やかな緑の衣装のひろみ嬢。後ろにはずらりとオーケストラ。例によっての高速ピアノ・プレイにオーケストラが絡むと、ちょっとプログレッシブ・ロックっぽい音になったり(上原ひろみにプログレ臭というのが、私の持論だ)、ビッグ・バンドっぽい音になったり、もちろん分厚いクラシック調の音になったり。ソロやトリオとは違う、とてもカラフルな演奏だ。そして、日頃、クラシック・コンサートに足を運ばない私は、一流のオーケストラの人達の演奏技量の高さに驚く。
ただし、オーケストラ相手だと、アドリブの応酬という訳にはいかず、爆発的な閃きには欠けるかなという気もしていた。そういう、ちょっとした不足感は、休憩明けのひろみ嬢ソロ二曲 "Desert on the Moon"と"Choux à La Crème"で払拭。様々なテクニックてんこ盛りの大サービス&大盛り上がり。再びオーケストラを招き入れての本編ラストは、彼女がオーケストラとの共演を夢見て20年前に書いたという"Step Forward"。会場には、浜松から駆けつけた、祖母(最初にピアノを買ってくれたらしい)とピアノの先生もいらしていたそうだが、そうした人達の前で、見事に夢を叶えた姿を見せているひろみ嬢。良いなぁ。
アンコールでは、真っ赤な衣装(緑の衣装と合わせ、クリスマス・カラーという訳だ)に着替えたひろみ嬢。そして、指揮者とコンサート・マスターはサンタ帽を被って、見事にアレンジされたクリスマス・ソング。この日、この時間、日本中で色々なクリスマス・ソングが流れていたと思うが、その中でも、最もカッコ良かった一つだと思う。
鳴り止まぬ拍手に押されて、二度目のアンコールは、オーケストラの迫力を前面に出した曲。演奏後も、さらに続くカーテンコールに何度も応えるひろみ嬢。ああ、楽しいコンサートだった。
客電が点き、オーケストラも全員が退場。そろそろ私もと席を立ったのだが、まだまだ続いている拍手に応え、誰もいなくなった舞台へひろみ嬢がリターン! また、お辞儀だけかと思いきや、ピアノの前へ!! そのまま手拍子に乗せられるようにピアノを弾き始める。最初は、軽く、という感じだったが、サプライズに盛り上がった観客の手拍子の呼応するかのようにヒートアップする演奏。結局、たっぷり弾いていただきました。会場の手拍子とこれだけ一体化したひろみ嬢のプレイって、中々体験できるものじゃ無い。素晴らしいクリスマス・プレゼントだ。
ハンガリーの、奇妙なコメディ映画を観てきた。邦題は「リザとキツネと恋する死者たち」
舞台はブダペスト。主人公のリザは、日本大使の未亡人の家に看護人として住み込みで働く、ちょっと不思議ちゃん系の女性。彼女には、日本人歌手の幽霊「トミー谷」が見えるのだ。この、トミー谷が歌う、日本語の歌謡曲調の音楽が全編に流れるという、訳の分からない演出。演じているDavid Sakuraiは、名前と容姿からすると日系人のようだが、日本語は出来ない。そんな彼の怪しい発音で歌われる歌謡曲と、妙にキレのあるダンスが、なんともキッチュな雰囲気を醸し出している。以前観た"The Double"は、ブルーコメッツなど、本物の日本歌謡曲を使っていたが、この映画は、ハンガリーのスタッフが作ったオリジナルの歌謡曲風ナンバー。ああいったメロディーって、西洋人に訴えかけるものがあるのかしらん?
物語は、那須の九尾の狐伝説を背景に、リザに好意を抱いた人が次々と死ぬというオカルトめいた展開なのだが、何せ、BGMが怪しい歌謡曲。そして、妙な日本趣味が汪溢する画面。そこに、ハリウッド・テイストとも違うオフビートな笑いが挿入されていて、なんとも奇妙な映画に仕上がっている。この独特の世界観は癖になりそうだ。ハンガリー人の笑いのセンス、恐るべし。
ということで、来年の抱負は「今年の反省を(なるべく)忘れない」ってとこかな、と思う今日この頃です。
|