2015年、冬のリサイタルは三本、開催されました。内、下呂と鎌倉に行くことができました。
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会場は、下呂の温泉街から坂を登った先にある、きれいな公共施設。ホール以外にも体育館やスタジオなどの設備が充実。この日は、体育館で行われている岐阜県ジュニアバスケットボールクラブの大会のため若い人達が沢山訪れていて、活気がある。ただ、他県から公共交通機関で向かおうとすると、名古屋から高山行きの特急ひだに乗って、下呂駅からは路線バスという、かなり不便な場所でもある。
泉ホールのキャパは805席。後ろの方まで席は埋まっているように感じたが、困ったことに、私の目の前、最前三列の右半分ぐらいが、ごっそり空席。恐らく、関係者に配られたチケットではないかと想像するが、ちょっと、いたたまれない感じだ…
演奏が始まる。とても良い音のホール & PAだ。ピアノの響きも、ヴォーカルの通り具合も素晴らしい。私は、この前々日、青山で開催されたファンクラブのイベントにも参加していたのだが、そこで繰り広げられた、矢野さんとファンクラブ会員の距離感に起因する親密さとは正反対の演奏だ。一曲毎に解説を付け(ファンクラブ会員向けのディープな裏話とは、もちろん違う)、クリアで張った歌い方と崩しすぎないピアノ。以心伝心に頼るのでは無く、馴染みの無い人に対しても、ちゃんと伝えようという意思がこもった演奏という感じだ。
選曲も、比較的、初心者にも取っつきやすい感じの物だと思う。その中で印象的だったのは、新アルバム収録曲ながら、ライヴではこれが初演となる「わたしと宇宙とあなた」。何故、今まで演ってなかったのか?と思わせる好演だ。
岐阜県と言うことで、MCでは清水ミチコさんのことにも言及。彼女の存在が励みになっており、いつまでも真似をされる存在であり続けたいとのこと。
極端なアレンジに走らない分、本編ラストの「GREENFIELDS」や、アンコール・ラストの「ひとつだけ」が、素直に胸に染みる。東京での公演とは、ちょっと違う手触りの演奏が楽しめるのも、遠征の醍醐味だなと実感(それ以前に、こういうことが無ければ訪れることも無かったであろう町へ行くという行為そのものを楽しんでいる訳だが)。
終演は、16時40分頃。実は、会場から駅に向かう路線バスは16:49が最終。さらに、下呂から名古屋へ向かう列車は、17:27発を逃すと、次は二時間後ということなので、演奏が長引いてしまうと、嬉しいよりも困る方が先立つなぁ、と憂慮していたのだが、ドンピシャリの終演時刻。ありがとうございました。
年末の風物詩、矢野顕子リサイタル@鎌倉芸術館である。この会場とピアノからは、「さあ、やんなさいよ」と言われているようなバイブを感じるという矢野さん。例年、他会場とは一味違う選曲と演奏が楽しめるホールなのである。
今年の演奏を聴いた第一印象は「ピアノの音数が少ない」だった。手数を増やさず、一音一音を大事にしているような感じだ。途中、喉の調子もあまり良く無さそうな感じだったので、もしかしたら、コンディションが悪いのをリカバリーするための奏法だったのかもしれない。
それでも、リラックスした雰囲気での演奏は、鎌倉公演ならではの楽しさだ。そんな中、この夏のブルーノート公演で披露したJonatha Brookeの"Time"が、久々の演奏で、さらに熟成された感じになっていたのが印象深い。また、ザ・ピーナッツつながりで、「モスラ」と「ウナ・セラ・ディ東京」を続けて演奏するのもナイス・アイディア(分かる人は、限られていたかもしれないが)。その後、モスラが怪獣の中で一番好きという話題での脱線ぶりも愉快。
「自分がカバーするのは、男性の作品が多い。女性の書いた詞って、どこまで剥いても「私」なのよね。その点、男性の詞は、自分を入れてくれる余地がある」というような意味の発言の後、糸井重里作詞の「クリームシチュー」
今日の演奏の白眉は、私には「すばらしい日々」だった。前述したとおり、この日は、音数を抑えた感じのピアノ演奏だと感じていたのだが、それが、この曲と相性バッチリ。アルバムよりも、シングル盤に近い手触りで、しみじみ沁みる。
同様に、アンコール最後の「PRAYER」も、今日の演奏に見事にはまったナンバーだった。とても優しい印象の、今年の鎌倉だった。