春の岐阜、夏の東京(朝日新聞)、冬の鎌倉・東京(日経新聞)に行くことができました。
誤りのご指摘や追加情報等あれば、送っていただけると助かります。
*8月27日、28日の八ヶ岳高原音楽堂公演は、(「リサイタル」名義では無いため)別ページに記載しています。
公演日 | 会場 |
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5月28日(土) | ぎふ清流文化プラザ 長良川ホール |
8月10日(水) | 浜離宮朝日ホール |
8月31日(水) | 道新ホール |
12月22日(木) | 鎌倉芸術館小ホール |
12月26日(月) | 日経ホール |
2022年、初のソロ・ライヴは、昨年予定されていた公演がコロナ禍でキャンセルされた「ぎふ清流文化プラザ 長良川ホール」。キャパ 484席。何故か、同じフロアには「岐阜運転者講習センター・運転免許課」が同居。道路を挟んだ向かい側には、野球場・陸上競技場・プール・ドームなどが並ぶ総合スポーツ施設、岐阜メモリアルセンターがある。
客入れの音楽は、今回もMac Demarco。ステージ上のピアノはSteinway。
17時ちょうどに開演。いつも以上に抒情的なピアノの前奏から「自転車でおいで」。「ニューヨーク・コンフィデンシャル」も、しっとりしたピアノだ。今回は、パワーよりも繊細さ重視のピアノ演奏だと感じる。また、咳払いすることも多く、喉の調子も万全ではなかったのかもしれない。
その分、丁寧さを感じる演奏と歌唱が続く。個人的には「Returned」じゃ無い方の、元祖「SUPER FOLK SONG」が嬉しい。が、最近は、この曲を聴く度に、歌詞に出てくる「ラッタッター」や「村(ソン)」は、その意味が分かる人も少なくなったのだろうなと思ってしまう。
「David」演奏後には、この曲の録音されたパッケージは、アレンジやエンジニアリングも含め、最高傑作だとの発言。そして、それに大きく貢献しているのが、高橋幸宏のタイトなドラムスだと。それを本人に伝えたら喜んでいたとのこと。良い話しだなぁ。あの頃のアッコちゃんサウンドの重要なピースがユキヒロのドラムスなのは、皆が認めることだと思うが、ご本人の口から聞くと、何故かこちらまで嬉しくなってしまう。
ツイッターで本日の演奏を予告していた「中央線」。そして「春咲小紅」。そこから、自ら「名曲が続きます」と言って始めたのが「津軽海峡・冬景色」。終盤のピアノ、本日もカッコ良し。
その着想から製作過程までの振り返りを語った「音楽はおくりもの」。コロナ禍があったからこそ生み出された名作。ソロ公演には欠かせない曲になったと思う。そして、本編ラストは「ひとつだけ」。終盤に、私の大好物「ラララライライライ」が入るパターンの演奏が嬉しい。
アンコールは「GREENFIELDS」。この曲に関しては、まさに光り輝く照明効果が適用され、雰囲気も、演奏・歌唱も、最高。これだけでも来た甲斐があると実感する素晴らしいステージだ。ソロ公演では珍しいスタンディング・オヴェイションも当然だろう。
5月の来日公演では、「やのとあがつま」の革新と伝統がハイブリッドした凄いライヴが続いたが、その後のしっとりとしたソロ公演は、とてもクオリティの高いデザートをいただいたような満足感。尖ったライヴとソロ公演を同時期に観られるのは、やはり最高だ。
会場は、ちょうど1年前にもライヴを行った、朝日新聞東京本社の新館2階にある客席数552席のホール。客入れの音楽はmoonriders。左足薬指の骨折も完治した矢野さん、この会場のSteinwayと音響の良さに味を占めての再演である。確かに、とても良い響きの会場で、特に、拍手の音が綺麗に鳴るのが印象的だ。
柔らかいイメージのアレンジでの「わたしのバス(Version 2)」で演奏開始。「海と少年」、「夏が終る」、「Nothing In Tow」と、夏のイメージの曲が続く。どれも、涼やかな印象のプレイだ。
「中央線」を演奏した際、頭に浮かんだのは(宮沢和史ではなく)毎朝、朝ドラ「ちむどんどん」でその姿を観ている宮沢氷魚君だということで、朝ドラ話が止まらなくなる矢野さん。以前は、TVドラマの話題をMCで話すことなど無かったのに、すっかりNHKの手の内にハマってしまったようだ(もっとも、ドラマとしての「ちむどんどん」は、それほど評価はしていないような口ぶり…)。
久しぶりに演奏した「風をあつめて」、そして、さらに久しぶりの「LOVE LIFE」。9月には、この曲にインスパイアされた深田晃司監督の映画が公開されるだけに、今後、演奏される機会が増えそうだが、やはり良い曲だ。
「魚肉ソーセージと人」と「大家さんと僕」の間には、アルバム「音楽はおくりもの」の製作秘話。デザイナーと戦って、大きな活字での印刷を押し通したとのこと。家に帰って、改めて見てみたが、確かに、最近のCDでは見かけないような大きな活字で歌詞が書かれている。ライナーノーツや歌詞カードの文字は老眼の大敵なのだが、ご自分が読めないような物を売るわけには行かないという矢野さんの姿勢、流石である。
本編ラストは、鉄板の三曲の連べ打ち。今日の「ひとつだけ」のアレンジ、とても私好みだ。
アンコール。まずは足下に設置することが新たな習慣になったニトリのキッチン・マットのご紹介。タイム・キープをする左足にかかる衝撃の緩和に絶大なる効果とのこと。そして、会場に「ごはんができたよ」と「ラーメンたべたい」のどちらが良いか問いかける。会場の反応は「ごはん派」が多いような気もしたが、やはり、皆の希望は「ラーメン・ライス」である。果たして、矢野さんが演奏を始めたのは「ラーメンたべたい」。しかし、最後に盛り上げて締めたと思ったら、そのままシームレスに「ごはんができたよ」になだれ込むという、怒濤の炭水化物セット。これは嬉しい。ブリッジ部分のカッコ良さも際立っていて、これを即興で演るとは、ひたすら恐れ入る。今後、アンコールの定番の一つになるかも。
ということで、酷暑の中の来日公演の初回ステージ、大満足の内に終了。
年末恒例、鎌倉芸術館小ホールでのライヴ。今年で21回目となる、歳末の風物詩である。
客入れの音楽は Gabriel Kahane。因みに、終演後の客出しの音楽は Frank Sinatra。これが、この冬の一連の公演での不動のパターンだ。さらに、矢野さんが座る椅子も、さとがえるの時も、上原ひろみさんとの東京国際フォーラムの時も、一見、事務所チェアーのような脚が付いたもので一貫している。この椅子については、ずっと気になっていたのだが、ついに今日のMCで、そのことに触れてくれた。矢野さんがインタビュー記事にも登場した、コクヨ株式会社のingLIFE。座面が動き、体幹を自然に整えるワーキング・チェアーである。これの背もたれを取り外し、ピアノ演奏用に仕立てた物だそうだ。矢野さんによれば、人生が変わるほどの快適さらしいが、まだ、プロトタイプなので、あまり説明しないでくれとコクヨの人に止められているとのこと。
さて、ステージは「電話線」からスタート。ライヴの1曲目として私が最も好きな曲だ。毎年のことだが、冒頭から、このホールの響きの美しさに刮目する。ピアノもヴォーカルも、本当に、自然に豊かに響く。そして、かなりゆったり目のテンポで「David」。ツアーが終わったばかりのせいか、矢野さんの喉の調子は、微妙にかすれ気味かな。
最初のMCでは、ご当地ネタ「鎌倉殿の13人」に触れるが、矢野さん自身は、週末はコンサートが多いので、最終回は未見とのこと。そして、久しぶりの「ごはんとおかず」。続いて「Nothing In Tow」。演奏にも、おしゃべりにも、絶妙なリラックス感が漂うのが、鎌倉芸術館での公演の特長だ。矢野さんも、気持ち良く演奏されているのだろう。さらに、客層も、この雰囲気の良さを高めるのに大いに貢献していると思う。さとがえるの時など、(我ながら狭量ではあるが)気になってしまう、演奏後、早いタイミングで拍手を始める人が皆無。最後の一音が消えてから感情のこもった拍手が起きるのが、心地よい。
次の「愛について」も、とても久しぶりの曲だが、演奏の最中にトラブル発生。どうも歌詞カードが途中で飛んでいたみたいで、詞が繋がらない。「男」の登場が唐突なのだ。詞の細かい所はうろ覚えの矢野さんは、その内容を口頭で説明し始める。そして、一通り説明して、ストーリーが繋がったところで、そのまま曲が途切れたところから自然に演奏に戻るという職人技!さすがの対応力だし、こういうハプニングも、ライヴの醍醐味として楽しい。
今年行われた「高橋幸宏 50周年記念 ライヴ LOVE TOGETHER 愛こそすべて」で、矢野さんが映像出演で披露された「仕事を終えたぼくたちは」。ユキヒロ氏への思いがこもったような熱演だ。ここまでは、さとがえるでは演奏されなかった曲ばかりだったが、ここで「音楽はおくりもの」。完全に、ライヴには欠かせない名曲の仲間入りだ。
ショップ・チャンネルのコーナーの後、来年3月発売の「君に会いたいんだ、とても」から2曲。どちらも素晴らしい演奏と歌詞で、アルバムと発売記念ライヴに大いに期待してしまう。
1980年代、アッコちゃんポップス期の名曲「Home Sweet Home」と「自転車でおいで」に続いては、アバンギャルドな「いい日旅立ち」。そして、本編最後の「ひとつだけ」とアンコールの「ごはんができたよ」の鉄板コンビで全て終了。
今回も、このホールでの公演だけが持つ、リラックスした親密な雰囲気が最高に心地よかった(鎌倉名物だった”マニアック選曲”が無かったのは寂しいのだが…)。矢野さんにとっても、毎年通うお客さんにとっても、まさに Sweet Homeのような場所だと思う。今年は、もう一本、日経ホールでの弾き語り公演が残っているが、とりあえず、良い一年の締めくくりだったなぁと、しみじみしたのである。
東京のビジネス街の中枢「大手町」でエンタテインメントを届けるというコンセプトで、日本経済新聞社が主催する「大手町座シリーズ」。昨年に続き矢野さんのリサイタル開催。会場の日経ホールは、大手町・日経ビルの3〜5階に位置し、キャパは 610席。客席に背面収納型の机と手元ライトが装備されていて、講演会やシンポジウムにも対応。一方で、クラシック系のコンサートにも対応できる音響を備えている(因みに、ピアノは、STEINWAY D-274とヤマハ CFIII-Sの2台を保有)という、変わり種というか、日本経済新聞社らしいホールである。
ピアノはSteinway。そして、椅子はコクヨの「ingLIFEピアノ演奏用プロトタイプ」。1曲目「春咲小紅」の演奏が始まる。他の音楽ホールとは一味違う明瞭な音響だ。講演会などにも使われるホールだからだろうか、ヴォーカルがとてもクリアに聞こえる。2曲目は前川清とのデュエット曲「あなたとわたし」。ちょっと意外な選曲だ。
久しぶりの「塀の上で」が嬉しい。「仕事を終えたぼくたちは」、「ふりむけばカエル」。矢野さんの絶好調の歌唱が、このホールの明瞭な音響と相性良し。そして、難曲「にぎりめしとえりまき」の素晴らしい演奏。これもまた、嬉しいサプライズ選曲だ。
野口聡一さんとのプロジェクト「君に会いたいんだ、とても」から2曲。特に「ドラゴンはのぼる」は、相当の回数、ライヴで披露されてきたため、すっかり熟成されてきたと思う。続く「ばらの花」あたりから、矢野さんには別のスイッチが入ったような気がする。意図的に、かなり崩した歌い方が目立つようになる。
「音楽はおくりもの」→ MISIAが紅白で「希望のうた」を歌う → 石川さゆりは、今年は「天城越え」の予定 → それでは私が、という流れで披露された「津軽海峡・冬景色」。いつも以上にアバンギャルドな演奏だ。その後、特注の椅子 ingLIFEについて、鎌倉の時以上に熱心に説明。これにしてから、本当に疲れないらしい。コクヨの開発者は「世界中から腰痛を無くしたい」という思いで設計したという話に、「おぉ」と深く反応する日経ホールの客層。
「中央線」、そして本編ラストの「ひとつだけ」。どちらも、ちょっと捻ったアレンジ。そして、アンコールの「ラーメンたべたい」も、かなりの味変を加えてきたという印象だ。これで全編終了。
矢野さん曰く「ミュージシャンとは最も縁遠い日本経済新聞」。その本社ビル内ホールで行われる企画ということで、昨年は、必ずしも熱心なファンばかりではないだろうと意識されたのか、初めての人に優しい選曲とMCという印象だった。しかし、2年連続 3回目となる今回は、遠慮が無くなったのかと思われる選曲とアレンジだったと思う。一方、MCの方は、この冬の一連の公演の中で一番長目。というか、話が長くなって収集が付かなくなる感じすらあった。鎌倉の圧倒的なリラックス感・アットホーム感とは別の、今年最後のライヴという安堵感のようなものがあったような気がする。変わり種ホールを舞台に、懐かし曲あり、捻ったアレンジあり、これまでにないMCの脱線ぶりもありの、意外な変化球を矢野さん自身が楽しんで投げ込んできた、という印象のライヴだった。
ということで、2022年のライヴ納め。今年も色々なパターンのパフォーマンスで楽しませていただき、感謝である。