日経ホールに行くことができました。
誤りのご指摘や追加情報等あれば、送っていただけると助かります。
公演日 | 会場 |
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12月22日(水) | 日経ホール |
12月24日(金) | 鎌倉芸術館 小ホール |
東京のビジネス街の中枢「大手町」でエンタテインメントを届けるというコンセプトで、日本経済新聞社が主催する「大手町座シリーズ」。その、第30回の節目の公演として、リサイタルが開催(過去、イッセー尾形、ザ・ニュースペーパー、由紀さおり&安田祥子、石川さゆり、野村萬斎、市川猿之助らが出演)。矢野さんは、この企画には2017年に続いての出演となる(2017年はTin Panが客演)。日経ホールは、大手町・日経ビルの3〜5階に位置し、キャパは 610席。客席に背面収納型の机と手元ライトが装備されていて、講演会やシンポジウムにも対応。一方で、クラシック系のコンサートにも対応できる音響を備えている(因みに、ピアノは、STEINWAY D-274とヤマハ CFIII-Sの2台を保有)という、変わり種というか、日本経済新聞社らしいホールである。受付で配布されるパンフレットに日本経済新聞社 編集委員の方が寄稿しているのも、それっぽい。
ピアノは、Steinway。足下に吸音材としてキッチンマットが敷いてあるのが新機軸である。演奏が始まるや、その明瞭な音響に驚く。講演会などにも使われるホールだからだろうか、ヴォーカルがとてもクリアに聞こえる。それに輪を掛けて、矢野さんの歌唱も、言葉をしっかり届けようとする感じだ。恐らく、企画上、コアなファンじゃない人達も来ることを想定されたのだろう。1曲目に比較的メジャーな曲を持ってきたのも、そのせいかもしれない。
と、思っていたら、そのまま4曲、新アルバムではなく、割に昔のメジャー曲が続く。「SOMEDAY」は変化球かもしれないが、矢野さんのカバー曲における表現力を伝えるにはピッタリの選曲だろう。それにしても、好きな曲の連打が嬉しい。
つい先日まで行われていたさとがえるでは抑え気味だったMCも、今日はたっぷり。教授のコンサートにおける「煎餅事件」(客席の矢野さんが子供たちと一緒におせんべいを食べてたら、ステージにその音がしっかり聞こえていたという話)など、楽しい話、多し。
5曲目で、ようやく新アルバムの作品。さとがえるでは披露されなかった「大家さんと僕」。そして、ピアノ弾き語りバージョンも迫力たっぷりの「わたしのバス(Version 2)」、ピアノ弾き語りだとバンドとはかなり印象が違ってくる「魚肉ソーセージと人」、やはり名曲「音楽はおくりもの」、弾き語りバージョンも捨てがたい「津軽海峡・冬景色」。因みに、誰かに(誰だったかは忘れたそうだ)矢野さんが歌うと、津軽海峡ではなく、アルゼンチンと南極の間の常に波が高い海峡(海峡名は思い出せず。マゼラン海峡ですね)のようだと言われたという話も披露。
海峡話で気分を切り替えてから「春咲小紅」。しかし、この曲を歌い終わったら、「なんだか『終わっちゃった感』が出てしまった」、ということで、また、気分をリセット。そこから、鉄板曲がアンコールまで続く。やはり、今日のコンセプトは、初めての人にも優しい。ということだろうか。どの曲も、とても良いコンディションで演奏されている感じで、大充実である。
ツアー後のリラックス感もありつつ、久しぶりのソロ・ライヴを矢野さん自身が楽しんでいる雰囲気に、こちらも楽しくなるライヴだった。
今年で20回目になる、年末恒例、鎌倉芸術館でのライヴ。昨年は、半分しか観客を入れなかったが、今年はフルキャパ。矢野さんにとって、2021年最後の公演だ。開演前の客入れの音楽はさとがえると同じく Robert Plant & Alison Krauss。この1ヶ月間で、アルバム「Raise the Roof」、すっかり、好きになってしまった。
ピアノは、矢野さんとの相性抜群、鎌倉芸術館が誇るSTEINWAY。足下に、防音のためのキッチンマット。1曲目「PRESTO」で、このホールの響きの素晴らしさを再認識。毎年の事ながら、やっぱり、素晴らしいホール&素晴らしいピアノだとつくづく思う。さらに、矢野さんのプレイも、気負ったところが無く、ホームに帰ってきた!という印象を受ける。先日の日経ホールは、よそ行きというか、コアなファンじゃ無い人へのおもてなしモードだったなと、改めて思う。今日は、一転。飾らない、普段着モードだ。
その違いが如実に表れたのが「David」。分かりやすい歌唱だった日経ホールに対し、今回は、たっぷりと感情を込めた演奏と歌唱。どちらにも良さはあるが、やはり、後者の方が、グッと来る。
一方で、鎌倉名物の一つ、マニアック選曲は抑えめ。中盤からは新アルバム収録作の弾き語りバージョンが中心になる。「わたしのバス(Version 2)」のカッコ良さ、「Nothing In Tow」の哀切、「魚肉ソーセージと人」のしみじみ感。どれも、バンドとは一味違う良さに溢れている。「大家さんと僕」の演奏後には、漫画に出てくる「大家さん」のキャラクターから伊勢丹話に発展したり、「津軽海峡・冬景色」の熱演後には、海峡話(日経ホールでは思い出せなかった海峡名=マゼラン海峡もバッチリ)に発展するなど、MCも気負わない普段着モードだ。
名曲の風格を感じる「音楽はおくりもの」から、本編ラストが「ひとつだけ」、アンコールが「ラーメンたべたい」という鉄板構成で全編終了。ラストとアンコールは昨年の鎌倉と同じ。最近の弾き語り公演の定番の組み合わせだ。せっかくの鎌倉だから、違う組み合わせも聴きたいという気持ちもあるが、こういった状況でのライヴだけに、最後はしっかり定番を届けようという矢野さんの気概を感じるのも、昨年と同様だ。
音響の良いホール、矢野さんと仲良しのピアノ、さらに、素晴らしい客層(良い塩梅の「通」のお客様が多いと思うのだ)。そして、20回の公演の積み重ねが生み出す「ホーム感」。これらの要素が醸し出す鎌倉芸術館ならではの親密感は、本当に特別だと思う。やはり、年末の鎌芸。外せないのだ。そして、2021年も、ありがとうございました。