デビュー40周年記念イベントの第一弾が、東京グローブ座で開催されました。
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* は、石川さゆりと共演
* は、上妻宏光も共演
デビュー40周年を飾るグローブ座連続公演の初日。しかし、グローブ座の前にポスターの類いは無く、正面に掲げられた絵看板は、ジャニーズWESTの濵田崇裕座長公演「市場三郎~温泉宿の恋」。さすが、ジャニーズ事務所系列の劇場ではあるが、ちょっと、寂しい。初めて入る会場だが、キャパ703席。半円形の観客席は、どこからでも舞台を近く感じられそうだ。
開演。まずは、矢野さんのソロ。会場の響きはとても綺麗だ。ただ、矢野さんの喉の調子が良くないのかなと感じていたら、風邪をひいてしまったとのこと。それでも、風邪引きの矢野さんの演奏を観られる滅多に無い機会だとポジティヴに捉えましょうということで、演奏は続く。
5曲目「サッちゃん」に続いて、「さちこ」では無く「さゆり」のさっちゃん登場。この、因んだ曲の演奏後にゲストが登場というのは、かつてのジァンジァンと同じで嬉しくなる。出来れば、当時のようにシークレット・ゲストだったら、もっと盛り上がるのに…
石川さゆりさんは、青のお着物。白い帯に描かれた柄は、金太郎とくまモン。意表を突かれる。情念の演歌を歌う大御所というイメージだったが、意外にも、無邪気なしゃべり方をする気さくな感じの方である。まずは、1966年、スパイダースのヒット曲。スタンディングで歌うさゆりさんと矢野さんのピアノとコーラス。当たり前だが、素晴らしい歌唱力、そして声量。それに呼応する矢野さんのピアノも良い感じ。
続いては、2015年10月~2016年3月に放映されていた「ルパン三世」のエンディング曲。作曲は大野雄二氏で、作詞がつんく♂氏。矢野さん曰く「プロの詞」。これまた、演歌とは一味違う歌謡ポップスで、その表現力の幅広さに感嘆。石川さゆりさんが「演歌」に分類されるのは着物を着ているからで、矢野さんが「Jazz」に分類されるのは、二回、同じように歌うことが出来ないから、というのが矢野さんの分析。
椎名林檎さんと石川さゆりさんのコラボ曲、矢野さんがほぼ日の企画で作った作品をベースに石川さんに向けて膨らませた曲と続き、上妻宏光氏登場。超絶技巧の太棹三味線、石川さゆりさんの声量豊かな歌声、そこに絡む矢野さんのピアノ。物凄い化学反応だ。昨年の上妻さんとの「二重奏」も凄かったが、そこに本格派演歌歌手が加わったことで、さらに複雑な反応が弾けたようで、場内、大喝采である。
本編最後は、石川さゆりさんの本領発揮。凄みすら感じる演歌だが、それをピアノ伴奏で、というのがミソ。今日は、特に後半、風邪のせいか、コーラスも控え目で、もっぱらピアノ伴奏に集中したようなステージだったが、それゆえに、ピアノ弾きとしての矢野さんの魅力を堪能できたという感じ。
アンコールは、三人で「大漁唄い込み」。そして、ゲストのお二人がはけた後、矢野さんは、声がいよいよ出なくなったようで、ピアノのみで演奏することに。会場からは「WATER WAYS FLOW BACKWARD AGAIN」を望む声も多かったが、全然練習していないということで、結局、伝統曲「さくらさくら」を。これはこれで、沁みる演奏だった。
ということで、一体、どのような舞台になるか予想もつかずに観に来た公演だったが、本当に来て良かったと思える素敵なコンサートだった。大満足なのだが、この後、まだ四公演。矢野さんの喉の調子が回復するかが心配である。
* は、清水ミチコと共演
* は、イチロウさんも共演
ジャンボリー二日目は演芸の部。冒頭、いきなり、髪型もステージ衣装も矢野さんになりきった清水ミチコさんが登場。そのまま舞台右手のピアノに陣取り、「丘を越えて」。この人の物真似は本当に、歌唱もピアノ演奏も、LPレコードがすり減るほど聞き込んだというのが伝わってきて、なんだか嬉しくなる。
すっかり、なりきったままで歌い終わった清水ミチコさんが矢野さんを呼び込んで、ここからは矢野さんのソロの部。しかし、喉の調子は、今日もよろしくない。ご本人曰く、りりぃ、もしくは、Adele、はたまた、もんたよしのり調の声。医師の診断では、風邪に加えて花粉症も影響しているそうだ(矢野さんは、これまで、ご自身が花粉症だと自覚されていなかったそうだ)。一本二万円の点滴を打って臨む今日のステージ、音域の狭い曲を中心に選曲したとのこと。確かに、高音は辛そうなのだが、それを上手くカバーしながらの演奏は、さすが、百戦錬磨という感じもする。
「アメフリ」の流れで、「こういう変な童謡に感化された飛騨高山の女子高生がいた」という紹介で、清水ミチコさん(今度は、ご自身のスタイルで)登場し、「相合傘」。
ここで、清水さんが、NHK「ファミリー・ヒストリー」の話題をふる。確かに、私もコンサート会場で「ファミリー・ヒストリー」のスタッフから花が届いているのを見たことがあって、気になっていたのだ。現在、番組制作中らしいのだが、あの番組は、制作途中では、一切、本人には内容を教えないらしい。ということで、いつ放送になるかも分からないのだが、恐らく、お母様の家系についてでは、ということ。お母様は武士の家系、それも白虎隊に縁があるそうで、DNAの業なのか、矢野さんは山口県(長州!)を訪れた際、なんだか不機嫌になったとのこと。生前の、あまりに「武士すぎる」お母様のエピソードで散々盛り上がる二人。かなり長い話になったのだが、清水ミチコさんの的確なツッコミで、ダレること無く笑いが続いたのは、さすが芸人さん。
力強いピアノが印象的だった「モスラの歌」、2012年のさとがえるでも披露した「恋のフーガ」と「老人と子供のポルカ」の合体爆笑ネタ(「追いかけて」と「やめてけれ」の掛け合い!)と続き、物販紹介を、オリジナルのユーミン風ソング付きで、清水さんが担当。
さらに、清水ミチコさんのライヴでお馴染み、実弟のイチロウさんが登場し、細野晴臣氏の物真似で矢野さんとデュエット。素人なのに、すっかり舞台慣れして、堂々たるものだ。さすが、姉弟。ラストも、彼女のライヴでお馴染み、"Lover, Come Back to Me"に乗せて、物真似で感謝の言葉(ちなみに、このネタは、アルバム「幸せの骨頂」に収録されているが、そこには「十年前の矢野顕子」という、爆笑かつハイ・クオリティのネタも収められている)
アンコールは、矢野さん&偽清志郎さんの「ひとつだけ」。そして、最後は、喉の調子を考慮して、ピアノ演奏だけで、唱歌「夏は来ぬ」を奔放なジャズ・アレンジで。このパターンのアンコール・ラストも、なかなか味わい深くて良いかも。
ということで、爆笑の中にも高い音楽性で大いに楽しめたステージだった。お二人の共演は、回を重ねる毎に(清水さん側の遠慮が無くなってきたのか)、演奏も、おしゃべりも、がっちり歯車が噛み合ってきているようだ。
唯一の心配は、矢野さんの喉の調子が、どこまで回復するかだ。明日の奥田民生氏との共演は、飛ばしてもらいたいのだけどなぁ…
* は、奥田民生と共演
ジャンボリー三日目。矢野さんの喉の調子は、本調子では無いものの、昨日よりは、多少、回復されたように聞こえる。「SOMEDAY」と「YES-YES-YES」は、いつも以上に、かなり崩した歌い方だ。
奥田民生氏の作品「野ばら」を歌った後、「彼の歌は、いつも、世界で一番独りぼっちという感じが伝わってきて、そこがすばらしい」との紹介で、奥田民生氏本人登場。まずは、開演前に二人で食べてきた400円ラーメンの話でひとしきり盛り上がった後、民生氏のアルバム「LION」収録曲を二曲。2004年のアルバムだが、矢野さんが大好きなアルバムということで、今日のMCは、もっぱら「LION推し」。
続いては、この日のために作ったという新曲。直前に出来たばかりのようだが、二人の息はピッタリ(「新曲なので、間違っても誰も気づかないから」と、おっしゃってましたが)。そのまま、アルバム「LION」に追加しても良いような、良い曲。
「えんえんととんでいく」では、民生氏と会場で、輪唱大会。それを仕切る矢野さんの楽しそうなこと!
民生氏の作品が続いた後は、矢野さんの代表曲「ひとつだけ」。デュエットの分担は、清志郎さんとのバージョンと同じだが、歌い出しの矢野さんのキーが低め。また、扉の色が「赤い」ところが民生色。「清志郎さんのイメージがあるので、やりづらい」と演奏後におっしゃっていたが、民生バージョンも良い味わいでした。
本編ラストは、お二人の共演で大いに期待していた「大迷惑」。2000年のジァンジァンでの共演、2010年の「ここが音楽堂!」ツアーでの共演についで、私が観るのは三回目だ。矢野さんの喉が本調子とはほど遠く、民生氏も、そろそろ皇潤の服用を真剣に考えるようなお年になったとはいえ、見事に走りきってくれました。
アンコール一曲目は、「(男も辛い)ラーメンたべたい」。たっぷりのギター・ソロも入れて、見事に民生ワールドになっている。お互いの曲を、それぞれ自分の味にして歌いこなすのだから、矢野さんと奥田民生氏、本当に相性が良いのだなぁと思う。ただ、ここまで来ると、矢野さんの声は、あまり出なくなっていた。
ということで、今日も、ラストはピアノ・ソロ。「グリーンスリーヴズ」でしっとりと締めて、全編終了。
石川さゆりさんと演った時は、ヴォーカルと会話するようなピアノ伴奏を披露した矢野さんだったが、今日の演奏は、(二人でも)ロック・バンドのピアノマンという感じ。音楽的な引き出しの多様さを見せつけてくれるシリーズで、残り二日も楽しみだ。明日は、休演日なので、喉の調子が少しでも回復されると良いのだが。
* は、森山良子と共演
矢野さんの喉の調子、復活。今日は、ちゃんと高音部も出ていて一安心。1曲目から3曲目は、このジャンボリーでの定番曲(「SOMEDAY」は、佐野元春さんが35周年ということで選ばれたようだ)、そして4曲目の「春咲小紅」は、たっぷりとピアノを聴かせる新しいアレンジ。
ここで、本来の段取りだと、もう一曲のはずなのだが、「どんな音楽の扉でも二人なら開くことができる」と言って、森山良子さんを呼び込んでしまう矢野さん。ご本人曰く「ぬめぬめ」の衣装で登場した森山さん、矢野さんのことだからこういうこともあろうかと、早めに舞台袖にスタンバイしていたとのこと。さすがである。因みに、矢野さん。この日は物販の紹介も忘れてました…
まずは、やもりの曲を二つ。語りの多い異色作「アイツは俺を知っている」は、とても力強いアレンジで感心したのだが、実は、矢野さんの演奏はリハーサルとは全然違っていて、どんどん突っ走っていたらしい。それに、その場で対応できるのが、デビュー50周年の森山良子さんの実力である。
森山さんが大好きな曲で、レコーディングはしたのだけれど、その後、ライヴで歌う機会が無かったという「When She Loved Me」。Sarah McLachlan好きの私としても嬉しい選曲だ。
続く、「君住む街角」は、矢野さんと森山さんが初めて一緒に歌った曲だそうだ。間奏中に、タイトルに引っかけて「自分が住んでいる街角」についてトーク。矢野さんは、NYのGreenwich Village。犬の糞を踏む話…。森山さんは「Divorce Street=離婚通り」(ご近所さんが、離婚経験者揃いということで…)
岸洋子さんの曲は二曲続けて。お二人とも、こういう、きちんと日本語を伝えるヴォーカルがお好きなのだ。そして、本編ラストは「さとうきび畑」。この演奏が凄かった。やっぱり、この二人の表現力はとてつもないと感嘆。
アンコール一曲目は、お二人の公演ではお馴染み、「Beautiful Dreamer」のアカペラ。今日は、ちゃんと高音が出る喉の状態で、本当に良かった。それでも、締めは、ピアノ・ソロで。矢野さんご本人も、この最後のピアノのみの演奏が気に入っているそうで、とにかく何も考えずに弾いていると、何かが"Flow"してくるとのこと。私も、この締め方、大好きである。
* は、大貫妙子と共演
いよいよ最終日。喉の調子に不安無し。「中央線」も「ISETAN-TAN-TAN」も、新しいアイディアに満ちた、かなり崩したアレンジだ。後半、ゲストを招くと勝手に崩す訳にいかないからだろうか?とにかく、好調さが伝わってくる。
大貫さんの作品「突然の贈りもの」を歌ったのち「20~21世紀を股にかけて、世界的な名曲を書く作曲家」という紹介で大貫さんを呼び込む。二人で歌う最初の曲は、矢野さんからのリクエスト。山弦(佐橋佳幸氏と小倉博和氏によるギター・デュオ)の曲「祇園の恋(GION)」に大貫さんが詞を付けた「あなたを思うと」。
定番「横顔」の演奏の後のトークでは、二人ともワンダーコアが欲しいという話や、大貫さんは空手など「道」が付くものが好きだとかというフィジカル系の話題(矢野さんの、「北海道も?」とういツッコミが、ナイス)。
続いては、大貫さんのリクエスト、Tony Bennettが歌ったBill Evansの曲「The Playground」。この曲に因んで、子供時代の話(お二人とも、協調性が無かったらしい…)や、10年前から大貫さんが取り組んでいる米作りの話(今では、年間収量 1トン!)など。話が弾んで、気分が田植えモードになってしまった大貫さんが、歌手モードに戻しての、1930年代のシャンソン「聞かせてよ愛の言葉を」
本編ラストは「ひとつだけ」。大貫さんとのデュエットで聴くのは、私は初めてかもしれない。最近では、清志郎さんや奥田民生さんなど、やさぐれモードとのデュエットを聴く機会が多かっただけに、それとは真逆の方向性の、しっとりと優しく美しい大貫さんとのデュエットは、新鮮に沁みる。本当に良い演奏だった。今回のジャンボリーでは、「黒い扉(偽清志郎=清水ミチコさん)」、「赤い扉(奥田民生さん)」、「白い扉(大貫妙子さん)」の、三種の「ひとつだけ」を聴けて、実に嬉しい。
アンコール一曲目は、薬師丸ひろ子さんのために矢野さんと大貫さんが共作した「星の王子さま」。お二人の声の重なりの美しいこと! また、共作したいというお話が出ていたので、是非、実現していただきたい。
ここで大貫さんは退場だが、矢野さんと大貫さんのお二人の会話や共演は、過去四日間のメンバーとは一味違う「盟友感」に溢れていて、観ている側も気持ちよくなるものだった。
そして、ラストは、今回のジャンボリーで恒例となったピアノ・ソロ。一応、曲名は「Greensleeves」だが、自然に音が溢れ出してくるような自由な演奏で、これが丸ごと今の矢野さんだという説得力に満ちたもの。もう、これ以上にない締めくくりだったと思う。五日間の中でも、今日は出色の出来だ。というか、ここ最近の矢野さんの公演の中でも、極めてクオリティーの高いものだったと思う。
ということで、ジャンボリー終了。演歌・演芸・ロック・フォーク・ポップスと、タイプの異なるミュージシャンと、どれも一日限りという贅沢な連続公演を、堪能した。それぞれに合わせて変化する矢野さんのピアノ演奏を味わえたことは、本当に楽しかったし、つくづく引き出しの多い人だと改めて感心させられた。
あと、この公演、最後の客出しの時に流れるのがASSEMBLYというのが、嬉しいのであった。本当に良かった!