日比谷公会堂、盛岡、仙台、名古屋、渋谷公会堂に行くことができました。私にとっては、盛岡がベスト・アクトでした。
誤りのご指摘や追加情報等あれば、送っていただけると助かります。
地区 | 公演日 | 会場 | 備考 |
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埼玉 | 2013年4月19日(金) | 所沢市民文化センター ミューズ マーキーホール | ゲスト:MATOKKU(松本淳一・トリ音・久保智美) |
東京 | 2013年4月21日(日) | 日比谷公会堂 | ゲスト:MATOKKU(松本淳一・トリ音・久保智美) |
福島 | 4月22日(月) | いわき芸術文化交流館アリオス小劇場 | |
山形 | 4月24日(水) | 山形県郷土館・文翔館 議場ホール | |
宮城 | 4月26日(金) | 石巻N's- SQUARE | |
岩手 | 4月29日(月) | 盛岡市民文化ホール 小ホール | ゲスト:細美武士(the HIATUS) |
宮城 | 4月30日(火) | 仙台市青年文化センター シアターホール | |
愛知 | 5月6日(月) | 三井住友海上しらかわホール | ゲスト:岡林信康 |
静岡 | 5月8日(水) | 浜松市天竜壬生ホール | |
大阪 | 5月11日(土) | フェスティバルホール | ゲスト:奥田民生 |
香川 | 5月14日(火) | サンポートホール高松(第一小ホール) | |
山口 | 5月16日(木) | 防府アスピラート | |
長崎 | 5月19日(日) | NCC & スタジオ | |
東京 | 5月22日(水) | 渋谷公会堂 | ゲスト:清水ミチコ |
* は、MATOKKUと共演
まず、ゲストのMATOKKUについて。作編曲ピアノ等を担当する松本淳一さん、テルミン奏者 トリ音さん、オンド・マルトノ奏者 久保智美さんの三人で結成されたユニット。テルミンは、1919年に発明された世界最初の電子楽器。アンテナに手をかざす独特の演奏スタイルの楽器。オンド・マルトノは、1928年に発明された電子楽器。こちらは、鍵盤とリボンを用いて演奏する。
さて、歴史ある日比谷公会堂。幅が狭く、肘掛けも無いという窮屈な座席である。舞台上は、色とりどりの風船が置かれたポップな装飾。右手に、後ほどMATOKKUの皆さんが演奏するテルミンとオンド・マルトノが置いてある。特に、オンド・マルトノは生で見るのが初めてなので、どのように演奏するのか興味があったのだが、私の席からは見づらい位置関係なのが残念だ。
客電が落ち、さあ開演。まずは、スクリーンに、清志郎さんと矢野さんの共演映像「ひとつだけ」が映され、間奏のところで矢野さんが静かに登場、そのままピアノを引き継ぐような感じで一曲目。当然の、アルバム収録曲中心の選曲だが、今日は声の調子も良く、ピアノの表現力も素晴らしく聞こえる。特に、「胸が張り裂けそう」や「恩赦」のピアノの切れ味は絶品だ。
8曲目でMATOKKUの三人が舞台へ。矢野さんはスタンディング・マイク前に移動し、眼鏡をスタンバイ。MATOKKUが奏でる不思議な電子音にスキャットで絡みながら「500マイル」と「多摩蘭坂」、そして、この日のために新たにアレンジした「SUPER FOLK SONG」。初めて見るMATOKKUだが、なるほど、面白い音作りだ。テルミンの演奏は何度か見たことがあるが、トリ音さんの奏法は個性が強いと思う。ただ、彼らだけの音を聴き続けるのはちょっと辛いかな、という気もする。それをバックに持ってきて、忌野清志郎作品と組み合わせるという矢野さんのアイディアは凄い。
ここで、矢野さんは舞台袖に一旦引っ込み、スクリーンに矢野さんと清志郎さんの共演映像「けんかでデート(原曲はPaul & Paula。日本語訳は田辺靖雄と梓みちよが歌ってました。2002年のRISING SUN ROCK FESTIVALでの映像のようです)」。
続いて、新曲の披露。そして、昨年の鎌倉で演奏して圧巻だった「いい日旅立ち」を、今回は「いもむしごろごろ」と組み合わせて。個人的には「青い山脈」バージョンの方が、鳥肌ものだったかな。
アンコールで衣装替え。足下はピンクの「ブーツ」。アルバムでも裏ジャケットに使われているが、2005年のさとがえる、NHKホールにゲスト出演した清志郎さんの黄緑ブーツが元になっていると思われ、色違いのブーツを履いたお二人が並ぶ姿が見たかったなぁと、ちょっとしみじみ。
最後にもう一度MATOKKUが登場し「PRAYER」。今回の共演曲の中では、一番、分かりやすかったと思う。
終わってみれば、矢野さんのコンサートにしては長めの二時間越え。ゲストが入ったせいだと思われ、今後のツアー会場だと、また別のセットリスト・構成になるような気がする。数少ないMATOKKUとの共演の機会を見ることができて良かった。
* は、細美武士さんと共演
ゲストは、細美武士さん。ELLEGARDEN(活動休止中)、現在は、the HIATUSで活動中のミュージシャン。矢野さんとは、2009年のリサイタルや、2010年の「ここが音楽堂!」弾き語りツアーで共演している。
会場は盛岡駅すぐ近く。350席の小ぶりなホールだが、舞台には荘厳なパイプオルガンが鎮座し、堂々たる雰囲気だ。二階席までほぼ満席。
共演ビデオの間奏シーンで登場し、そのままピアノをフェードインする矢野さん。そのピアノの響きの良さに驚いた。ピアノ自体の音色も、会場の音響も、非常に綺麗。それに加えて矢野さんの喉の調子も絶好調。期待が持てる出だしだ。
その予感通り、素敵な演奏が続く。会場のサイズに合わせてか、より親密さを感じるプレイなのだ。そして、4曲目には、盛岡に来て急に演りたくなったという「Home Sweet Home」。前半、歌詞の怪しいところもあったが、それが全く気にならない好演。続く「恩赦」のピアノ、一音一音の美しさも特筆もの。
ここで、ゲストの細美武士さん登場。前日は、the HIATUSとして矢野さんと同じくARABAKI ROCK FEST.13に出演していた細美さん。今のお気に入りということで、前日と同じTシャツ着用。「洗濯して首回りがデロデロになるのは嫌なので、4日間ぐらい着ません?」との発言に、ちょっと引く矢野さん。
アコースティック・ギターを抱えた細美さんとの一曲目は、「デイ・ドリーム・ビリーバー」。極めて正統派の演奏。演奏後、矢野さんがThe Monkeesの想い出話。さらに「清志郎さんの歌詞は、原曲とは関係ないもので、ここに出てくる彼女は、清志郎さんの亡くなったお母様のこと」という裏話。「演奏前に話しとけば良かったわね」…
続いて、以前の共演でも披露したWeezerの曲。さらにELLEGARDENの曲を。
細美さん退場後、MATOKKUのトラックをバックに、スタンディングで「500マイル」。あの不思議なインプロビゼーションがライヴで見られないのは残念だが、音のバランスが聞きやすく、これはこれでOKだ。ちなみに、今回の矢野さんは眼鏡無し。
「GREENFIELDS」と「いい日旅立ち」の出来は出色。やはり、これぐらいのサイズで音響の良い会場は良いなぁ。本当に、その場を共有しているという感覚を味わえる。
アンコールの拍手中に「けんかでデート」のVTR。アンコール・ラストは、2009年サンケイホールブリーゼでの細美さんとの共演の際、共作した幻の名作。ご本人たちも言っていたが、この二人のハイトーンでのハモりは、本当に良く合っていて、聴き応え十分。
細美さん自身は、清志郎さんと直接の面識は無いそうで、「忌野清志郎を歌う」コンサートという意味では、やや外れていたのかもしれないが、良いピアノ、良いホール、良いゲストが揃い、クオリティの高さと親密な雰囲気が共存する、とても満足度が高い公演だった。
今回のホールは、588席。ゲスト無しということもあってか、過去二回見たステージとは、構成が変わったと思う。清志郎さんカバーの部の前半と、矢野さんオリジナルの部の後半を、はっきり分けたという感じ。また、プレーの雰囲気も、かなり違っていた。さらに、セットも少し変わり、矢野さんの後ろにピンクの椅子を配置。誰も座ることが無い椅子は、本日の不在の主役、清志郎さんのための席のようだ。
ピアノは、珍しくKawaiのもの。そのためか、冒頭から、ピアノの音色の違いを強く感じる。なんだか、丸い音、という感じだ。矢野さんの喉の調子も、昨日に比べると悪いような気がする。ということで、出だしの二曲は、今までと、ちょっと違って響いてくる。
そして、二曲が終わったところで、清志郎さんとの思い出話が一しきりあっての、三曲目。この歌詞は、今、聴くと、中々複雑な思いにかられてしまう。矢野さんも、特に"fight"のあたりに、すごく力を込めて歌っていたように思う。
続く、「多摩蘭坂」も情感たっぷりの演奏。普段とちょっと違うピアノの音色のせいか、今日は、この情感を強く感じる演奏が多かったと思う。
インターミッションの後、MATOKKUのトラックに合わせた「500マイル」に続き、列車つながりで、「Night Train Home」。黒磯の下りで、照明も暗転するという演出で、私には今日のベスト曲。
いつも以上に崩した「いい日旅立ち」から続くエンディングとアンコール。このツアーの東北の部最終日ということからなのか、スタインウェイやヤマハとは違う味わいのカワイ・ピアノの音色のせいなのか(後半になって、ピアノを弾きこなしているという感じは強まったが)、パワーよりも情感たっぷり、という印象の演奏が最後まで続き終演。ゲストがいないのでしょうがないとは言え、時間も曲数も、やや物足りなさが残ってしまった。
* は、岡林信康さんと共演
ゲストは、岡林信康さん。1946年生まれの「フォークの神様」。盛岡での細美さんと同様、矢野さんとは、2009年のリサイタルや、2010年の「ここが音楽堂!」弾き語りツアーで共演している。岡林さん曰く「回を重ねるごとに、ギャラが安くなっている…」。
しらかわホールは、キャパ700人。ビルの中にあるホールだが、クラシック用ホールらしい、落ち着いた高級感ある雰囲気だ。ピアノはスタインウェイ。ピアノもヴォーカルも、端正な響きが広がる音響の良さが、好印象。
その響きの良さのせいか、矢野さんが「堂々としたピアノ」と表現していたピアノの音色の良さのせいか、矢野さんの演奏も、スケールが大きいという印象だ。特に「恩赦」の迫力は凄い。
ゲストの岡林さん登場。矢野さんにとっては「親戚のおっちゃん」というイメージらしい。田舎暮らしを続けるフォーク・シンガーと、マンハッタンで暮らす矢野さん。スタイルからして対照的な二人。会話は噛み合っているような合っていないような。ドイツ鳩(岡林さんの趣味が鳩の飼育だそうだ)の話で、会場も矢野さんも煙に巻く岡林さん。徹頭徹尾、マイペースを崩さない。森山良子さんのことを、「綺麗な歌声過ぎて、苦手」とバッサリ(その点、癖のある矢野さんは良いと…)。清志郎さんに因んだ選曲も無し。必然、矢野さんのピアノとコーラスは、独自色を出すよりもサポートに徹するような感じ。そんな中、「26番目の秋」のタイトルが、松本隆さんのアイディアだったという話などは、40年以上前、ミュージシャンたちがジャンルを超えて交流していたんだな、と興味深い。
岡林さん退場後、MATOKKUのトラックに乗せた「500マイル」。後半の盛り上がりが鬼気迫る迫力になった「胸が張り裂けそう」などと続き、本編終了。アンコールの拍手の中「けんかでデート」の映像が流れ、アンコール。二曲目で岡林さん再登場。すべて終了後、観客の拍手に応えるのもそこそこに引っ込んでしまう岡林さん。最後まで、マイペースだ。
今日は、会場の音響とピアノが良いと、演奏のクオリティも上がるという法則通り、レベルの高い公演だったと思う。岡林さんとは、「共演」という意味では物足りなさもあったのだが、私の好きな矢野さんの一側面、バンドの一員としての矢野さん、という雰囲気のプレイを味わうことができ、これはこれで良かった。
* は、奥田民生さんと共演
* は、清水ミチコさんと共演
いよいよ、千秋楽。渋公(呼び名が、CCレモンホールじゃなくなって良かった)は、二階席までほぼ満席のようだ。舞台にはピアノが二台。
冒頭、矢野さんの喉の調子が少し悪いような気がしたが、演奏が進むにつれ、それは杞憂に。4曲目の「毎日がブランニューデイ」は、アルバムの中で一番ポップな曲なのに、このツアーでは演らないなぁと思っていたが、最終日でようやく聴くことが出来た。
唐突な感じで奥田民生さんの曲を演奏した後、矢野さんは右側のピアノに移動し、清水ミチコさん登場。ひたすら楽しそうにピアノを弾き、歌う矢野さんに対し、清水さんはかなり緊張してピアノを弾いているような気がしたが、歌唱の方は、共演回数を重ねたせいか、余裕が出てきたようだ。「帰れない二人」は、清水さんが陽水パートを物まねで、矢野さんが清志郎パートを担当。矢野さんはもちろん、物まねでは無し。
二人の会話も、すっかりこなれてきた感じがあり、昔、矢野さんがアグネス・チャンのバックでピアノを弾いたときの失敗談には、場内爆笑。
RCの「スローバラード」は、清水さんが歌い、矢野さんは伴奏に専念。その前のアグネスの話の時に矢野さんが「歌伴が好きだ」と言っていたが、私も、こういうバック・バンドに徹した矢野さんって、とても好きなのだ。清水さん、魂の熱唱。素敵な「スローバラード」だった。
「500マイル」は、さすがにライヴを重ねてきただけに、トラックとの一体感がとても気持ちの良い歌唱になっていた。
最終公演も残りわずかだからか、このあたりから、矢野さんのテンションは一気に上がってきた。「気球にのって」を挿入した「いい日旅立ちの」での何かが憑依したかのような奔放な演奏、そして「恩赦」の終盤の演奏、圧巻。
アンコールのラストは、清水さんとの「ひとつだけ」。今まで、清水さんは「私のこと」の部分を「おいらのこと」と歌っていたと思う。これは、矢野さんと清志郎さんが初共演した「ヘンタイよいこ白昼堂々秘密の大集会」での演奏だなと思っていたが、やはり、清水さんはあのイベントを観に行っていたそうだ。ただし、今日は、近年の清志郎さんの歌い方に合わせて「僕のこと」と歌っていた。
実のところ、「矢野顕子、忌野清志郎を歌う」という公演で、清水ミチコの物真似が入ることに、当初は疑問を感じていた。しかし、今日の演奏を観て、そういう感覚は払拭された。清水さんが歌う清志郎ナンバーに、おふざけの要素は無く、清志郎さんと、矢野さんに対するリスペクトがまっすぐに伝わってくるのだ。千秋楽にふさわしい、楽しさとテンションの高さが両立した公演だった。
砂おとこさん、古結さん、ありがとうございました。