5日間7公演のうち、2日間3公演を観ることができました。
2002年9月17日(火) | 21:00 - (休憩有り) |
2002年9月18日(水) | 21:00 - (休憩有り) |
2002年9月19日(木) | 21:00 - (休憩有り) |
2002年9月20日(金) | 19:30 - / 22:30 - (入替制) |
2002年9月21日(土) | 19:30 - / 22:30 - (入替制) |
PizzaExpressは、ロンドン市内にチェーン展開しているピザ・レストランだが、Sohoにある店では、地下にジャズ・クラブを設け、連夜、ライヴが開催されている。因みに、ライヴのラインアップを紹介するA4見開き3枚、6ページの冊子"PERFORMANCE"の9・10月号は、表紙全体に大きく矢野さんの写真が掲載されていた。
開場の7時45分に着くと、地下に降りる階段のところに少し列が出来ていた。一組ずつ、予約を確認しながら、ウェイターが席に案内するので、入場に少々時間がかかるが、毎晩ライヴを開催しているだけに、全体としては手際が良いようだ。店内は、一段高くなったステージにグランド・ピアノが置かれ、その周囲を二人客用の丸テーブルが囲み、店の中央部にはテーブル席、壁際にはボックス席、入り口近くにはカウンター・バーというレイアウトになっている。あまり広くは無い。予約されていた席は、矢野さん至近距離、斜め後方。ピアノを弾く手元がばっちり見える席だった。
開演前に、まずは食事の時間。ピザと赤ワインを頼む。ピザは、もう少し薄い方が好みではあるが、かなりおいしい。ついつい、ワインのハーフボトルをお代わりしてしまった(夜行便で着いた初日に飲み過ぎて、少々後悔することになるのだが)。客層は、日本人駐在員&留学生らしき人達が7〜8割ぐらいで、あとが、地元の人達という感じ。デザートまで終わって、9時15分頃、店の人のアナウンスに続いて、ジーンズに黒のノースリーブといういでたちの矢野さん登場。
1曲目、「Dreaming Girl」で、いきなり、やられたぁ、という感じだ。これまで聴いたどんなアレンジよりも胸に響く。海外公演ということで、いつも以上に気合が入っているのだろうか。2曲演奏した後で、MC。喋りの方は、英語2割で、後は日本語。英語は割に硬い内容で、日本語はもっとリラックスした冗談交じりという雰囲気だ。BBCラジオに出演した話など。演奏の方は、高テンションのまま続き、「GREENFIELDS」!で、一旦休憩。
休憩後は、いきなり、「BAKABON」に「サッちゃん」。ご本人も、
「こんな曲がLondonのジャズ・クラブで演奏されたのは初めてでしょう」
と語られていた。それにしても、どの演奏も凄い凄い。最後の「また会おね」、は、ピアノも歌唱も完璧。ライヴで何度も聴いている曲だが、ここまで引き締まった演奏で聴いたのは初めてかもしれない。
「Money Song」では、その歌詞に笑い声が起きるなど、熱心なファンばかり集まったとは言えないと思われる会場だが、終盤は、場内の観衆の大部分が、すっかり夢中になっているのが分かる。日本でありがちな予定調和的な雰囲気じゃないところも、海外公演の醍醐味なのだと実感。
終演後、ウェイターがCDを持って各テーブルを回る。ここでCDを買うと、後からサインをしてくれるという。これも、海外公演の特典だろう。最初は、サインをもらうなんて恥ずかしいので、そのまま帰ろうと思っていたのだが、あまりに充実した演奏にやられてしまい、とにかくお礼を言わねばと、厚かましくも、CDを買わずに矢野さんのところにご挨拶。そのまま、余韻にひたりつつ、ホテルまで歩いて帰った。
この日は、二回公演を二回とも予約済み。まずは、一回目。今回の席は、最前列、矢野さんの斜め前方。手元が見えないが、表情が完璧に見えるポジションだ。食事は、シーザーズ・サラダとラザニア。一杯目はビールにしたが、昨夜の教訓から、二杯目はノンアルコールに切り替えた。
7時半、ライヴスタート。今夜は赤のワンピース。「TONG POO」から始まった演奏は、歌詞が怪しくなる箇所が多いのだが、その代わり、ピアノのプレイ・スタイルをずいぶんと工夫しているように思えた。「きょうのわたくし」の演奏などは是非とも手元が見たかった。実験的とも言えるようなチャレンジができるのも、海外公演の自由さ、なのかもしれない。「Scarborough Fair」の演奏中には、さすが週末のSoho、消防車のサイレンが聞こえてきたが、動じることなく「ウーウー」とハミングで歌に取りこんでしまう余裕も嬉しい。11曲目、「ラーメンたべたい」の熱唱は圧巻だった。
第一回目のステージ終了後、一旦、店を出て、近くのBORDERSで時間を潰す。矢野さんがMCで触れていた「You Showed Me」のオリジナルが入っているByrdsのCDを購入。
10時、第二部の会場入り。今度は、第二列。前の人の頭で、矢野さんの姿がほとんど見えない席だったが、3公演目なので、贅沢は言うまい。当初の予定では、開場から開演まで30分だったが、さすがにその時間内で、客を席に案内し、オーダーを取り、料理を食すのは無理。結局、開演は10時50分頃。
今回は、MCの英語比率が高い。夜遅くの公演に集まる客層を考慮されたのだろうか?「モスラの歌」を
「英語でも日本語でもフランス語でもない、皆に平等な、グローバルな、スタンダードな歌詞」
と表現されるのに、にんまり。
第一部より曲数が多く、さらに、"We want more!"の掛け声に、アンコール登場。すでに準備してる曲は終了とのことだったが、場内からのリクエストで「David」。今夜も、終演後CD販売。同席者がCDを購入したのを良いことに、サインをもらうのについて行くという、二夜連続の厚かましさを発揮。しかし、厚かましいのもここまでで、何を話したのか、後で思い出せないほど緊張もしていたのだが…
この会場は、地上階のレストランから椅子を引きずる音が響いてくるし、食器の音やレジを打つ音も聞こえて来る。演奏中にも、勘定書きを持ってウエイターがテーブルを回って来るし、外の消防車のサイレンなども響く。決して、集中して音楽を聴くのに適した環境では無いと思うのだが、そういった雰囲気も含めて、狭い会場で、アルコールを飲みながら矢野さんの演奏を聴くという行為が、実に心地よかった。弾き語り公演には、このような場の方がふさわしいのかもしれない、とも思う。
集まったお客さんの多くは、「日本人の公演だから」という理由で集まった在英邦人や、この店の常連のジャズ・ファンなどで、日頃から矢野さんの音楽に接しているという人は少数派だったと思う。いわば、他流試合のような雰囲気の会場で(だからこそ、なのかも)、いつも以上に引き締まり、工夫を凝らした演奏を披露する矢野さんは、実に格好良い。ご本人の表情に気負ったところが全く見られないのが、なおさらだ。そして、最終的に、場内の人々をしっかり魅了してしまうところに、矢野さんがこれまで蓄積されてきたキャリアに基づく懐の深い音楽性、というものを改めて実感させられた。在英の方々の心情を慮ったような選曲も心憎く、個人的には、自分が見に行けなかった最終日・最終公演のセットリストを見て、悔しさも少々。次にこのような機会があれば、また、万難を排して見に行きたいものである。
澤田さん、ありがとうございました。