三公演中、鎌倉と八ヶ岳高原に行くことができました。
誤りのご指摘や追加情報等あれば、送っていただけると助かります。
素晴らしい音響と矢野さんお気に入りのピアノで、毎年、他の会場とは一味違う演奏になる鎌倉芸術館。やはり、今年も良い音、良い演奏、そして感涙のセットリストの公演だった。
登場した矢野さん。お召しになっているのは、全体に「蟻」の柄が入ったワンピース。ご本人曰く「女王蟻の気分」だそうで…。激しいツアーの結果なのか、腕の筋肉がいつも以上に引き締まっているように見える。
演奏は「風をあつめて」でスタート。いつもよりもゆったりしたテンポのように聞こえる。そこから流れるように次の「電話線」につながる。ピアノも声も、とても調子が良く聞こえるのは、会場の音響の良さだけでは無いだろう。
今年の私的ナンバーワン・ソング「Don't Speculate」。ROCK IN JAPAN FES. で初めて聴いたときの感動が甦る力強い演奏が嬉しい。
そして、懐かしの「家路」。一番の歌詞は17歳の時に書かれたそうで、「小さな幸せが… なんて、今なら、ヘヘーッ!て感じよねぇ」とのこと。最近、取り上げる機会が増えたと思っていたら、二番の歌詞は最近になって書き足されたそうだ。
さとがえるでは、MCの合間にちょろっと弾く程度だった「気仙沼においでよ」を全曲演奏した後、私が偏愛するアルバムながら、その収録曲をライヴで聴く機会は無いだろうと諦めていた「ト・キ・メ・キ」から、まさかの「ヨ・ロ・コ・ビ」。松武秀樹氏プログラミングによるフレーズも再現するオリジナルのアレンジに近い演奏で、もう懐かしいやら嬉しいやら楽しいやら。本当に喜びだ。さらに、隠れた名盤、かしぶち哲郎氏のアルバム「リラのホテル」から「LISTEN TO ME, NOW」、私の大好きな「GO GIRL」と、このあたりの流れは、私にとって夢のセットリストである。
全体に、今までの演奏からアレンジを変えてきた曲が多かったが、特に「ひとつだけ」は、かなりの変化球。ピアノのタッチの力強さがさらに際立っている「ROSE GARDEN」で本編終了。アンコールは、しっとりとした二曲。
さとがえるの超ハイテンションの演奏も良かったけど、やはり、ソロの弾き語りも良いなぁとしみじみ思える公演だった。リラックスした雰囲気のMCも楽しく、セットリストも良かったし、ピアノの力強さ、矢野さんの声の調子とも、非常にレベルが高かった。やはり鎌倉芸術館での公演には万難を排して駆けつけるべし、との認識を新たにしたのである。
会場の八ヶ岳高原音楽堂は、八ヶ岳高原の別荘オーナー達がレコードを持ち寄って開いた鑑賞会が基になり、スヴャトスラフ・リヒテル氏と武満徹氏をアドバイザーとして迎えて1988年にオープンしたホールである。標高1,500mの地に建つ、木の温もりを活かした六角形の建物で、キャパは250名。残響1.6秒。
新宿発のあずさで小淵沢まで行き、そこから小海線に乗り換え。この日は三連休の中日&クリスマス・イブ。高原のペンションで聖夜を過ごそうという人で、小海線は混み合っていた。途中、鹿に遭遇した列車が徐行し、野生動物とは無縁の生活を送る都会者たちが列車内で騒然とするいう一幕を挟みつつ、野辺山で下車。駅前から八ヶ岳高原ロッジの送迎バスに乗り込む。到着したのは、開場の二時間ほど前だったので、しばし、徒歩であたりを散策。綺麗な空気が気持ち良い。
16時、開場。音楽堂のロビーは、赤・白のワイン、ジュース、サンドイッチなどが無料で振る舞われる贅沢な空間となる。なお、この日の座席は入場時の抽選で決まる仕組み。私は、最後列に近い場所だったが、会場自体が小さいので十分に見やすい席だった。ピアノの後ろは大きなガラス窓になっていて、夕闇迫る山々の稜線が美しい(矢野さん曰く、山だけは売るほどある…)。
演奏が始まった。確かにピアノもヴォーカルも美しく響く。先日の鎌倉が、クリアな響きだったのに対し、こちらは、あくまでも柔らかい音色だ(たまに、ピアノの高音部に共鳴するノイズが乗っていたような気がしたのが残念)。そして、矢野さんの演奏も、しっとりモード。会場の雰囲気を察し、選曲も、演奏も、MCも、矢野さんのコンサート初心者にも分かりやすいものを心がけているようだ。そういう意味では、リサイタルというより、出前に近い雰囲気かもしれない。ご本人も、「熟年カップル向け」を意識したと語っていた。
逆に言えば、矢野さんのコンサートに何度も足を運んでいる人間には、やや食い足りないという印象もあったのだが、「ヨ・ロ・コ・ビ」に関しては、鎌倉よりもさらに進化したアレンジ(終わったかと思いきや、そこからさらに展開するという、ベートーベンっぽさを狙ったのか)で、とても聴き応えがあった。
ラストの「GREENFIELDS」から、アンコールの二曲は、鉄板とも言える構成。鎌倉では、思い切ったアレンジを仕掛けてきた「ひとつだけ」も、今日はあくまでもオーソドックスな直球勝負。これもまた、食い足りないという感じもあるのだが、テンションの高いさとがえるから、通好みの鎌倉を経て、2011年の聴き納めが正統派の「ひとつだけ」というのも良いじゃないか、という思いでリサイタル終了。何より、場所とサービスの非日常感が新鮮な公演だった。
因みに、この日は、予約時にファンクラブ会員であることを伝えると、お土産にハーフボトルのワインがもらえるというサービス付きだった。それに備えて、カバンの中にプラスチック・カップとソムリエ・ナイフを忍ばせてきた私は、帰りのあずさの車中でワイン&駅弁。贅沢な時間を与えていただき、感謝である。