2016年、冬のリサイタルは二本、開催されました。
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会場は、JR横浜線及び京王相模原線の橋本駅直結のショッピング・ビル「ミウィ橋本」の7Fと8Fにある、キャパ 535席の、小振りながら綺麗なホールだ。開演前の場内放送で「補聴器をお使いのお客様は、正しく装着されているか、今一度お確かめください」と流れて、面白いことを指摘するなぁと思っていたのだが、公演中のMCで、矢野さんもその事に触れていた(こういうの、個人的に嬉しい)。補聴器を正しく装着していないと、ハウリングが起こるから、とのこと。
一曲目「星の王子さま」は、出前など地方公演での冒頭に演奏されることが多い曲だ。このまま、分かりやすいパターンの選曲になるかと思いきや、3曲目では久しぶりの「NEW SONG」。一方、「リラックマのわたし」は、会場もご一緒に、のパターン。この日のセットリストは、まさに場所柄か、取っつきやすさ(地方公演にありがち)と、通好み(東京近辺でありがち)の、ちょうど中間を突いてくる感じだったと思う。
矢野さんのMCは、かなりリラックス・モード。物販トークもたっぷりだし、京王相模原線が都営新宿線と直結している事への言及など趣味性も全開で楽しい。
JAXA相模原キャンパスが近くにあるという話しの流れで演奏された「Welcome to Jupiter」が、とても良い演奏だったと思う。そして、本編ラストは、「SUPER FOLK SONG」と「RETURNED」を、シームレスに繋いでの演奏。演る前には、「思いついたんだけど、どうしようか」と悩まれていたが、演って大正解。楽しさ倍増だ。しかも、「さとがえる」の時と違って、歌詞が明瞭に聞き取れる! これ、やはり重要なポイントだ。なお、ピアノも歌声もクリアに聞こえる音響ではあったのだが、特にヴォーカルのサウンドは、ちょっと硬質過ぎるかなと感じた。最近、この傾向が続いていると思うのだが、PAのセッティングを変えたのだろうか?(あるいは、私の耳の老化か?)
本編ラストの「GREENFIELDS」からアンコールの2曲も、実に良い感じで全編終了。40周年の今年は、趣向を凝らしたコンサートが多かった分、今回の「素の弾き語り公演」が逆に新鮮で、とても好印象だった。
年末の風物詩、矢野顕子リサイタル@鎌倉芸術館である。良いピアノと素晴らしい音響のホールの組み合わせで、毎年、名演が繰り広げられるのだが、今年も、演奏が始まるや、そのピアノの響きの豊かさに耳を奪われた感じだ。矢野さん自身がピアノの響きを楽しみ、慈しんでいるという印象でスタート。
最初のMCで、矢野さんも、ピアノのコンディションを絶賛していた。ピアノとの会話が弾む。と言うことで、どの演奏も、本当に豊かな響き。矢野さんのソロ・コンサートではなく、矢野さんとピアノのデュオ公演という感じだ。
今日が、2016年最後、自身にとっては、御用納めとなる矢野さん。素敵なピアノと、毎年恒例の会場の雰囲気からか、MCもリラックス・モード。「おぼろづきよ」の演奏後には、実は歌詞の意味があまり分かっていないまま歌ってきた、という実体も暴露される(なお、凝った転調アレンジは、三善晃氏の編曲とのこと)。
「SUPER FOLK SONG」と「RETURNED」をシームレスでつなぐのは、橋本公演と同様だが、つなぎ方が、さらに洗練されたように思う。ただし、歌詞の途中で笑いを堪えきれなくなるところは、相変わらず。
本編最後は、冒頭に観客への感謝の言葉を入れながらの「ROSE GARDEN」。キレッキレの演奏。それにしても、今日のピアノは、本当に良く響いている。「愛について」などの演奏では、あくまでも叙情的に鳴り、「無風状態」や「ROSE GARDEN」では、ダイナミックな音を叩き出す。ただ、矢野さん自身がピアノに聞き惚れて、歌唱のタイミングが遅れることも何度かあったような…
アンコールに登場し、「腕が痛い。こんなことでは、来春の上原ひろみさんとのツアーが心配」と語る矢野さんに、場内から「頑張れ!」のかけ声。これは、かなり嬉しかったようだ。そして、前日の「SMAP×SMAP」の最終回の話題(一日中、取材が立て込んで疲れていた矢野さんは、ホテルのプールに行こうと水着に着替えたところで、時刻を確認するためにTVをつけ、この放送に当たってしまい、結局、プールは止めて、水着のまま最後まで観てしまったそうだ)から、SMAPの「しようよ」。改めて、良い曲だと実感。さらに、彼らと共演もした「ひとつだけ」。「ひとつだけ」の終盤は、ピアノの前から離れ、会場のコーラスを指揮する矢野さん。40周年の最後は、矢野さん×ピアノ×会場、が一体となった、実に素敵な雰囲気で、締め。
と言うことで、大満足の2016年最終公演だった。そして、改めて、鎌倉芸術館小ホールの特別さも感じてしまった。ピアノの響きの良さと、リラックスしつつも素晴らしいパフォーマンスを魅せてくれる矢野さんは勿論だが、演奏終了後、最後の一音が消えるの待ってから巻き起こる拍手(他の会場だと、大体、早いタイミングで手を叩きはじめる人がいるものだ)に、集まってくるお客さんの「手練れの聴き上手感」のようなものが、溢れていると思う。今年も、その場に身を置くことが出来て、本当に良かった。