ついに、実際に出前を見に行くことができました。
5月26日(土) | 徳山市 ピピ510 Lホール |
5月27日(日) | 萩市 VILLAGE |
6月2日(土) | 早島町町民総合会館「ゆるびの舎」 |
6月3日(日) | 三木市文化会館 小ホール |
念願の初出前である。会場のピピ510は、駅前商店街の外れにある、大規模駐車場ビルの一階に作られたホールだ。ホールと言っても、固定席が有るわけではなく、公民館の大会議場のような雰囲気である。キャパシティは400〜500人といったところだろうか? 開場前に、準備に奔走するどんべいさんやスタッフ、主催者の方々、出店の準備をするCD屋さんなどの様子を、間近で見ることができるのも出前らしい。
劇場ではないので、舞台の袖、というものが存在せず、矢野さんは控え室だった隣の会議室から、ホール横の入り口を通り、客席内を通り抜けて舞台上へ。前半はカヴァー曲が続く。一段落して、大貫妙子さんの話(物真似付き)から、マイムマイム(オクラホマ・ミキサーとごっちゃになっていたようだ)の話など、リラックスしたMC。
久しぶりの「たいようのおなら」、岸田衿子さんのCDに収められているという曲、安達祐実さんに提供した曲のセルフ・カヴァー、昨日のThe Chieftainsのコンサートで歌唱したアイルランドのフォークソングなど、目新しい選曲が多く、楽しめた。因みに、岸田衿子さんは、児童文学者で、詩集や絵本で活躍される他、「世界名作劇場」のアニメソングの作詞も手がけられています。岸田今日子さんの姉にして、谷川俊太郎さんとは幼なじみだそうです。
(と、当時は矢野さんのMCに基づいて書いたのですが、正しくは、「かくれんぼの村」が収録されているのは、岸田今日子さんのアルバム「おはなししてよ かあさん 〜小さな娘のために・岸田今日子〜」であることを確認しました。 - 2007年8月4日 追記)
PAの良さにも感心した。ピアノに3本のコンデンサーマイクを立てる本格的なセッティングで、コンサート用の会場では無いということを感じさせない、聞きやすい音に調整されていた。地方の小さな会場でも、妥協を許さない真剣な姿勢でコンサートに取り組んでいることが、出前成功の要因なのだろうと感じた。演奏の質自体はいつもながら高いものの、小会場ならではのリラックスした雰囲気もあり、出前コンサート、つくづく楽しいものである。
出前史上、最も小さい会場、とのふれこみ通り、Villageは小さい店だった。住宅地の中、1階部分が駐車場で、2階が店になっている。普段営業しているときには、20〜30人ぐらいで一杯になってしまうと思われる大きさだ。想像していた「小洒落たジャズ・クラブ」とは、かなり違う。ぱっと見、ただの住宅街の小さな喫茶店、という趣である。そんな中、どうやって入れたのか、グランド・ピアノが1台。店の横幅は、グランド・ピアノを置いて、演奏者の椅子を置けば、もう、ぎちぎちである。木材を多用した、天井の高い、ログハウス風内装は、なかなか暖かみのある雰囲気だ。
あまりの狭さ故か、この日の公演は2部制。私は、第一部のみの鑑賞である(第二部の演奏曲目は、第一部とは全く変えていたそうだ)。一回当たり、観客数は80人程度。店のカウンターの中で立ち見する人がでるほどの混雑ぶりだ。店内が狭いといっても、特別なステージが組んであるわけでは無いので、ピアノの陰になって矢野さんの顔が見えない人が多かったのではないだろうか。幸い私は、早くから並んだおかげで、矢野さんの最至近席を確保できた。
控え室も無いので、矢野さんは宿泊先のホテルから車でやってきて、そのまま店の入り口から入り、既に観客が詰まっているカウンターの中を通って、ピアノへ。ステージが組まれていないということは、つまり、自分が座っているところと、ピアノが同じ床面にあるわけで、かつてなく矢野さんの手元がよく見える。いやぁ、ああいう左手の動きだったのかぁ、などと感心できるのは良いのだが、とにかく、矢野さんとの距離が近い。緊張する。リズムを刻む矢野さんの左足の振動がダイレクトに伝わってくる。逆に言えば、こちらが不用意に足を動かせば、その振動が矢野さんに伝わってしまうわけで、実に緊張を強いられる公演だった。さらに、演奏終了後、一旦、はける、ということがほとんど不可能な状況でアンコールをどうしようか、と矢野さんとどんべいさんが頭を突き合わして話し合いをしたのが、もう、私の鼻先数十センチのところ。さらに、緊張する。息を止めてました。結局、アンコールは、そのまま引き続いて演奏するということで決着。
と、終始、緊張しつつ聞いていたのだが、演奏自体は本当に素晴らしかった。会場の狭さのためか、いつも以上に、ピアノの音も歌声も、ダイナミック・レンジが広く感じられ、心に深く響いてくる。こうやってまとめてみると、演奏曲数が少なかったのに気付くが、当日は、実に密度の濃い公演で、演奏時間の短さなど、まったく気にならなかった。
因みに、MCは、赤塚漫画「おそ松君」、チビ太のおでんの話やら、萩交通事情の話やら、例によってリラックスしたもの。緊張した我々は、なかなか、大笑い、ということもできなかったのだが。
この狭い店では、過去にも、数々の国内外の大物ジャズ・ミュージシャンが演奏をしてきたらしい。オーナー氏の熱意の賜物なのだろう。実際、チケットを取る際、やり取りしたメールからも、オーナー氏の人柄が伝わってきた。こういう主催者の熱さ、を感じられるのもまた、出前の良いところだと思う。
沢田さん、ありがとうございました。