IN/OUT (2022.9.4)

急に秋めいてきたかと思いましたが、何だか、秋の長雨というよりは、梅雨みたいな雰囲気になったりして、今年の天候はずっと迷走気味という気がします。


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「八代亜紀 BIRTHDAY SPECIAL LIVE 2022」@ ブルーノート東京22.8.29

ブルーノート東京八代亜紀が、自身の誕生日に開催する公演を観に、ブルーノート東京に行ってきた。

彼女のライヴは、2017年のブルーノート東京公演を観たことがあるのだが、プロデューサー・小西康晴色が強いジャズ・メインのライヴで、なかなか印象的だった。そのため、矢野顕子トリオのチケットをゲットした際、勢いでこちらも取ったのだが、勢いが良すぎたのか、コアなファンには申し訳ないような、かなりの良席での鑑賞となった。

ピアノ、ヴァイオリン、ギター、トランペット、サックス、ベース、ドラムスの7人のバック・バンドが演奏を始め、しばらくして八代亜紀登場。初期のヒット曲「なみだ恋」。そして、オリジナルよりもアップテンポのアレンジで「雨の慕情」。2017年の時と比べると、歌唱も、バック・バンドの演奏も、完全に歌謡曲寄りだ。歌いながら、会場の隅々までアピールするサービス精神は素晴らしいと思うものの、チケット・ゲットは失敗だったかという気がしてしまう。

デビュー50周年記念の「ワタシウタ」(これまでのヒット曲のタイトルや歌詞を引用した企画曲)の後、一旦、退場。バンドが繋いでいる間に、黒っぽい衣装から白っぽいものに着替えて、「Sing, Sing, Sing (With a Swing)」。お目当ての、ジャズ・スタンダードだ。バンドの演奏も(私には)見違えるように感じる。これが聴きたかったのだ。

ニューヨークのBirdlandで、Helen Merrillのショーに参加した話などを挟みながら、「Fly Me to the Moon」、「You'd Be So Nice to Come Home to」、「Love Me Tender」。いわゆる美声ではないし、声域が物凄く広いという感じでもない八代亜紀だが、その声の存在感で聞かせる。そして、Billie Holidayでお馴染み「Summertme」。この曲は、彼女の地声にピッタリだ。カッコ良し。

本編最後は、再び、ド演歌。「居酒屋「昭和」」(作詩家協会創立55年記念 × 八代亜紀デビュー50周年特別企画の曲)。

しかし、歌う前から、超天然の八代亜紀は「次が最後の曲です。あ、でも、アンコールもあるから」と発言しており、そのまま、舞台を降りることなくアンコールに突入。まずは、彼女が大好きだと言う映画から「My Heart Will Go On」。ハスキーな八代亜紀と、朗々と歌い上げるCéline Dionの声質は対極だと思うが、八代亜紀版タイタニックも聴き応え十分。凄みすら感じる歌唱に引き込まれる。そして、最後は「舟歌」(アンコールは「舟」つながりか?)。この曲は、まさに、八代亜紀の声質を最大限活かすための曲と言っても良いだろう。

八代亜紀公演お土産ということで、結果的には、チケット取得は正解。とても楽しめるライヴだった。なお、お土産に、八代亜紀の絵(フランスの公募展 Le Salonの永久会員に選出された実力)が描かれた缶に入ったデニッシュが洩れなく付いていたのも、異色のブルーノート公演という感じだ。


「Baby Q 大阪場所」@大阪市中央公会堂 大集会室22.9.3

大阪市中央公会堂弾き語り形式のインドア・フェス「Baby Q」。8月12日の横浜公演に続いて、大阪公演に行ってきた。これが、私にとって、2022年夏の矢野顕子強化月間の最後のイベントである。

大阪市中央公会堂大阪市中之島にある大阪市中央公会堂は、1918年に竣工したネオルネッサンス様式の建造物。国指定重要文化財の由緒ある建物だ。が、今でも現役の公会堂として利用されている。

建物の隅々、細かい所まで手抜き無しに拘りまくった意匠は、細かく見れば見ただけ、発見がある。建物の中の階段や照明も素晴らしい雰囲気だ。公会堂スタッフによるガイドツアーも開催されているらしく、予定を合わせて参加すれば良かったと後悔。

大阪市中央公会堂さて、ライヴ会場の大集会室は、1,161席のキャパ。ここも、創建当時、大正モダンの雰囲気をそのまま残す空間で、圧倒される。特に、舞台周りを額のように縁取る金箔飾りなどは、最近のホールには見られない豪華さだ。私の席は2階の最前列。舞台は遠いが、全体が見下ろせる興味深いポジションだ。開幕前からテンションが大いに上がる(手洗いなどは綺麗にリフォームされているのだが、その入り口の自動ドアが、これまた、他ではお目にかかれないギミックになっていて、感心)。

今回の出演者は、矢野顕子と大橋トリオが横浜場所から続投。そして、ハナレグミに代わってKIRINJIが加わるという布陣。

一番手はKIRINJI。1996年に堀込兄弟のデュオでスタートし、その後、バンドとなり、今では兄の堀込高樹のソロ・プロジェクトになっている(彼らに関する私の知識は、弓木英梨乃やコトリンゴが在籍していたバンド期からアップデートされていなかった…)。ということで、今回は堀込高樹のギター弾き語り。独特のポップ・センスで聴かせる。一方、MCは結構な毒舌ぶり。「Rainy Runway」の演奏では、2度続けて歌詞が飛んでやり直し、ファンの手拍子に支えられて3度目でようやく完走。マイペースな人、という印象だ。

KIRINJIが退場し、ステージ上にグランドピアノが搬入される。その間、バックには"Don't Sit Under the Apple Tree (With Anyone Else But Me)"などが流れている。

そして、お目当ての矢野顕子が登場。「わたしのバス(Version 2)」、「ラーメンたべたい」、「魚肉ソーセージと人」、「音楽はおくりもの」、「GREENFIELDS」、「ひとつだけ」を演奏(横浜場所とは、3曲目が「SUPER FOLK SONG」から「魚肉ソーセージと人」に代わっている)。今回も、自分のファンだけが集まる単独コンサートでは無い事を意識した「他流試合モードの矢野顕子」。明瞭さを心掛けているような歌唱と、とても丁寧にプレイしている印象のピアノが、非常に良い。特に「GREENFIELDS」の演奏は鮮烈。2022年夏の来日公演を締めくくるにふさわしい、素晴らしいパフォーマンスだった。

三番手、今回も、大トリは大橋トリオ。場内にバードコールの音が響く(ファンが奏でるバードコールは、遠くで聴いている分には微笑ましいが、間近で鳴らされると、結構うるさい)。マルチ・プレイヤーの彼は、ピアノ、鍵盤ハーモニカ、ギターを演奏。才人ぶりが伝わってくるパフォーマンスは前回通りだが、弾き語りイベントに出演することに対する緊張は、まったく緩和されていないらしく、終始、やや取り乱し気味のMCに人柄が表れている。

アンコールに、大橋トリオ再登場。そして、矢野顕子も呼び込み、「」(二人が、10年前にコラボレーションし、レコーディングした曲)。二人の歌声の重なり。そして、矢野顕子のピアノと大橋トリオの鍵盤ハーモニカの絡み。今回もまた、うっとりするほど美しい共演だ。

残念ながらKIRINJIの再登場は無く、これで全編終了。日頃、聴く機会のないお二人の好演も良かったが、やはり、矢野顕子の極めてクオリティの高い弾き語りと、滅多に聴くことが出来ない「窓」。大阪遠征の価値は十二分にあった。これで、今年の夏は終わりである。


"Bullet Train"22.9.3

伊坂幸太郎の小説「マリアビートル」を原作にした映画を観てきた。

同じ列車に乗り合わせた殺し屋たちのすったもんだを描くストーリーだが、原作の舞台は東北新幹線。それが、映画では東海道新幹線に改変。ただし、現実の新幹線では無く「ヘンナ、ニッポン」を走る「スゴクヘンナ、ダンガンレッシャ」である。"Deadpool 2"でお馴染み、David Leitch監督らしい、キッチュで、ハチャメチャな日本が描かれている。しかし、そのさじ加減が、日本人も笑い飛ばして観ることが出来る絶妙さ。この感覚、大好きだ。

ストーリーも、かなりぶっ飛んでいる(私は未読だが、映画のストーリーは、クライマックスは別として、原作をかなり踏襲しているらしいが)。しかし、意外に、しっかりと伏線が張られている箇所も多く、一筋縄ではいかない。荒唐無稽さと緻密さのさじ加減もまた、絶妙だ。この辺りもまた、David Leitch監督らしいと思う。この感覚、好きなのである。

主演はBrad Pitt。不運につきまとわれセラピー通いをしている、どちらかと言えば情けない主人公を楽しそうに演じている。カメオ出演的にSandra Bullockも登場するが、元々は彼女の役はLady Gagaで製作準備が進んでいたらしい。しかし、Lady Gagaが出演しなくなり困っていたところに名乗り出てくれたのがSandra Bullock。その恩義を感じたBrad Pittは、"The Lost City"に出演したという裏話があるらしい。あの映画でのBrad Pittの弾けぶりを思い出すとニヤニヤしてしまうし、本作でも、二人の仲の良さが画面から伝わってくるようで微笑ましい。

しかし、真の主役は、真田広之と言いたくなる。それほどの大活躍。単身、ハリウッドに乗り込み、日本人俳優の地位確立のパイオニアとして地道に頑張ってきた事で知られる彼だが、今作は、その集大成と言えるかもしれない。台詞もアクションも、真田広之の俳優としての力量を存分に見せつけてくれる。何だか、観ているこちらまで、誇らしくなってしまう。



大阪丸ビル大阪では、マルビル(東京のは「丸の内」ビルディングだが、大阪のは、実際に丸い形状をしたビル)の大阪第一ホテルに宿泊。ビル老朽化による立替で2023年春には営業終了が決定してるホテル。1976年の竣工当時は、周囲に高層ビルは無く、まさにキタのランドマークだった頃から知っているだけに、感慨深いものがありました。まぁ、ホテル自体は、普通のビジネス・ホテルなのですが(大阪駅至近の立地で、コスパは高い)。