IN/OUT (2017.11.19) |
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キレる中高年が、しばしばニュースに取り上げられています。 シンプルなサラダが出てくるまで30分待たされ、「オーダー、通ってますか?」との問いに、「今、盛り付けてます」と、蕎麦屋の出前状態の返答を、お澄まし顔のブルーノートの店員にやられた日にゃ、私もキレる一歩手前になってしまう今日この頃です。いや、一応、グッと堪えて、大人の対応で済ませましたが 最近のIN「アン・イヴニング・ウィズ八代亜紀 『夜のつづき』発売記念ライヴ」@ブルーノート東京 (17.11.13)八代亜紀の公演を観に、ブルーノート東京に行ってきた。演歌の大御所、八代亜紀が、小西康陽のプロデュースで製作したジャズ・アルバム「夜のつづき」の発売記念である。これは、私も発売時にかなり愛聴した2012年の「夜のアルバム」(同じく、小西康陽のプロデュース)の続編にあたる。 矢野顕子の公演を中心に何度も訪れているブルーノート東京だが、この日は、やはり客層の雰囲気が違う。取れた席が右サイド(矢野の公演だと、ピアノに近い左側の席一択なのだ)だったこともあり(あと、注文したオーダーが、中々サーヴされないトラブルも有り)、どことなくアウェイ感を覚えながら、開演を待つ。 まず、ピアノ&マリンバ、ウッド・ベース、ギター、ドラムス、サックスの5人のバックバンドが演奏を始め、しばらくして八代亜紀登場。ジャズのド定番「Fly Me to the Moon」から、歌謡曲「涙の太陽(安西マリア)」、フランス映画(1961年)の主題曲「赤と青のブルース("Saint-Tropez Blues" / Marie Laforêt)」、1963年の鈴木道明作詞・作曲の歌謡曲だが、盗作騒動でも有名な「One Rainy Night in Tokyo(越路吹雪・Branda Leeなど)」など、さすが小西康陽(ご本人も客席にいた)という感じの選曲だ。ただし、アレンジは、渋谷系 / ピチカート・ファイヴ系という訳では無く、いかにも深夜のジャズという大人の雰囲気。これに、演歌を歌うときよりもコブシを抑えた八代亜紀の歌声が被さる。マイクを身体からかなり離したオフマイク状態で歌う時でも、細かいニュアンスまで伝えきる、その表現力と声量に驚嘆。さすが大物演歌歌手。 衣装替えして、「雨の慕情」(ジャズ・アレンジも良かったが、コブシを効かせたド演歌版も聴いてみたかったな)。ここから、バックバンドにトランペッターが追加され、「黒い花びら(水原弘)」「Work Song(Nat Adderley)」「カモナ・マイ・ハウス(Rosemary Clooney・江利チエミ)」と続き、本編ラストは「帰ってくれたら嬉しいわ("You'd Be So Nice to Come Home to")」。 そして、アンコールは「舟歌」。ウッド・ベースを活かしたジャズ・アレンジで、これまた良い感じだが、有名演歌をご本人が歌っているので、ちょっと物足りない気もするなと思っていたら、最後の最後、「ダンチョネ節」のところで、見事なコブシ!巧いアレンジだ。そして、日本人には、沁みるよなぁ。 初めて生で観た八代亜紀だが、その歌唱力は、流石の一言。一方、MCになると、天然というか無邪気というか…。かなり、ぶっ飛んだ喋り方だ。そのギャップに、この人は、本当に天才肌の演歌歌手なんだなぁと思った次第。 "Poesía Sin Fin" (17.11.18)御年88歳、Alejandro Jodorowsky監督の新作を観てきた。邦題は「エンドレス・ポエトリー」。監督自身の少年時代を描いた前作"La danza de la realidad(リアリティのダンス)"の続編となる自叙伝である。前作で登場した厳格な父親も、全てのセリフがオペラ調になる不思議な母親も、同じ役者が演じているし、映画の中に、現在のJodorowsky監督が登場するメタな作りも共通している。 前作は少年時代だったが、今作は、青年期のJodorowskyがサンディエゴの町で芸術家仲間と知り合い、詩人としての生き方を模索し、ついにはパリへの移住を決意するまでが描かれる。例によって、どこまでが本当にあったことで、どこからが監督が夢想したことなのかは定かでは無い。鮮烈な色彩と共に溢れ出すイメージの奔流に、ただただ飲み込まれるばかりだ。 青年期の自分を描くと言うことで、やや露悪的になっているのかと思えるところもある。また、父親との確執、そして受容を、88歳のJodorowsky自身が画面の中に登場して語るシーンなどは、歳を重ねた今だからこそ描写できるのだろうと思う。そういった私小説的な作品は、下手な描き方だと、他人から観て面倒くさいだけの映画になりかねない。それを、魔術的かつ豊潤なイメージに昇華させてしまうJodorowsky、恐るべしである。この機会に、どこかの映画館で"El Topo"のリバイバル上映をやってくれないかな。 "Logan Lucky" (17.11.18)一時、映画界からの引退を表明していた Steven Soderbergh監督の復帰作を観てきた。 舞台はノース・キャロライナとウェスト・ヴァージニアの田舎町。主人公は、高校時代はフットボールの天才クォーターバックとして将来を約束されていると思われていたが、足の怪我で大学進学の夢を絶たれ、故郷でくすぶったままの生活を送っている。彼の弟は、イラク戦争で片腕を失ったバーテンダー。美容師の妹はスピード狂のカーマニア。この冴えない田舎者兄弟が、一攫千金を狙い、カーレース場の巨大金庫を狙う、というお話。Soderbergh監督の代表作"Ocean's Eleven"も金庫破りに挑む犯罪映画だったが、ラスベガスを舞台に、登場するのはスペシャリスト集団。しかし、今作の舞台は田舎町で、首謀者達は人生の落伍者の寄せ集め、というところがミソ。 役柄上はパッとしない兄弟だが、演じているのは、Channing Tatum、Adam Driver、Riley Keoughという豪華なメンバー。さらに、彼らが仲間に引き入れた金庫破りのプロが、Daniel Craig。007では英国紳士を演じていた彼が、アメリカ人の凄腕の犯罪者(ただし、全国区ではなく、あくまでも、舞台となっている田舎での「凄腕」)役で弾けている。 実のところ、私は、Soderbergh監督に対しては、これ見よがし的な演出テクニックが鼻につく、という印象を持っていて、ちょっと反感を覚える程なのだが、今作でも、その手腕は見事に決まっている。この手の映画の常道として、当然、ラストにはドンデン返しが待っているのだが、それをテンポ良く見せてくれる演出は、とにかく巧い(こういうの、下手な監督が撮ると、説明過剰でスピード感が無くなっちゃう)。しかも、脚本がとても良く出来ている(この脚本を読んで、TV業界に軸足を移していたSoderberghは映画界への復帰を決意したそうだ)。一見、適当な計画で、トラブルばかり起きているように見える金庫襲撃プランが、中々どうして、よく練られているのだ。映画の終盤、捜査に乗り出したFBIとの駆け引きも見物。 ということで、犯罪映画として、さらに家族の絆を描く映画としても、とても良く出来ているのだが、この作品には、もう一つ、ウェスト・ヴァージニアのご当地映画としての側面もある。John Denverが歌う"Take Me Home, Country Roads"が効果的に使われ、その土地に縁もゆかりも無い私ですら、何故か、ウェスト・ヴァージニアへの故郷愛に涙ぐんでしまいそうになるシーンがあるのだ。これがまた、良いシーンで、悔しいけどSoderbergh監督、やっぱりテクニシャンだ。 別の日には、タクシーの運転手に、分かりやすいかと思って、某有名企業の本社ビルの近くと言ったら、その某有名企業じゃ無くて、全然別の場所にあるその会社の子会社の事務所に連れて行かれそうになり(彼は、カーナビで調べたみたいだ)、どうも最近、ついていない… |