IN/OUT (2022.9.11)

Elizabeth女王の訃報が世界中のトップニュースに。あまり、王室や皇室というものに関心が無い私でも、ロイヤル・ファミリーの存在意義は無視できないなぁと感じます。


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"YES - Close to the Edge 50th Anniversary Tour in Japan" @ Bunkamura オーチャードホール22.9.5-6

Bunkamura オーチャードホールYESの傑作アルバム”Close to the Edge(邦題「危機」)”の発売50周年を記念したツアーの東京公演 2 daysを観に、Bunkamura オーチャードホールに行ってきた。

”Close to the Edge”は、恐らく、私が最も回数を聴いたLPレコードだ。その50周年記念ライヴとあれば、行かざるを得ない。

来日メンバーは、年齢順に、Steve Howe(guitar / 75歳)、Geoff Downes(keyboards / 70歳)、Jay Schellen(drums / 62歳)、Billy Sherwood(bass / 57歳)、Jon Davison(vocal / 51歳)。

このうち、”Close th the Edge”が発売された1972年時点の在籍メンバーは、Steve Howeだけだ。これで、有り難みがあるのか?という、もっともな疑問はある。さらに言えば、2019年のYES 50周年記念コンサートに3日間通った時も、その内 1日は「アンコールに応えて傑作『危機』完全再現」という企画だった。本当に、今回の公演に有り難みがあるのか?と、さらに自問してしまう。が、結局、ある!と前のめりで言い切ってしまうのが、プログレ沼の恐ろしさなのである。

1日目、私の席は、ほぼ左端。Steve Howeの真正面だ。開演すると、まずは、このツアーに参加することが発表されていながら、今年の5月に逝去したAlan Whiteの追悼ヴィデオが”Turn of the Century”("Going for the One"収録)をバックに流される。やはり、来るべきライヴだった。

そして、YESのライヴではお馴染み Stravinskyの”The Firebird Suite”が流れる中、メンバー登場。演奏が始まる。

”On the Silent Wings of Freedom”("Tormato"収録
"Yours Is No Disgrace"("The Yes Album"収録
"Does It Really Happen?"("Drama"収録
Steve Howeのギターソロで”To Be Over”("Relayer"収録
"Wonderous Stories"("Going for the One"収録

ここで、7年ぶり、2021年に発売された最新アルバム”The Quest”から、"The Ice Bridge"。
懐メロ期待の観客が多いと思われるライヴでも、新曲をセット・リストに入れてくるところが、現役バンドの意地。いや、実際の所、Steve Howeプロデュースによるこのアルバム(レコーディング・メンバーは、このライヴのメンバー & Alan White)、とても良い出来の力作なのだ。

「このアルバムから、アートワークに Roger Deanを起用した」という紹介で、"Heart of the Sunrise"("Fragile"収録
これが、さらに会場を熱くする。

しっかり会場に熱が満ちたところで、いよいよメイン・イベント。アルバム”Close to the Edge” 全曲演奏。
"Close to the Edge"
"And You and I"
"Siberian Khatru"

アンコールは、ド鉄板曲の連打。
"Roundabout"("Fragile"収録
"Starship Trooper"("The Yes Album"収録

やや短めだが、満足のセット・リストである。

今回は、完全にSteve Howeが主役だ。他のメンバーも、彼を引き立てることに気を配っているように見えるし、なによりもHowe自身が、すこぶる元気だ。1曲の中でエレキ・ギター2台とペダル・スティール・ギター、合わせて3台の楽器を弾きこなす、お得意の妙技を披露するし、時には、演奏中にジャンプし、客席に向けたサービスもたっぷり。Jon Davision、Billy Sherwoodとのコーラス・ワークも見事。MCもほぼ全て彼が担当。この人、割に若い時から老け顔だったが、今では、本当におじいちゃん世代。しかし、見事にバンドを牽引する活躍ぶりだ。もちろん、必ずしも全盛期のままの超絶技巧とは行かないが、全盛期が凄すぎた訳で、今でも超一流のプレイであることに間違い無い。ただ、流石にジャンプする姿には、こちらがヒヤヒヤしてしまう…。

それ以外のメンバーは、アルバム ”Close to the Edge”には参加していなかった訳だが、ヴォーカルのJon Davisionは、オリジナル・メンバーのJon Andersonとそっくりの声質なので、違和感は少ない。ベースのBilly Sherwoodは、Chris Squireを完璧に再現できる才人なので、これまた違和感無し。ドラムスのJay Schellenも、昔からYESファミリーとは繋がりがあり、最近のライヴではAlan Whiteの代役を務める事が多かったので、無問題。

唯一、私としてはGeoff Downesのキーボードには、ちょっと「コレジャナイ感」を覚えてしまう。もちろん、彼が参加している"Drama"は好きなアルバムだし、The BugglesやAsiaでの活躍にも好感を持っている。ただ、”Close to the Edge”のキーボードは、アナログ・シンセサイザーの魔術師、Rick Wakemanの厚みと過剰感がある音じゃないと駄目だ。Geoff Downesの味付けは合わないなぁ(個人の感想です)。

とにもかくにも、1日目は大興奮のうちに終了。

そして、2日目。私の席は、若干、中央寄りにはなったが、やはり左側=Howe側。セット・リストはほぼ同じで、Steve Howeのソロのみ、”Clap”("The Yes Album"収録)に替わった。このソロは、会場の盛り上がりも含め、Howe自身も納得の、充実した演奏。

しかし、全体を通してみると、やはり、75歳のSteve Howeには疲れもあったか。前日に比べると細かいミスもあったし、”Roundabout”の途中で、照明が目に入り、ギターの弦が見えなくなるというトラブルもあった。ただ、その後のリカバリーは、周囲のメンバーのフォローも合わせ、バッチリ。最後の”Starship Trooper”の終盤は、舞台中央でギターを弾きまくる、まさにHowe祭り。他のメンバーは、完全に彼の盛り上げ役に(喜んで)撤していたと思う。

ということで、来日ツアーはこれが最後かも知れないSteve Howeの勇姿をしっかり目と耳に焼き付けたのである。いや、この元気さなら、まだまだ行けるかもしれない。まずは、来週の追加公演だ。


"Délicieux"22.9.8

フランスで、世界初のレストランを作った男を描いた映画を観てきた。邦題はカタカナにビックリマークを付けて「デリシュ!」。美味しいという意味であり、映画に登場する料理の名前でもあるフランス語。

舞台は、1789年、革命前夜のフランス。貴族に雇われた料理人の主人公は、ジャガイモを使った創作料理(これの名前が"Délicieux")を食事会に出したことを叱責される。当時のフランス貴族にとって、地下で採れるジャガイモやトリュフは豚の餌扱いだったのだ。自らの料理に自信を持っていた主人公は、頑として謝らなかったため、解雇される。息子と共に田舎の実家に帰った彼は、料理への情熱を無くしてしまうが、そこに弟子入り志願の謎の女性が押しかけてきて…、というお話。実話を元にしたストーリーということだが、どこまでが史実で、どこからがフィクションか定かでは無いし、品性下劣な貴族と、誇り高き料理人の対比は、ありきたりではある。しかし、中々どうして、ウェルメイドな、心温まる作品だ。

美食は、料理人を囲い込んだ貴族だけの楽しみ。宿屋で簡単な食事が供されることはあっても、皆が集える外食の場というのは存在しなかった時代に、世界初のレストランが開業する。その瞬間に立ち会えることには(映画のスクリーン越しとはいえ)、多幸感すら覚える。さらに、フレンチ・フライ誕生の瞬間も見ることが出来るのだ。眼福である。

主人公と謎の女性も好演だが、「社会契約論」などルソーの著作を愛読する文系青年である主人公の息子が、レストラン開業に重要な役割を果たし、良い味を出している。また、舞台となるフランスの田舎を彩る四季の風景が、とても美しいのも印象的だ。世界初のレストランは、パリのような都会では無く、オーベルジュとして始まったのだ。美味しいものが好きな人(つまり、殆ど全ての人)が、好感を持つ映画だと思う。


"LOVE LIFE"22.9.9

矢野顕子の「LOVE LIFE」にインスパイアされた映画を観てきた。日頃、日本映画は食わず嫌い気味なのだが、矢野顕子の音楽を基にした深田晃司監督の作品となると、観ざるを得ない。熱烈な矢野顕子ファンである監督のことは、以前から存じ上げているのだ。

木村文乃演じる主人公は、前夫に突然、家出され、離婚。その後、今の夫と再婚し一年が経つ。夫と連れ子との関係は良好だ。広場を挟んで向かい合わせに建つ団地の別棟には、夫の両親が住んでいるが、息子の結婚相手が子連れのバツイチであることを、義父はいまだに快く思っていない。また、夫の職場には、彼の元カノが依然として働いている。

こういった人間関係が描かれていく映画冒頭は、いささか辛気くさいのだが、ここから次々と予想外の事件が起こり、登場人物達も皆、予想外の行動に走る。正直、誰にも感情移入出来ない(第一印象最悪の、田口トモロヲ演じる義父が一番良い人に見えてくる…)。ただ、この不可解な行動に走ることこそ、誰もがが抱える複雑性(関西弁で言う、「難儀な」感じ)の現れだ。その辺が見えてくると、非常に深みがある力強い作品だと実感する。

素晴らしい作品だと思う一方で、自分の得意分野の映画では無い。矢野顕子のあの曲から描くイマジネーションとしても、ちょっと私の感覚とは違う。もちろん、聴く人によって、全く違う想いを抱くというのは、その曲の懐の深さの証だとは思う(矢野顕子自身、「作品を発表した後は、自分の手を離れたと思っている」という発言をしている)。いずれにしても、無条件に多数の人にお勧めできる映画とは言い難い気がする。ただ、見終わった後も、長く引っかかりが残リ続ける作品なのは間違いない。

と言うことで、いささか複雑な印象ではあるが、この映画で最も心を揺さぶられたのは、ラスト近く、タイトルの「LOVE LIFE」の文字が画面に映し出される瞬間だ。監督がこの映画に込めた「想い」と「企み」が全て結集した、悪魔的に凄いとすら思えるタイミング。これぞ、映画的衝撃。そして、ここから流れる「LOVE LIFE」。映像とのシンクロが見事。やはり、しみじみ名曲である。

あと、小ネタでは、意外なシーンで、パール兄弟の「世界はゴー・ネクスト」が使われているところに反応してしまった。この曲、矢野顕子もカバーしているのである。さすが、深田監督!



英国王室は、女王陛下と007がスカイ・ダイビングしたり、パディントン・ベアとお茶を楽しんだりというビデオを作る広報上手。そういう企画にちゃんと乗っかってきた女王には、好感を抱かざるを得ないですね。R.I.P.