IN/OUT (2022.12.18)

冬の矢野顕子強化月間、引き続き、絶賛継続中。さらに、上原ひろみ嬢祭りも開幕。慌ただしい年の瀬です。


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「BLUE NOTE TOKYO presents Hiromi JAPAN TOUR 2022 "SAVE LIVE MUSIC FINAL」@ 東京国際フォーラム ホールA22.12.17

東京国際フォーラムコロナ禍に苦しむライヴ業界救済を目的に、上原ひろみが立ち上げた企画「SAVE LIVE MUSIC」。2020年8月から、ブルーノート東京を舞台に100回以上の公演を重ねてきたが、ようやくライヴが復活してきた2022年、そのFinalとしてホールツアー公演が開催されている。この企画で誕生した弦楽四重奏とのユニット「上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテット」を軸に、会場毎に、ソロ、タップダンサー熊谷和徳との共演、そして、矢野顕子との共演が披露される。今回は、矢野顕子との共演がある東京国際フォーラムに行ってきた。

東京国際フォーラム二部構成の第一部が矢野&上原の共演である。ステージ上には、向かい合わせに2台のグランドピアノ。二人揃って登場し、矢野顕子が向かって左のSteinway、上原ひろみが右のYAMAHAで演奏開始。

まずは、「ラーメンたべたい」。様々なアレンジで演奏されてきた曲だが、私は、この上原ひろみとの共演パターンが一番好きだ。上原ひろみのピアノがキレキレなのはいつも通りとして、矢野顕子の歌唱もピアノも絶好調。上原ひろみにすっかり乗せられているような感じだ。もちろん、ピアノ演奏に関しては、手数の多さとスピードで上原ひろみが圧倒的だが、矢野顕子が的確に厚みを加えている印象だ。お二人でリハーサルする時間は限られていたと思うのだが、見事な息の合い方だ。

上原ひろみの、この企画にかけた熱い想いがこもった素晴らしい挨拶の後、 「DREAMER」。基本、しっとりした曲ではあるが、中盤に上原ひろみがぶっ込んでくる、鍵盤を引きちぎる勢いの演奏と、矢野顕子のエモーショナルな歌唱が堪らない。

次は、「雪やこんこ、あられやこんこ」でお馴染みの童謡「雪」と、イングランド民謡「Greensleeves」を合体させた「こんこんスリーヴス」。このライヴのために新たに用意された作品だ。日本の歌と西洋の歌の合体技は、矢野&上原ライヴの恒例なのだ。そして、同様の趣向で「Don't Sit Under the Apple Tree (With Anyone Else But Me)」と「リンゴの唄」を合体させた 「リンゴ祭り」。徹頭徹尾、楽しい演奏だ。矢野さんは「皆さんは楽しいでしょう。演る方は大変なのですよ」と言っていたが…

第一部のラストは、 「飛ばしていくよ」。矢野顕子のオリジナルはテクノ・アレンジだが、ピアノ演奏でそれ以上の勢いを叩き出す上原ひろみ。それに呼応して攻めまくる矢野顕子のピアノ&ヴォーカル。二人で飛ばしまくりの熱演だ。これで第一部終了。演奏曲は5曲だが、それぞれ、たっぷりと演奏されるので、ほぼ1時間。

20分間の休憩の間に、YAMAHAのグランドピアノがステージ向かって左に移動。第二部は、上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテットである。まずは、西江辰郎(1st ヴァイオリン)が一人で登場し、「Sliver Lining Suite」組曲の1曲目「Isolation」を奏で始める。続いて、上原ひろみが登場し、さらに、向井航(チェロ)、ビルマン聡平(2nd ヴァイオリン)、中恵菜(ヴィオラ)と、一人ずつ登場しては音を重ねていく趣向。この5人編成をもう一度見ることが出来て、本当に嬉しい。そして、そのまま「Sliver Lining Suite」組曲「Isolation ~ The Unknown ~ Drifters ~ Fortitude ~」をしっかり演奏。ストリングス組の皆さんのアドリブにも工夫が凝らされ、去年の暮れに観た時よりもさらに進化した演奏だと思う。特に「Fortitude」に入るところのカッコ良さが凄かった。演奏後は当然のスタンディング・オベーションだ。

続いて、「Jumpstart」。合間に「ジングルベル」のフレーズを入れたりしつつ、ピアノとストリングスの掛け合いが楽しい。そして、本編最後は、この編成では初めて聴く「MOVE」。これまた、カッコ良し。

アンコール。上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテットの皆さんがツアーTシャツに着替えて登場。上原ひろみが「やっと、この4人に満席のお客さんを見せることが出来た」と語るのに、胸が熱くなる。確かに、私が彼らを最初に観た2020年12月のブルーノート東京公演は、観客数を40%に抑え、食事の提供も無かったなぁ。さらに、矢野顕子もTシャツ姿で再登場し、彼女のヴォーカル入りの 「Moonlight & Sunshine(月と太陽」featuring 西江辰郎(アンコールは、会場毎に、メンバーの1人をフィーチャーする趣向なのだ)。久しぶりの矢野顕子と上原ひろみの共演だけで感激していたのに、さらに、ザ・ピアノクインテットとの共演が観られるとは!感無量なのだ。

矢野顕子は退場し、最後は「Ribera Del Duero」。ヴァイオリンとヴィオラの3人は席を立ち、ステージ上を自由に行き来しながらの演奏。一人ずつがたっぷりとソロを聴かせてくれるが、皆、楽しそうにキレキレのアドリブを披露。特に西江辰郎、素晴らしい切れ味だ。全ての演奏が終わった瞬間、東京国際フォーラム ホールA 5千人の観客が、弾かれたように立ち上がってのスタンディング・オベーション!!本当に素晴らしい音楽体験だった。


”Men”22.12.17

癖の強いホラー映画を観てきた。

Jessie Buckleyが演じる主人公の女性は、夫に自殺されて負った心の傷を癒そうと、田舎のカントリーハウスを借りる。緑溢れる自然と、クラシックなお屋敷。いかにも田舎者丸出しの屋敷の管理人はご愛敬として、滑り出しは上々と思われたが、彼女の周囲で次々と不穏な出来事が起こり始め…。というお話。

イギリスの自然豊かな田舎を描く映像が、とても美しい。一方、物語の方は、不気味な雰囲気たっぷりに、予測不能な方向に展開していく。初めは、単なる不条理劇かと思ったのだが、グリーンマンなど、土着の民間信仰に根ざしたようなおぞましさが表出してくる。どこまでが現実かも混沌とし、訳の分からないまま怖さが増幅していく。

しかし、この恐怖の本質が、ミソジニー(女性嫌悪・女性蔑視)に追いつめられる女性心理にあることが、徐々に分かってくる。この辺りの仕掛けは、おそらく、女性には早い段階でピンとくるのかもしれないが、私のような鈍感な男性には、物語の終盤になって、ようやく見えてくる。そういう観点で振り返ると、主人公が陥った地獄巡りのような恐怖も、なるほどと腑に落ちるし、Rory Kinnearが一人何役も演じていることも(彼が、複数形のMenなのだ)巧みだなと感心する。ただ、ラストの展開は、さすがにトンデモが過ぎるような気もするが…

見終わってスッキリとはいかず、観る人を選ぶ作品だと思うが、はっきりした主張と強烈な個性を持った映画だと思う。


”Avatar: The Way of Water”22.12.18

James Cameron監督の新作を観てきた。”Avatar”の続編である。

鑑賞したのは、丸の内ピカデリーのドルビーシネマ。ハイフレームレートの3D上映だ。目が疲れるので、3Dは好きでは無いのだが、本作は、3D、それも、ハイフレームレート(HFR 48fps)での上映を観なければ、その映像クオリティは実感できないと考えたのだ。

果たして、映像は素晴らしい。驚異的だ。地球とは異なる生態系を持つ異星が舞台で、主要登場人物も人類とは違うのだが、画面の隅々まで徹底した作り込みがなされ、3D効果も含め、とにかくリアル。驚異的なCGのおかげで、御年73歳のSigourney Weaverが、14歳の少女役ということも可能になっている。もっともこれは、技術力だけのおかげでは無い。6分以上息を止められるようになるまで軍のダイバーと共に息止めの訓練をこなした上で、水中でのモーション・キャプチャーに臨んだということだから、とんでもない役者根性だ。

ということで、前作をあらゆる面で上回っているのは間違い無い。主な舞台が、前作の森林から、海中になったには、進化した特撮技術をより強調するためだろう。この映像に関しては、いくら誉めても足りないぐらいだ。凄いというようより、ほぼCGで作られているはずなのに、どこまでもリアル。3D効果も、わざとらしい物ではなく、リアリティを補強するものだ。

ただし、前作以上ということだと、ストーリーの酷さも前作を凌駕している。James Cameronは、”Aliens”も”Terminator 2"も"Titanic”も、ストーリーの貧弱さを圧倒的な特撮効果だけでねじ伏せてきたという印象がある(特に、”Aliens”と”Terminator 2"は、どちらも前作=シリーズ1作目の良さを台無しにしてくれたと思っている)。”Avator”の第一作も、ストーリーやSF設定には大不満だったが、今作は、それを上回るポンコツぶりだ。あまりにも稚拙な設定と凡庸なストーリー。3時間12分の長尺の間、一体、何を見せられているのだ?という気がした時間も長い。ただし、映像の力強さ故、眠くはならなかったが…。まぁ、この手の映画をあまり貶すのも、通ぶった嫌みになりそうだからなぁ…

あと、前作で感じた「James Cameron、実はジブリ好き疑惑」も、今作でさらに高まった。絶対、影響を受けていると思われる箇所、多数だった。



ライヴ遠征も何度かあるので、今日の東海道新幹線の運休のニュースには、背筋の凍る思いもする今日この頃です。