IN/OUT (2020.8.30)

ライヴ・イベントの配信が増えてきましたが、私はイマイチ積極的になれません。どうしても、配信は代替手段という位置付けで、可能ならばライヴの空間に身を置きたいと思ってしまいます。しかし、今後、この状態が継続すると、そもそもライヴ空間を知らず、配信で鑑賞するのがデフォルトという層が増えてくるのでしょう。それも「新常態」なんですかね。


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"SAVE LIVE MUSIC" Hiromi ~Spectrum~@ブルーノート東京20.8.28

コロナ禍で苦境が続くライヴ業界。その救済に向けて、上原ひろみがブルーノート東京で16日間32公演、4種のプログラムで特別長期公演を行う。その第一弾プログラム、“~Spectrum~”を観に行ってきた。敢えてこの時期にソロで長期公演。ひろみ嬢の侠気に応えねば。

彼女の公演、特にブルーノート東京のような小さなハコでは 、チケット争奪戦は熾烈を極め、秒殺が当たり前。公演数が多いとは言え、密を避けるため座席数は半減以下。果たして取得可能かと不安を抱えつつ予約戦に臨んだのだが、今、ライヴに出かけようという人も減っているのだろう。無事にゲット。

行ってみると、テーブル・セッティングを大きく変え、皆、正面を向く配列。そんな中、私は自分史上、最高にステージに近い席だ。嬉しいが逆に緊張もしてしまう。開演前に流れるビデオでは、ひろみ嬢のコスプレ()も楽しめるサプライズ付き。

20時45分、演奏が始まる。この距離で観ると、彼女の腕の筋肉の引き締まりぶりに驚愕。そこから繰り出されるのは、凄いとしか言い様が無いプレイだ。演目は、昨年、10年ぶりにリリースされたソロ・アルバム"Spectrum"から。アルバム・リリースに合わせて開催された昨年のツアーにも3回足を運んでいたので、耳に馴染みの曲ばかりだが、小さいハコで間近で観る生演奏は格別だ。彼女が演奏する姿は、何かが憑依しているかのような没入ぶりなのだが、近くでその表情まで観ていると、外から何かが憑依しているのではなく、自らの内側から噴出するパッションのボリュームが巨大なのだと実感する。唸り、飛び跳ね、右足を引きつらせ、鍵盤を引きちぎる勢いの演奏。

ホールコンサートでも大盛り上がりになった本編ラストの"Rhapsody in Various Shades of Blue"。演奏時間こそ短いが、今回も凄かった。どこまで行くのかと思うほど自由な展開に、時折茶目っ気に溢れたアレンジも加えつつ、最後の大団円に収斂していく。

アンコール。衣装の上からこの公演のために作られたTシャツを被り、走って再登場したひろみ嬢。そのまま高速プレイ。そして22時ジャストに演奏終了。

ブルーノート東京残念なことに、今のブルーノート東京では食事が出ない。その代わりに、この公演ではディナーボックスをテイクアウトできる(予約制)。今回は「Spectrum Box ~“Spectrum”をイメージした色彩溢れるディナーボックス~」。この企画への共感の意思を込めて購入したのだが、帰宅後、自宅で食べて驚いた。めちゃくちゃレベル高し。演目に掛けたカラフルな彩りのサンドウィッチ、穀物のタブレ(クスクスを使ったフランスのお惣菜)、エビのカクテルにローストビース等々。ブルーノート東京の料理スタッフの底力を堪能。


"Official Secrets"20.8.29

Keira Knightley主演の実話に基づいた映画を観てきた。

2003年、イラク戦争開戦を進めようとする米国が、国連安全保障理事会理事国代表に対する通信傍受を英国情報機関(GCHQ : Government Communications Headquarters)に依頼。そのメールはGCHQ職員 Katharine Gunによってリークされ、英国の新聞 The Observerに”US dirty tricks to win vote on Iraq war”として大々的に掲載された。この実際の事件をリアルに描く。国家の不正を知ったとき、規則を破ってでも良心に従って行動するべきかという問題(国家を企業に置き換えれば、我々にとっても重い問いかけだ)を正面から訴える社会派作品だ。

彼女のリークを受け、それが本物かフェイクか追求し、政府を敵に回してでも真実を報道しようと奔走する新聞記者や、この戦争自体が違法だと裁判で訴えることで彼女を守り抜こうとする弁護士といったプロフェッショナル達の行動は、文句なしにカッコ良い。

ただ、私には、Katharine Gunが、そこまで高潔な信念を持って行動に至ったようには見えなかった。むしろ、思慮の浅い行動で周囲に迷惑を撒き散らすタイプに見える。「国家では無く、国民に仕える」。彼女の主張を後知恵のように感じてしまうのは私の心が汚れているのか?Katharine Gunに扮したKeira Knightleyがリアルさを追求しすぎなのか?


"Making Waves: The Art of Cinematic Sound"20.8.29

ハリウッド映画の歴史を「音響」の視点で描くドキュメンタリーを観てきた。邦題は「ようこそ映画音響の世界へ」

トーキー時代の幕開けを飾った1927年の"The Jazz Singer"から、2018年 Alfonso Cuarónの"Roma"まで、100年近い映画史を、セリフ、効果音、音楽といった「映画音響」の観点で丁寧に掘り下げる。その証言者として登場する映画人が、Walter Murch("Apocalypse Now"の5.1ch サラウンドを開発)、Ben Burtt("Star Wars"の効果音で有名)、Gary Rydstrom(Spielberg作品やPixar作品のサウンド・デザイン)といったその世界の功労者だけなく、Steven Spielberg、Barbra Streisand、Francis Ford Coppola、Sofia Coppola、Ang Lee、George Lucas、David Lynch、Robert Redford等々、超大物ばかり。引用される映画も膨大。質・量ともに圧倒的なドキュメンタリーだ(引用される映画に黒澤作品が並んでいたり、冨田勲の音楽に言及されたりしているのも嬉しい)。

効果音の録音などの舞台裏も興味深く、 "Top Gun"の戦闘機の音には迫力を増すためにライオンや猿の鳴き声までミックスされている等、意外な事実も多い。そして、映画音響に携わるスタッフ達のプロ意識にシビれる。

映画音響を主題にした映画なので、当然、立川シネマシティの極上音響上映にて鑑賞。シネマシティのサイトにも「この題材、世界中のどこよりも「音狂のシネマシティ」が上映すべき作品なのは明らかだ。当然の【極上音響上映】。レコーディング・スタジオでの音の再現をコンセプトに掲げたゆえに、劇場を「スタジオ」と呼ぶシネマシティのプライドに掛けて贈る」と掲げられている。ホント、「極音」で鑑賞して大正解だった。



会社でも、今年の新入社員は研修はオンライン。会議もテレビ会議がデフォルト。自部門の飲み会の経験も無し。私たちの世代とは大きく違う経験を積んでいます。これもまた「新常態」か。自分には付いていける自信が無いな…