自分は見に行くことができませんでしたが、送っていただいたレポートを掲載しておきます。
2002年5月6日(月) 21:30 / guest artist: Mino Cinelu (perc.) |
2002年6月3日(月) 19:30 / guest artist: Will Lee (bass) |
2002年7月1日(月) 21:30 / guest artist: Chris Minh Doky (bass) |
場所は例年通り、ダウンタウンにあるJoe's Pub。ちょうど地下鉄Green Lineの路線の真上に位置しているせいで、公演中も時折"ゴーッ"という音が響いてきたりして、NYの街ならではの雰囲気です。今年のNYライブは3か月にわたる3回シリーズのリサイタル。しかもNYならではのスペシャル・ゲストを迎えての演奏。この日は僕もかねてからの大ファンであったベーシストのWill Leeということで、公演前から期待に胸を膨らませてました。説明するまでもなく、彼は間違いなく世界で最も優秀で、最も多忙なベーシストのひとり。その確かな技術と豊かな音楽性は数多の音楽家から全幅の信頼を置かれており、矢野さんとも「いろはにこんぺいとう」以来20年を超す長い長い共演歴を持っています。
演奏はいつものようにまず矢野さんのソロで、"Dreaming Girl" から始まりました。一年ぶりに生で聴く矢野さんの歌声とピアノは、いつにも増して確信に満ちていました。三曲を終えたところで、Will Leeが加わって夢の共演のスタート。ベースを弾く前から、優しくて茶目っ気のあるWillの人柄がその佇まいから伝わってきます。矢野さんもとっても嬉しそう。そしてその二人の奏でる音楽といったら!! 「完璧」という言葉が不十分に思えるほどの強く温かで、包み込むようなグルーブ。鳴り響く全ての音に充ち満ちた歌心。スペースを戯れるように飛び跳ね、駆け抜けていくチャーミングなフレーズたち。ピアノの音色もさらに輝きを増して響きます。MCでWillに向かって矢野さんが
"You don't know how much I appreciate that you are playing with me tonight"
と言うと、Willも
"I'll play for you as long as you live"
と答えます。この時、この場所、この瞬間でしか生まれえない音楽。特に私も大好きな "The Letter" と "BAKABON" は珠玉の演奏でした。こんなに「音楽する」ことの楽しさに溢れたライブはいつ以来だったか・・・。
60年代から70年代にかけての名曲を中心にした共演コーナーが終わると、再びソロに戻り "鉄道員"(ちなみにこの日は坂本教授も会場に来ておられました)。そして数曲を経てあっという間にライブは終焉へ。アンコールは二曲、最後は再びWillとの共演で温かいミディアム・スロウの曲。
自分のごく限られた個人的な経験から言うと、93年の大阪で見た "Love Is Here" Tour 以来の矢野さんのベスト・コンサートの一つでした。その他のアーティストでもこれほどの喜びをもたらしてくれたライブはKeith Jarrett、John Scofieldなどごくわずか。私の人生を豊かにしてくれる矢野さんとその音楽に、改めて感謝したい気持ちになりました。
*: with Will Lee
インターネットによる中継をご覧になった方も多いと思いますが、この日のライブは現地時間の午後9時半から始まりました。7月初旬のNYの日の入りは遅く、夜の9時になってようやく暗くなるといった感じの季節です。会場には浴衣を来た日本人女性の姿も見えました。
ジーンズにシャツのリラックスした出で立ちで登場した矢野さん。ライブはこの季節にふさわしい "Children in the Summer" からスタート。ソロで3曲演奏した後にゲストの登場。この日はジャズ・ベーシストのChris Minh Doky。人懐こい笑顔が印象的な彼は、いまやMichael/Randy Brecker、Mike Sternといったジャズ界のスター達から引っ張りだこの人気プレイヤーです。ライブでやるのは初めてという二人の共演。アコースティック・ベースの温かく深い音が会場に響き渡ります。なんと料理の本も出版しているという彼がMCの途中で言った "Eating food is like playing music" という言葉には矢野さんもいたく共感した様子(笑)。彼が奏でる美しいベース・ソロは "Watching You" や"終わりの季節" といったスローなナンバーでひときわ輝いていました。5曲の共演コーナーを経て再びソロへ。 "モスラ" (!)から "ラーメンたべたい" でコンサートは一気にクライマックスに。アンコールの "遠い町で" では身につまされる人が多かったのか(?)会場に静かな感動が広がっていくのが感じられました。
「Message from You」の投稿に「会場の雰囲気はいたってクールでした」とありました。Joe's Pub自体が『ディナーを楽しみながら音楽を聴く』というお店なので、その落ち着いた雰囲気もそう見えた一因かなと思います(日本で言うならBlue Note Tokyoとかに似ているかな)。実際は立ち見の方もたくさんいてこの日も超満員だったのですが、その人達はディナー・テーブルの後ろのスペースにいたので中継では映らなかったのでしょう。会場はそういう、そこにいる全ての人と、それからネットの向こうにいるいろいろな方の視線と想いに包まれて、終始温かい雰囲気でした。
また前回同様、坂本龍一氏と息子の風太さんの姿も見えました。矢野さんも、僕が友達と開場前に並んでいるときに徒歩でライブハウスにやって来たり(ほとんどの人が気づいていなかった!)、教授も自転車で会場から帰っていったり。そんな矢野さん(とその家族)の風景を見ていると「矢野さんにとって音楽をすることと生活をすることとはピタッと一致しているんだなぁ」とつくづく思いました。それは何だかとても自然で、力強くて、素敵な感じでした。もしかしたらNew Yorkという土地の持つ力も矢野さんのそうした姿勢に一役買っているのかもしれません。だとしたら、この場所で、これからもっともっと矢野さんの音楽が楽しめそうな、そんな予感がします。
ご本人のMCによると、今年はいつにもましていろんな所での演奏予定がある様子。ぜひともお体に気をつけて、無事に乗り切られるよう祈ってます。
*: with Chris Minh Doky
アンコールまなべしょういちさん、本多さん、ありがとうございました。