IN/OUT (2023.8.20)

夏の矢野顕子強化月間、始まりました。


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「ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ」@ アーティゾン美術館23.8.19

アーティゾン美術館20世紀初頭から1960年代頃までの、抽象絵画の起源と展開を俯瞰する展覧会を観に、アーティゾン美術館に行ってきた。この美術館の4階から6階の全フロアを使い、約250点の作品を展示するという、この美術館の底力を感じる大規模展である。

展示の冒頭は、Monetなどの印象派や、Andre Derainなどのフォーヴィズム(野獣派)の作品が展示され、そこから抽象絵画に発展していく様子が時系列に分かるようになっている。アプリをスマフォにインストールすれば、オーディオ・ガイドを無料で聞くことが出来るのは親切。抽象絵画の展覧会を多少なりとも理解するには、オーディオ・ガイドが頼りなのだ(展示に添えられた解説文を読むのは、老眼にはキツい)。ただ、個々の作品についての解説ばかりで、全体を俯瞰した展覧会独自の解説が欲しかったところではある。

その物量に圧倒され、かなり疲れる鑑賞体験である。正直、私には、キュビズムぐらいまでは、なるほどと思うところもあるが、ガチの抽象絵画となると、へーという感想ぐらいしか浮かばないものが多い。もちろん、Georgia O'Keeffeなど有名どころの作家による作品は、さすがに迫力がある。

アーティゾン美術館展示のラストは、Rita Ackermannや鍵岡リグレ アンヌなど、現代の作家の作品が並ぶ。ここでは、横溝美由紀の作品が印象的。油彩絵の具を付けた糸をピンと張って、それを弾いて線を描くことで製作しているらしい(本人は、彫刻作品だと捉えているとのこと)。

アーティゾン美術館最後に、美術館の壁に直接、一本、ピシッと線が描かれていて、ちゃんと作品パネルが付いている。こういう、ちょっとお遊び的なものを入れてくれると、抽象絵画が身近に感じられて、ありがたい。

後半は、やや急ぎ足になったが、それでも丸2時間。見応えは十分だった。


”La casa lobo”23.8.20

チリの二人組監督、Joaquín Cociña & Cristóbal Leónによる、ストップモーション・アニメーション映画を観てきた。邦題は「オオカミの家」。あの” Midsommar”のAri Aster監督が絶賛したことで話題になっている。

なお、2018年製作の本編の前に、Ari Asterが製作者に加わったこの監督組の最新短編 ”Los Huesos(邦題「骨」)”が同時上映されている。1901年に製作された作者不明の世界初のストップモーション・アニメ、という設定の14分間の作品だ。正直、意味は分かりづらいが、ストップモーション・アニメと言って想像するような牧歌的な雰囲気とは真逆のダークな世界観が、この後の本編上映の心の準備になる。

さて、本編の物語は、チリに実在するColonia Dignidadにインスパイアされたもの。そこは、1961年に開墾されたドイツ系移民を中心にしたコミュニティ。その指導者のドイツ人 Paul Schäfer Schneiderは元ナチス党員で、子供に対する性的虐待でドイツを追われた人物だ。彼が指導するこのコミュニティ内部では、40年以上にわたり、拷問や性的虐待、さらには殺人が日常的に行われてきたという。まさに、極めて悪質なカルト団体なのである。なお、Paul Schäfer Schneiderは、2005年に逮捕され、2010年に死亡。Colonia Dignidadは、Villa Bavieraと名前を変え、ホテルとレストランを擁するレクリエーション施設になっているそうだ。

主人公は、(Colonia Dignidadを想起させる)チリ南部のドイツ人集落から脱走してきた娘。逃げ込んだ一軒家で2匹の子豚に出会い、その世話をし始めるのだが、森の奥から彼女を探すオオカミの声が聞こえてくるようになる。怯える娘を取り巻く世界は、禍々しく変容していき…、という物語。

正直なところ、ストーリーは無いようなもの。怪しげな集落で洗脳され、認知を歪められた主人公が体験する世界は、ただただ不気味。主人公も、2匹の子豚も、さらには家具や家自体も、次々と形を変え、立体と平面が絡み合う悪夢のようなイメージと、不気味な音の洪水がひたすら続く。面白いかと問われれば、首を横に振らざるを得ない。そこに追い打ちをかけるのが、絶望的なラストの救いのなさ。

ということで、他人には全くお勧めできない映画である。私も、睡魔に襲われた箇所は多い。それでも、悪夢的なイメージは鑑賞後もしっかりと記憶の底に留まってしまう。結果、”OUT”と切り捨てることが出来ない、何ともたちの悪い映画だ。


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”QT8: The First Eight”23.8.20

Quentin Tarantinoをテーマにしたドキュメンタリーを観てきた。2019年の作品だが、日本では、今頃になっての公開である。邦題は「クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男」。

「長編映画を10本撮ったら、映画監督を引退する」と公言しているTarantinoだが、1992年の”Reservoir Dogs”から、この映画が公開された時点の最新作”The Hateful Eight”までで8作品なのが、タイトルの由来になっている(”Kill Bill”は、"Vol. 1""Vol. 2"合わせて1本とカウント)。その後、"Once Upon a Time... in Hollywood"を撮っているので、あと1作品。現在、製作準備中と言われている”The Movie Critic”が引退作になると言われている。

このドキュメンタリーでは、関係者のインタビューで、1作目から8作目まで順を追って、Tarantinoの映画監督としての足跡を辿る。

映画フリークの頂点に立つQuentin Tarantinoのドキュメンタリーなのだから、さぞやマニアックな視点で語られているのだろうと期待していたのだが、要点は押さえているものの、残念ながら、新たな発見のようなものが無い。かと言って、Tarantino初心者に対しては説明不足だと思う。誰を対象にしたドキュメンタリーなのか焦点が曖昧な気がする。

Zoë Bell、Samuel L. Jackson、Diane Kruger、Christoph Waltz、Lucy Liuなど、彼の作品のお馴染みメンバーが登場し、Tarantinoへの賛辞を語るが、Uma ThurmanやJohn Travolta、Pam Grierといった重要な俳優が出演していないところに、現在の彼の評判が現れているような気がするのも、微妙な感じである。彼が批判された、Uma Thurmanの自動車事故やHarvey Weinsteinとの関係についても言及されるが、深追いはしない。

この食い足りなさは、劇場公開するドキュメンタリーとしては致命的だと思った。残念。



今のところ、座席運に恵まれ、強化月間は順調な滑り出しです。昔のブルーノート東京公演では、最前のブロックは早い者勝ちの自由席だったので、その日夜の良席ゲットを狙って早朝から列を作ったものです。今は全席指定になっているので、そのような愚行は必要なし(もっとも、その愚行が楽しかったのですが)。というか、今の暑さで列を作っていたら、命に関わりそうです…