IN/OUT (2024.3.31)

2023年度が終わり、新年度が始まります。私は、職場の都合で勤務場所が変わることに。これまでよりも片道1時間、通勤時間が長くなることに戦々恐々の今日この頃です。


in最近のIN

"Ghostbusters: Frozen Empire"24.3.29

Ghostbustersの新作を観てきた。オリジナル・バスターズの一員、Dr. Egon Spenglerの孫娘が主役になった2021年の「Ghostbusters: Afterlife」の続編になる。主役のMckenna Graceら主要キャストも続投。邦題は「ゴーストバスターズ フローズン・サマー」。

前作もそうだったが、どうもテンポが悪く、物語が整理されていない感じ。そして、”Who you gonna call?”でささやかな笑いを取るところも前作と同じ。この手の映画としては、驚くほど捻りが無いストーリーは、意外性ゼロ。正直、映画としては駄作としか言いようが無い。

ただ、出演者の芸達者ぶりで飽きさせない。Spengler一家の団結ぶりは微笑ましく、新加入のKumail Nanjianiが実に良い味を出している(何もかも凍らせる悪霊に対抗し、古代から人類を守ってきたFiremasterの末裔なのだ!)。しかし、何よりもカッコ良いのがオリジナルのバスターズの皆さん(これも、前作通りとも言えるのだが…)。Dan Aykroydが全編に渡って大活躍し、Annie PottsやErnie Hudsonも、しっかり見せ場を作っている。そして、出演時間は短いのに美味しいところを全て攫っていくのがBill Murray。もう、彼が登場しただけで、圧倒的な存在感を放つ。一見、老いぼれているように見えるが、まだまだ色気もカッコ良さも健在。やっぱり凄い役者さんだ。

と言うわけで、若い観客に受けるかどうかは疑問だが、リアル・タイムでオリジナル作にハマった人には、大いに楽しめる作品だ。


"Oppenheimer"24.3.30

Christopher Nolanの新作を観てきた。今年のアカデミー賞を席巻した名作だ。しかし、原子爆弾開発のリーダー J. Robert Oppenheimerという、日本人にとってはセンシティブなテーマのため、日本での公開は危ぶまれていた。ようやく公開されることになっても否定的な意見を表明する人も多くいるが、果たして…

Christopher Nolanの作品にしては、SF的設定もアクション・シーンもなく、骨太な伝記映画になっている。それでもNolanらしい堂々たる絵作り(もちろんIMAX Filmでの撮影だ)で、その力強さに圧倒される。

問題視されている広島への原爆投下を直接的に描いていない点については、私には、そのような批判は的外れに思える。これは、Oppenheimerという人間を、その複雑さをそのままに一人称視点で描き出す作品であって、核兵器の恐ろしさを啓発するための映画では無い(そのような視点を持つべきであることは当然だが)。と言うか、広島への原爆投下から続く一連のシークエンスは、これまでに観たどんな映画よりも核兵器を使用することの恐ろしさをあぶり出し、一般市民も巻き込んだ戦争の狂気を冷酷に抉り出す、誠実なシーンだと感じた。何でもかんでも、全てを映像で見せれば良いってものでは無いだろう。

もし、この作品が、原子爆弾の開発秘話を「プロジェクトX」のように描くものだったら、確かに日本公開なんかしなくて良かったと思う。しかし、原子爆弾の開発ストーリーよりも、戦後の赤狩りの時代、水爆開発に異議を唱えたOppenheimerが糾弾される様を、法廷サスペンスの如く、スリリングかつ残酷に描くところが重いのだ。3時間の長丁場、カタルシスが訪れないままに進む映画は、鑑賞するのに体力を要するが、観るべき作品だと思う。


「村治佳織 30th & 31st Anniversary Special Dinner Show 」@コットンクラブ24.3.31

コットンクラブ村治佳織のデビュー30周年記念のラスト&31周年のスタートを祝うライヴを観に、コットンクラブに行ってきた。3日間の日替わりメニューの中で、村治佳織と大林武司とのデュオ公演に参戦(他に、村治佳織ソロ+大林武司とのデュオ、村治佳織のトークとライヴというパターンが有り、どれも惹かれたが、日程的な都合でこれをチョイス)。

まずは、大林武司が選曲したというサンバの曲でスタート。普段の村治佳織のクラシック・ギターのイメージとはかなり違うが、そこは流石のテクニック。演奏後、「デビューしたての頃は、即興演奏は全く出来なかったが、渡辺香津美との共演で目覚めることが出来た」と語る。そして、「Moon River」、「Take Five」とジャズが続く。クラシック・ギターの名手が紡ぐジャズ・サウンドは、特に小さい音のニュアンスが繊細にして美しい。

4曲目は大林武司のソロで、ジャズ・スタンダード「East of the Sun (West of the Moon)」。彼のプレイを聴くのは初めてだが、MISIAのバンドマスターを務める実力者。端正なジャズを聴かせてくれる。

続いて、村治佳織のソロ。30周年記念ベスト盤作成の際に行った人気投票で1位になった「Cavatina」。映画”The Deer Hunter”のテーマ曲だ(Stanley Myers作曲)。ジャズ寄りの演奏から一転。クラシック・ギターの奥深い音色に引き込まれる。しみじみ良い曲だ。

大林武司とのデュオで、再び、ブラジルの曲。そして、村治佳織のオリジナル曲「バガモヨ ~タンザニアにて~」 。続けて、「島の記憶 ~五島列島にて~」。五島列島の印象から作られた「島の記憶」が、大林武司アレンジによって、カリブ海に向かい、キューバで消息を絶つ、という雰囲気になるのが、デュオ公演の面白さ。

本編ラストは、またも、ブラジルの楽曲「クルミン(子どもを意味するブラジル先住民の言葉)」。お二人とも、惜しみなくテクニックを繰り出した演奏だ。

アンコールは、村治佳織のソロで「 映画『ハウルの動く城』 から〈人生のメリーゴーランド〉」、そして、デュオで「映画『千と千尋の神隠し』 から〈いのちの名前〉」と、ジブリ作品で締める。特に、村治佳織による「人生のメリーゴーランド」は、これまでも何度かライヴで聴いているが、見事に彼女のものになっていると思う。今回も名演だった。

ということで、大いに満足したライヴだった。やはり、小さめのハコで村治佳織のギターを間近で浴びるのは至福。ただ、この日、渡辺香津美が脳幹出血のため、当面、治療に専念するというニュースが流れた(私も、参戦予定のライヴが1本中止になって、心配はしていたのだが…)。村治佳織と渡辺香津美の共演は、
2016年の「渡辺香津美 ギター生活45周年祭 ~Guitar Is Beautiful Special~」、
2017年の「渡辺香津美 meets 村治佳織」、
2018年の「渡辺香津美 meets 村治佳織 vol.2」、
2019年の「渡辺香津美 meets 村治佳織 vol.3
と、コロナ禍前には毎年のように観ていたので、そろそろ再演があるかと期待していたのだが…。渡辺香津美の快復をお祈りする。



通勤時間が長くなることだけでなく、贔屓にしていた店に行きづらくなったり、今の通勤路の途中でずっと進行中の建設工事の完成形を見られなくなったりするのも悔しいな。