IN/OUT (2022.8.7)

夏期休暇中に、実家の部屋の片付けを敢行しました。1970年代のハヤカワ・ミステリ・マガジン数年分など、もしかしたら高値が付くかと思ったものの、神保町のミステリ専門の古書店に問い合わせると、ミステリ・マガジンの在庫は膨大にあって、ほとんど値段は付かないとのこと…。それでも、状態の良さそうな本やLPレコードを、せっせと箱詰め。

本で、圧倒的に多いのはアガサ・クリスティーのミステリなのは記憶通りとして、次に多かったのが中島らも。自分でも驚くほどの冊数が出てきました。今では入手困難なものも多いとは思いますが、電子書籍以外での読書がすっかり苦になるお年頃なので、キッパリ処分。


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”BRIAN ENO AMBIENT KYOTO” @ 京都中央信用金庫 旧厚生センター22.8.2

京都中央信用金庫 旧厚生センターBrian Enoの大規模個展を観に、京都に行ってきた。

彼は、Roxy Musicの初期メンバーであり、Robert Frippと共作した"(No Pussyfooting)"や、David Byrneと組んだ"My Life in the Bush of Ghosts"などの傑作アルバムを生み出し、David Bowieのベルリン三部作(”Low”, "Heroes", "Lodger")に参加し、U2やTalking Heads、Coldplayらのアルバムをプロデュースし、Windows 95の起動音を「作曲」した才人。また、アンビエント・ミュージック(ambient music)の元祖という印象が強いのだが、最近では、ジェネレーティブ・ミュージック、さらに、それをヴィジュアルにも拡張した ジェネレーティブ・アート(generative art)に傾倒しているようだ。

京都中央信用金庫 旧厚生センター会場は、1930年に不動貯金銀行七条支店として竣工した築90年のビル。1970年に京都中央信用金庫が取得し、現在では、信用金庫の業務ではなく、こうしたアート展に用いられているようだ。このビル一棟丸々を使い、1階から3階のスペースに、Brian Enoの5作のインスタレーションが展示されている。

いずれも、音と映像が絶え間なく変化し続けるアート空間だ。3階の"The Ship"は、真っ暗な室内に、観客は靴を脱いで入る。部屋のあちこちに様々な形状のスピーカーが置いてあり、そこから、色々な音が流れている。暗やみに目が慣れれば、室内を歩き回ってそれぞれの音に耳を傾けるも良し、あちこちに置いてあるソファーに座ってじっくり聴くも良し。

最大の展示は、1階の”77 Million Paintings”。昔の信用金庫の高い天井まで十数本の木の柱が立ち、小さな砂山もしつらえてある。その大空間の壁面に、13個のスクリーンが配置され、投影される映像は常に変わり続ける。文字通り、77百万通りの組み合わせになるそうだ。流れる音楽も変化し続ける。

一番、気に入ったのは2階の”Light Boxes”。これは、小規模な部屋の壁に三つの半透明の箱がかけられ、LED光源で色が変わっていく。

”Light Boxes”の室内に流れる音楽は、展示室を結ぶ廊下や階段にも流れ続けている。これが"The Lighthouse"という作品。建物全体が、Enoが完璧にコントロールするアンビエント空間と化しているのだ。

京都中央信用金庫 旧厚生センターEnoが作り上げた空間を、観客は自分の意思で動く。訪れる時間と場所が異なることで、観る人ごとに違うアート体験をすることになる。エキサイティングな要素は無く、どこまでも落ち着いた内省的な展覧会だが、その居心地の良さたるや、さすがはEno。音色と色彩のセンスが本当に素晴らしく、長時間、この中に身を置き続けたいと思う。

会場には、昔からEnoが創り出す音楽に慣れ親しんでいたとは思えない若い世代の観客もたくさん訪れていた。結果、会期は当初の予定から2週間延長が決定したとのこと。この時期の京都の暑さは大変なものだが、さらに多くの人に体験してもらいたい展示だ。


"THE ROLLING STONES ROCK AND ROLL CIRCUS"22.8.5

Bunkamura ル・シネマThe Rolling Stonesが1968年に製作した映像作品を観に、Bunkamura ル・シネマに行ってきた。

この作品は、「ロックンロールとサーカスの融合」をコンセプトに、The Rolling Stonesが企画・製作したもの。Brian Jonesは、これがStonesとして最後のパフォーマンスとなった(この作品収録の半年後、Stonesを脱退。その直後に事故死)。また、ゲストが、Jethro Tull、The Who、Taj Mahal、Marianne Faithfull、The Dirty Mac、Ono Yoko & Ivry Gitlisという超豪華メンバー("The Dirty Mac"は、この作品のために John Lennon, Eric Clapton, Mitch Mithcell & Keith Richardsが結成したスーパーグループ。バンド名は"Fleetwood Mac"に掛けたもの)。しかし、完成後30年近く公開されなかった、いわゆる封印作品だった。今回は、2019年に制作された4Kレストア版(ル・シネマでの上映は2K)を、The Rolling Stones結成60年記念 & Charlie Watts追悼ということで、日本初の劇場公開である。

サーカス小屋を模したセットで、各ゲストの演奏、そして後半がThe Rolling Stonesの演奏。合間にちょっとサーカスの出し物も挿入されという趣向。映画と言うよりは、TVの音楽特番という雰囲気だ。

皆の演奏は、やはり素晴らしい。この作品が封印されていたのは、The Whoの演奏が圧倒的で、Stonesが霞んでしまったからだという噂があるが、それも本当かと思われるPete Townshendの風車奏法とKeith Moonの全身を使ったドラミングは圧巻。John Lennonがとてもリラックスした表情で楽しんでいるのも印象的だ。もちろん、Stonesの活きの良い演奏も楽しい。

ただ、劇場で観る作品としては、いささか肩透かし感もあるかな。


"THE ROLLING STONES CHARLIE IS MY DARLING IRELAND 1965"22.8.5

The Rolling Stones結成60年記念 & Charlie Watts追悼でもう一本、ル・シネマで連続鑑賞してきた。こちらは、1965年のアイルランド・ツアーを追った、Stones最初の公式フィルムの再編集レストア版。日本初の正式劇場公開である。

1965年という事は、まだデビュー3年目。「(I Can't Get No) Satisfaction」がNo.1ヒットになった直後、モンスター・バンドに化ける直前の、勢いに乗っている頃の記録だ。収録されたツアー 1本目の公演は、熱狂した観客が暴動状態になり、大怪我を負う人も出るし、ステージ上に乱入し暴れる奴らも続出。結果、公演は途中で中止になる。まだ、彼らのライヴ会場は巨大ホールやスタジアムではなく、普通の劇場でやっていた時期。観客も、ライヴでの熱狂のやり方に慣れていなかった時代ということだろう。

ライヴ・シーン以外に見所は多い。休憩中に、Keithがつま弾くギターにMickが合わせる様子は、純粋に音楽好きの若者達という風情が微笑ましい。この頃は、本当に仲良さそうだ。また、インタビューになると、Mickのインテリぶりが露わになる。一方、Brian Jonesは、いかにも付き合いづらそうな雰囲気だ。移動中の列車(禁煙の一等車)で傍若無人に煙草を吸い、大声を上げる迷惑ぶりも、当時のロック・スター然としていて憎めない。

ドキュメンタリー映画としては、いささかテンポが悪い気もする。2012年に再編集2Kレストア版を制作した際に、新たに発見されたステージ映像などを付け加えたせいかもしれない。しかし、あの時代の熱量は、しっかりと伝わってくる。



学校卒業後、ほとんど片付けていなかっただけに、他にも、甘酸っぱかったり、塩辛かったり、苦かったりする思い出が詰まったあれこれも発掘するものの、見始めるとキリが無いので、処分処分。