IN/OUT (2019.10.27)

10月から、仕事が増えて忙しくなっているのですが、一方で、年末に向けてイベントや観たい映画が目白押し。なんだか、色々と飽和気味の今日この頃です。


in最近のIN

"Yesterday"19.10.22

Danny Boyle監督の新作を観てきた。

全世界を襲った謎の停電。その瞬間、交通事故に遭い、意識を失っていた主人公が目覚めると、そこは「The Beatlesが存在しない世界」だった。という奇想天外の設定の作品だ。売れないシンガーソングライターだった主人公は、世界中で自分だけが知っているThe Beatlesの楽曲を自作曲として発表することで、世界的スターへの道を歩み出す。

あり得ない設定の世界を描きながら、風呂敷を拡げすぎない、ほのぼのとした展開。Danny Boyleらしいキレの良いカット割り。そして、効果的に使われるThe Beatlesの楽曲。全編を通じて、とても心地よい映画だ。The Beatlesが居なければ、(影響を受けている)あのミュージシャンはどうなるんだ?という音楽好きなら誰しも抱きそうな疑問への解も示され、ニヤリとさせるところも上手い。

さらに、映画の後半、あの人の登場には、Tarantinoが"Once Upon a Time... in Hollywood "に込めた映画愛と同様の、Danny BoyleのThe Beatles愛が詰まっていて、泣けてくる。

主人公を支えつつけてきた幼なじみを演じているのが、Lily James。今回も、彼女の出演作にハズレ無しを確認したとも言える。また、本人役で楽しそうに演技するEd Sheeranも、良い味を出している。

ストーリーには、詰めが甘いところも目立つのだが、そういうことに目くじらを立てるのも野暮に思える、多幸感の溢れる映画だ。


"Crawl"19.10.22

ハリケーンによる洪水の危機が高まるフロリダで、ヒロインがワニに襲われるという、いかにもB級の香りがプンプンする映画を観てきた。邦題は「クロール ―凶暴領域―」

荒々しいハリケーンの描写を、今の日本で観るのは辛いという面はある。特に、堤防決壊の危機が迫る中、自分だけは大丈夫と高をくくって災害に巻き込まれるという問題行動を取る主人公には、感情移入しづらい。

ただし、物語の主題は、ワニとの戦い。それも、洪水で閉じ込められた家の中という限定された空間というのが効いている。主人公と犬は、いくらダメージを受けても死なず、周囲の人たちは、実にあっさりと、次々に殺されていくのも、いかにもB級っぽくて、むしろ好印象。

中々緊張感のある良い作品だと思う。ただ、(ネタバレになるが)ラストに、それまでの展開と全く無関係に、Bill Haley and the Cometsの能天気ソング "See You Later, Alligator"が流れて、雰囲気ぶち壊し。ワニの映画という事で、製作者の頭に浮かんだのは理解できるが、実際に使わなくても…。まぁ、それも含めてのB級快作だ。


J. LAMOTTA SUZUME @ ブルーノート東京19.10.24

モロッコ出身の両親の元、イスラエルに生まれ、現在はベルリンを拠点に活動する女性シンガー / ビートメイカー、J. Lamotta すずめのライヴを観に、ブルーノート東京に行ってきた。

実のところ、彼女については殆ど知らなかったのだが、ブルーノート東京店内で流れていたミュージック・ヴィデオを観て興味を惹かれたのだ。そのキュートなルックスは勿論、名前が「すずめ」? 調べてみると、ベルリン在住の日本人に教えてもらった言葉だそうで(その裏には、彼女自身が体験したエピソードが深く関わっているらしい)、紛れもなく「すずめ」なのである。

開演。舞台に登場したバック・バンドは、キーボード、ベース、ドラムス、パーカッションの四人。そして、すずめ嬢。ヴィデオで観ていたよりも、さらに可愛い。いくつかの曲では、コルネットも演奏しつつ、歌う。ソウルやヒップホップのニュアンスと、ナチュラルなポップス的な印象とのバランスが、実に、丁度良い感じ。歌唱力が圧倒的だとか、ビートががヤバいとか、凄い曲があるとか、そういった突出した所は無いのだが、全体として、とても良いのだ。あっという間に時間が過ぎる。

我ながら、単純にも彼女の可愛らしさにやられてしまったかとも思ったが、今回の来日にはPeter Barakanも一役買っているらしい(彼が主催したイベント"Live Magic"に出演)。Barakan氏のお眼鏡にかなうのだから、やはり本物だ。今後も要注目の女性ミュージシャンとして積極的に応援していきたいのである。


The Best of Italian Rock Vol.9 Claudio Simonetti's Goblin" @ CLUB CITTA'19.10.25

イタリアのプログレッシブ・ロック・バンド Goblinのライヴを観に、川崎のクラブ・チッタに行ってきた。

Goblinというバンドは、映画音楽、それも、Dario Argento監督のホラー映画のサントラが活動の中心である。ということで、ライヴは二部構成。第一部は、彼らが音楽を担当した"Suspiria"を全編上映しながら、彼らがライヴ演奏でサントラを再現し、第二部は彼らのベスト・ヒッツ・ショーという趣向。このライヴは、ここ数年、ハロウィーンの時期の恒例行事となっており、私も"Dawn of the Dead(邦題「ゾンビ」)"を上映した昨年に続いての参戦である。

舞台に登場したメンバーは4人。バンドの中心メンバーであるキーボードのClaudio Simonetti、ギターのBruno Previtali、ベースのCecilia Nappo、そして、ドラムスのFederico Maragoni(ドラムスのみ、昨年の来日メンバーから交代)。なお、インストゥルメンタル・バンドなので、ヴォーカルはいない。

第一部、"Suspiria"の上映開始。全編上映なので、99分間、バンドも出ずっぱりで演奏しっぱなし。何度も観ている映画だが、やはり、色彩設計も、カット割りも、ストーリーも、役者の演技も、全てが狂った映画である事を再認識(褒めてます)。その狂気を増幅するのが、映画のサウンドとはアンバランスな大音量のライヴ演奏。この相乗効果は中毒性高し。

映画が終わって30分の休憩の後、第二部開始。「ベスト・オブ・サウンドトラックス&モア!」と題して、彼らのサウンドトラック曲を、後ろのスクリーンに映像を流しながら、たっぷりと演奏。いかにもイタリアン・プログレという感じの音色は心地よいし、演奏技量も高い。新加入のドラマーと紅一点のベーシストのステージ・パフォーマンスも熱いのだが、いかんせん、私の視線は、後ろのスクリーンに映されるホラー映画のグロいシーンに釘付けである。

ということで、22時過ぎまで、たっぷりとホラー映画とホラー・サウンドを堪能。良い感じにマニアックなイベントだった。


「~映画公開40周年&大野雄二 音楽活動55周年記念 オフィシャル・プロジェクト~ 映画『ルパン三世 カリオストロの城』シネマ・コンサート! and ベストヒット『ルパン三世』ライブ!」@パシフィコ横浜国立大ホール19.10.26

生演奏でサウンドトラックを再現しながら「ルパン三世 カリオストロの城」を上映するというイベントを観に、パシフィコ横浜国立大ホールに行ってきた。

流石、国民的アニメ監督 宮崎駿の最高傑作(だと私は思う)のシネマコンサート。ぎっしり満員の会場(キャパ 5,002席)には、見るからに善男善女が集まっている。前日の、狂ったホラーとマニアック・ロックによるシネマコンサートに集結した、癖の強い客層とは大違いである。

ルパン三世の劇伴と言えば、You & Explosion Band(オリジナル・メンバーの、ベースのミッチー長岡と、ドラムスの市原康は、まだ現役)。そこに、西谷亮が指揮するオーケストラが加わる大編成のミュージシャンが舞台に並ぶ。もちろん、ピアノは大野雄二(御年 78歳)だ。

上映が始まる。テーマ曲「炎のたからもの」も、コーラスのFujikochansを従えて沢城みゆき(現在の峰不二子役の声優さん)が、ライヴで歌う。アニメの場合、効果音的に使われる音楽も多く、画面との同期が、普通の劇映画よりシビアだと思うのだが、完璧。演奏者と指揮者、全員が凄い技術だと思う。もちろん、映画自体も、何度観ても、素晴らしい作品だ。

映画が終わると、20分間の休憩後、第二部。松崎しげる(角川映画 シネマ・コンサート」と同じだ)と沢城みゆきを交えたトークも含め、ルパン三世関連の曲が披露される。大野雄二は、このライヴのために2ヶ月半かけて、自分の作品を自ら耳コピして(40年前の楽譜は残っていない)、総重量10Kgの楽譜を書き上げたという。

アンコールは、大野雄二のピアノ・ソロで、「ルパン三世 愛のテーマ ~ 炎のたからもの ~ ルパン三世のテーマ」のメドレー。

ルパン、次元、五右衛門、不二子、銭形のキャラクター。そして、この音楽は、多くの日本人にしっかりと刷り込まれているに違いない。つくづく、凄い作品だと再認識するイベントだった。


"2.0"19.10.26

"Super Star" Rajinikanth主演の映画を観てきた。大ヒット作「Endhiran(ロボット」の続編である。削ぎ落とした原題と違い、邦題は「ロボット2.0」(実は、映画の中で、"2.0"という言葉自体が効果的に働く部分があるので、「ロボット」は余分なんだけどなぁ

突如、人々の手元からスマートフォンが飛び出して、通信業界の大物らを殺害。さらに、空中で合体し、巨大な鳥となって街を襲うという異常事態が発生(文字にすると、本当に意味不明の異常事態だな)。この事態に対処できるのは、前作のラストで、博物館展示となったロボット Chittiしかいない! ということで、Chittiを再起動。Rajniが二役で演じる博士とChitti、さらに、博士の新発明、女性型ロボット Nila(演じるのは Amy Jackson)が大活躍するというお話。また、ヒーローや善人キャラが定着している大物俳優 Akshay Kumarが悪役を演じているのも、インド映画ファンには見所だ。

映画の中盤、Akshay Kumarが演じる鳥類学者が、いかにして悪役となったかを語るサイド・ストーリーが延々と続いて、物語のリズムを悪くしているところは、インド映画に馴染んでいない人には辛いかもしれないが、前作以上に、派手な特撮で見せてくれる大娯楽作だ。

ただし、これは、Rajniの映画ではなく、あくまでもShankar監督の作品だと、私は感じる。もちろん、Rajniのカリスマ性が無いと成立しない映画ではあるが、前作のヒットで、さらに巨額の予算を使えることになったShankar監督のやりたい放題がぎっしり詰まっているのだ。圧倒的な特撮も、意外に真面目な社会派メッセージも、さらには Rajniすらも、全てが壮大な無駄遣いという気がしてくる。そこが憎めないのだが…。本当のRajniの魅力は、こんな物じゃ無いと、強く主張しておきたい。

ラストの対決になると、いよいよ監督の妄想爆発という感じになってくるのだが、一方で、タツノコアニメのファンにとっては、既視感があるというのも、憎めないな…



色々詰まった一週間でしたが、"2.0"の中で、雀が重要な場面に登場していて、ちょっとしたシンクロニシティを感じる、今日この頃です。