椅子に座り、背を丸め、足下の沢山のエフェクターを操りながら、一音入魂という気迫で攻撃的とも言えそうな鋭角的なギター・サウンドを繰り出しつつ、矢野さんとのアイ・コンタクトに暖かい人柄がにじみ出ている、という感じがします。
様々な形状のスティックを使い分け、時には三本同時に使い、またあるときはドラムに布をかぶせて音を変え、足には鈴。そのサウンドは、ドラムスと言うより、太鼓の如く。こういうタイプのドラマーは初めて見ましたが、強烈な印象を残しました。
ベーシスト抜きで録音された"akiko"には参加していない、言わば、助っ人的役割ながら、実に的確なプレイを披露されていました。
三週間、風邪をひきっぱなしということで、途中ティッシュをお客さんにもらうことになるかも、と心配されていましたが、その心配は杞憂に終わりました。聴いている分には、声の方にも風邪の影響は無かったようです。
舞台向かって左にピアノ、中央にベース、ドラムス、一番右がギターという布陣。ベースのJenniferさんは高い椅子に腰掛け、ギターのMarc氏はもっと低めの椅子にしっかりと座ってのプレイ。舞台のあちこちに、収録用のTVカメラがセットされている。
まずは一曲目「しまった」から演奏開始。アルバムでも独特のサウンドを聴かせていたJay氏のドラムスは、生で聴くと、ほんとに太鼓のような存在感。そして、リズム隊がバックを固めている分、Marc氏のギターは、ブルーノート東京でのライヴよりも、さらに変幻自在に飛び回っているようだ。それにしても、Jay氏、曲によって、スティックを変えたり、ドラムに布をかぶせたり。矢野さんよりもJay氏の方に目が釘付けになってしまう。
Marc氏がバンジョーに持ち替え、ブルーノート東京でも披露した「Saginaw, Michigan」。続く、「The Wall」では、初日のせいかTVが入って緊張されたのか、はたまた、この三週間抜けていないという風邪のせいか、歌詞がグダグダに…。そして、「The Wall」のラストで、ピアノ演奏が続く中、バンド・メンバーがステージを去り、そのままソロに突入。
二曲のソロの後は、Marc氏と二人。静かなインプロビゼーション風の導入から、「Rose Garden」。二人の緊迫した掛け合いがスリリングだ。それにしても、この曲、どこまで進化してしまうのか。
JenniferさんとJay氏も戻り「Whole Lotta Love」。炸裂するギターと唸るドラムス。これはもう、ヘビーなオルタナティブ・ロックである。
続く「いい子だね」で、再び歌詞がグダグダになりかけたりしながらも、"akiko"からの曲が続く。「When I Die」の後半は、まさにバンド・サウンドの真骨頂。そして、このバンドで演るとは予想していなかった「ラーメンたべたい」。ソロとも、さとがえるトリオとも違う、このメンバーの個性が生きた新鮮なアレンジだ。
本編ラストは、これまた予想外の「ふなまち唄」。Jay氏のドラムが太鼓、Marc氏のバンジョーが三味線のように聞こえる前半から、演奏はどんどん迫力を増していき、後半、Marc氏がエレキギターに持ち替えてからは、怒濤の展開。バンドの三人が「ラッセーラー」の掛け声を叫び、それをバックに矢野さん退場。三人でバシッと演奏を締め、本編終了。
衣装と髪型を変えて再登場。アンコール一曲目は、広島の「第九」イベントで歌う予定という「故郷の人々」。そして「変わるし」で全て終了。
アルバムの出来の良さから期待値は高かったが、"akiko"の収録曲は、当然のように、こちらの期待を軽く上回る出来。さらに、あのメンバーで、"akiko"以外のどんな曲を演奏するのかを楽しみにしていたのだが、バンドの個性を活かした「ラーメンたべたい」と、このバンドのために作ったのではないかと思えたほどはまっていた「ふなまち唄」。この二曲が聴けたこと、本当に大収穫だ。
新アルバム発売後ということもあってか、NHKホールは満員。一日といわず、土日二日間、やってもらいたかった、とつくづく思う充実の公演だった。
松本さん、金田さん、ありがとうございました。